魔王の霊魂を背負う少女

アベルンルンバ

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第三章 少年と悪魔と番人

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「でも君も君だ。ダメじゃないか、勝手に主の墳墓に足を踏み入れちゃ。今は重要文化財にされていて侵入できないんだろう? さらには聖剣にまで触れるなんて」
「いや、ちがっ……はい……そうですね。ごめんなさい」
「素直な子は嫌いじゃないよ。でも、これからは気をつけるんだぞ。すぐに出してあげるから……出して……」
 突然、ベナゲードは顔から血の気を失い言葉を詰まらせた。
「どうした、ベナゲード」
「……ダメだ。え、えっと、封印維持が大変って話したよね。一度でもこの空間に出口を作ればさ、同時にマリアネも解き放たれちゃうんだ……。君……出れないよ」
「………」
 ただでさえ寂寥たる空間に、追い打ちをかけるような沈黙が襲う。
「お主、責任感というものをだな」
「し、仕方ないでしょ! あんたをここに留めるだけで精一杯なんだから! 出口作っちゃったら封印が維持できなくなっちゃう。簡単な話、あんたが弱くなればいいのよ!」
「無理に決まってるだろうが!」
 再び、ベナゲードとマリアネはいざこざを披露し始めた。
「こ、この────ムムム!」
 マリアネは人差し指でベナゲードの口元を押さえると、健太を見ながら長考する。
「……まあまて、まずはこやつをどうにかせねばならん。少年、私達は頼りにならんかもしれん。だが、こんな私でも無関係な人間を放って置くのは胸くそ悪い。番人と何とかするから、そんなにしょんぼりしないでくれ」
「いや、別に……」
 マリアネは魔王らしくもない懇篤な言葉を健太にかけた。
「なんか、魔王と聞いて怯えていた自分が不思議です。こんなにもマリアネさんは優しいなんて。二百年前に戦争を起こしたとは思えないくらい」
「そりゃ、マリアネは別に世界を────うぐぐぐっ!」
 何か喋ろうとしていたベナゲードをマリアネは片手で鷲掴みにした。懐にささっと突っ込むと、気が抜けたように胡座をかく。
「まあ、座れ」
 マリアネは隣をトントン、と叩いて健太を促す。
「気晴らしだ。少し……この、魔王マリアネの話を聞いて欲しい。いいか?」
「俺がですか。まあ……」
 健太は恐る恐る、マリアネの隣で腰を下ろした。
「愚問かもしれないが、やはり人間の君から見て、魔族、私という魔王を危険と見るか? 存在しなくてもよい種族だと思うか」
「えっと……」
 マリアネは取って付けたような笑みを浮かべて、虚無の空を仰ぐ。
「これは約二百年前、魔王大戦が勃発する前の話。ユリシーレの絶対によって、全ての種族は互いに支援し、共生してきた。光で満ち溢れていた時代は、むしろ退屈なくらいに平和だったさ。その頃は……私がちょうど魔王に君臨した時だったっけな」
「やはり、人間と違って寿命がすごく長いんですね」
「そうだな。私は人間で言うと……十五歳くらいか。でも、任命された当初はまだまだ中身が子どもでな。国民からは批判の嵐が飛び交った。私は魔王に任命された年齢が、過去一番に若年だった。だから、子どもである私を支持する国民はなかなかいなかった」
「マリアネさんの前の魔王は?」
「無論、逝去された。関わりはあまりなかったが、私の祖父だ。普通なら、私の両親のどちらかが魔王として任命されるはずだった。でも、適正がなかったらしい。逆に私は魔王に相応しい力を保有していた。だから、私が魔王に任命されるしかなかったんだ。それでも、私は魔王として必死に努力して、国民からも支持を得るようになっていった。そして、やっと一人前になれたんだ。嬉しかった。やっと認められたんだって……。だが、不幸はその数年後だった」
「……何か、あったんですか」
「まず、一つ聞いておこう。君は二百年前に起きた戦争が、どういう目的で始まったか見当がつくか?」
 いきなりマリアネは話の腰を折るような質問を投げかける。
「えっと……マリアネさんが世界をものにしようとしたんじゃ─────」
「平和を築きあげていた時代を壊してでも、私が世界を欲したと」
「た、確かに。え、じゃあ……」
 当事者のマリアネが語るに、明らかな矛盾が発生している。全ての種族が共に励み合った時代を潰し、世界を征服して何の意味があるだろうか。
「事故だった。いや、正確に言えば私が悪い。早計だったんだ。まったく、魔王ってのは『審判を下す者』として崇められる存在だというのに、私は一体何を……」
「んーぷはっ! ま、マリアネは世界を征服しようとして戦争をしたわけじゃないんだ」
 マリアネの懐から顔を出して、ベナゲードは苦しそうに言う。
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