魔王の霊魂を背負う少女

アベルンルンバ

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第三章 少年と悪魔と番人

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──────グランドシオル全面魔王大戦。

『魔王を名乗りし者。世界に厄災を降り注ぎ、グランドシオルの終焉を告げる』

 人族と魔族が争う数十年に渡って続いた大戦は、両軍共に大量の生命が剣と魔法によって惨たらしく殺められた。死体は砂礫のように散らばり、かつて澄んでいた大河は紅に染まり、相互扶助が枢要だった坦々たる世界は崩壊寸前。空は澱み、暗く光を失ったその色は、まるで世界そのものが暗黒冥界に変貌したかのよう。此処彼処で黒煙が立ち込め、大地を鳴動させる爆撃が昼夜問うことなく降り注ぐ。今の時代に緑はなく、目の前の一切は炎で洗い流され、生命は轟きの中で滅び、物言わぬむくろへと変わっていく。
 魔王軍の進軍により、各地は次第に占領されていった。世界の邪王の前では絶命しかなく、助かるためなら人間は降伏し、奴隷となる方が良いと考え始める者もいた。世界で随一の戦闘力を誇る魔族を前に、あらゆる勢力をもってしても反撃は叶わなかったからだ。
 遂に人族、巻き込まれた他種族は滅亡の危機に陥るが、一筋の光が戦争に終止符を打ったのだ。
 ───人類の希望であった勇者が魔族の王を討ち、世界に永遠とわの光を齎した。
 だが、それを引き換えに彼の輝かしい人生は幕を閉じた。
 そして、戦後に発見された勇者が書き残したと言われる書物には、こう記されていた。
『勇者の称号を持つ者は、魔族の王を討つ力がある。未来にまた、同様の悲劇が繰り返されることがあるなら、これを胸に刻め。命を燃やせ。剣に力を託せ。希望を託せ。世界を救うために存在する勇者ならば、己の命をかけても厭わないだろう』
 ────これは勇者ノマール、魔王マリアネの大戦記である。
 これを偉大なる光の子の地下墳墓に書き記し、未来の勇者に託すものとする────

「だってよ。AIさん? これ、この世界のラノベかなにか?」
《いえ、健太様。これは実話ですよ。二百年前にこの戦争が、実際にあったのです》
「マジか……すげえな」
 大戦から長い時を経て、太平のグランドシオルは続いていた。
 ある日、地下深いどこぞの洞窟で、一人の少年が彷徨っていた。彼はそこで偶然発見した不自然に彫られていた壁画や文字を眺めて、頭を悩ませている。
「まさか、転生した洞窟にこんな大戦記が……」
《今まで情報不足でどういった洞窟やダンジョンか不明でしたが、解析がようやく完了致しました。どうやらここは古代の人間が建設した、勇者の地下墳墓のようです》
「勇者の……墓場か」
 ほほう、といった様子で顎を触るように、少年──健太は再び壁画を眺める。
《今はグランドシオルの重要文化財で、立入禁止とされています》
「じゃあなんで僕はこんなところに転生しちゃったの……クソッタレが」
 健太はグランドシオルの人間ではなく、異世界からの転生者だ。
 普通、転生するとなると肉体は生前のものとは異なるはずで、人間とも限らなくなる。不思議なことに、健太は生前の青年期として勇者の地下墳墓に繋がる洞窟に生まれ変わり、そもそも転生者として母の腹から生まれず、目が覚めたときには肉体があった。
 もはや、それは転生と言えるのか。かといって転移者とも言えるのか、召喚者とも言えるのか。健太の身に起こる事は、不可解の連続であった。
「一ヶ月くらい洞窟をさ迷ってたけど、上に行くに連れてこんなものがあるなんて」
《聖域たる勇者の墳墓に踏み入ることは固く禁じられています。劣化具合を見るに、恐らく墳墓が造られて以来、誰もここに足を踏み入れていませんね。今では中部を知る者もいないはずです》
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