24 / 82
第三章 少年と悪魔と番人
5
しおりを挟む
「うーむ。何故だ。勇者でもない君がどうしてこの空間に」
「あ、あの、僭越ながら申し上げますが……」
「ん、よいぞ。謙遜せずとも、私は答えよう。だから、肩の力を抜け」
「え、は、はい」
と言われても、魔王が面前に立っているとなると、どうも気が引ける。
「え、えっと────」
「こらーっ! マリアネぇぇぇ!」
いざ健太が言葉を発しようとした時、遠方から声が響き渡った。
「うん? おお、やっと来たか」
「もう、いきなりなんでどっか行くのよ!」
手を腰に当てながらふっくらと頬を膨らまし、マリアネにご立腹の様子で現れたのは、掌に収まるほどの小さな妖精だった。
「君が遅いんじゃないか。のろま~」
「なんだとっ⁉ こ、このぉ……っ、ん。それは……人?」
妖精は健太の存在に気づき、首を傾げてマリアネに問う。
「見たら分かるだろう。お前が入れたのではないのか? 見たところ特別な力もない、ただの人間だ。ならばお前の空間に侵入できるわけがないだろう」
「え、ええ? そんなバカな事が……あぁ!」
すると妖精は何かに気がついたようで、酷く青ざめた。
「マリアネの封印に全力を注いでたから、外部からの接触遮断ができてない……。ま、まさか二百年間ずっと⁉ 気が付かなかったのかな……」
「要するにお主が悪いんだな。私は悪くないんだな、よし」
「なにぃ⁉ 元はと言えばあんたが世界を混乱させて────」
マリアネと妖精は突如、見苦しい諍いをおっ始めた。
妖精は息のように毒を吐くが、マリアネはそれに一切耳を傾けず黙殺する。
「はぁ、はぁ」
「言いたいことは言えたか、おチビちゃん?」
「ってか、ちゃんと聞いてたの⁉ ねえぇぇ────ッ⁉」
(な、なんなんだこいつら……)
《とにかく、様子を伺うほうがよろしいかと》
ひとまず、健太は二人の悶着が終わるまでじっと待つことにした。
「────まったくなんなんだい、君ってやつは」
「分かった、分かった。とりあえず落ち着け。ほら、あの子を見てみろ」
マリアネは今にも意識を失いかけていた健太を指差す。
「うんこみたいなあんたの話で、死にそうな顔してる。きっと内心、おもんねえなーこのチビ、とか思われてるぞ! この小人はセミみたいによく鳴くなー、とか! がはは!」
「ムキィィィィィ! うるさいわっ! あんたと話してたら時間の無駄! ちょ、君!」
「……は、はい!」
妖精は苛立ちを帯びたかたい表情を一度弛緩させて、改めて開口する。
「君はどうしてここに? ていうか、勇者の剣に触れたってことは、君は今、墳墓に来ているの?」
「は、はい。誤って踏み入れてしまって……」
「そう。とりあえず自己紹介。私は聖剣ベナゲード。君が触れた勇者の剣、その番人だ」
「あなたが番人でしたか!」
どうやらこの妖精こそ、健太の固有能力が言っていた番人──ベナゲードらしい。
「で……私の横にいる、うんこよりも位が低いこいつが……名乗る価値もないか……」
「んだとてめぇ! 私はマリアネって名前があるんだが!」
声を荒げるマリアネに、知ったことかと言わんばかりにベナゲードはそっぽを向いた。
「なんか実感がないですよ。かつて最も恐れられていた魔王が俺の目の前にいるなんて」
「はっはっは! そこまで褒められると少し照れるな~」
「今の、どこが褒められてると思った?」
ベナゲードは呆れて、つまめるほどの手でやれやれと頭を抱える。
「聞きたいのですが、俺はどうして神器の中に……」
「ごめん。それに関しては、私の不手際が原因」
いきなり番人は健太に向かって頭を下げる。
「ここは聖剣の中。そして、神器で唯一私だけ、ここを封印場所として使える」
「封印場所……?」
「ああ。こいつ、マリアネは二百年前、グランドシオルを征服しようとした魔王だけど、最後に我が主、勇者ノマールが命を燃やして、マリアネをベナゲードに封印した。勇者は魔王を討伐することはできなかったけど、マリアネを無力化することに成功したんだ」
「なるほど……だからマリアネさんはここに」
「そうさ。しかし、こいつは暴君そのものでね。私がここに閉じ込めておくのもやっとなのさ。私はこの空間の領主だ。全力でマリアネを閉じ込めておいたばかりで、他の役割を放棄していた。そのせいで、空間の侵入口が剥き出しだったんだ……」
「だから、特別でもない俺が触れてもあなたの世界に接続できたと……」
「くう、主め……こんな大役を任されるなんて聞いてないっ!」
「まあ、そういう事らしいぞ。私を封じ込むためにベナゲードは全力を注いでいたから、他の事は疎かにしていたようだ。だから、君がこいつの空間に入ってしまった」
「納得できるような、できないような……」
結局、健太が神器の世界に侵入できた理由はベナゲードのうっかりということだった。
「あ、あの、僭越ながら申し上げますが……」
「ん、よいぞ。謙遜せずとも、私は答えよう。だから、肩の力を抜け」
「え、は、はい」
と言われても、魔王が面前に立っているとなると、どうも気が引ける。
「え、えっと────」
「こらーっ! マリアネぇぇぇ!」
いざ健太が言葉を発しようとした時、遠方から声が響き渡った。
「うん? おお、やっと来たか」
「もう、いきなりなんでどっか行くのよ!」
手を腰に当てながらふっくらと頬を膨らまし、マリアネにご立腹の様子で現れたのは、掌に収まるほどの小さな妖精だった。
「君が遅いんじゃないか。のろま~」
「なんだとっ⁉ こ、このぉ……っ、ん。それは……人?」
妖精は健太の存在に気づき、首を傾げてマリアネに問う。
「見たら分かるだろう。お前が入れたのではないのか? 見たところ特別な力もない、ただの人間だ。ならばお前の空間に侵入できるわけがないだろう」
「え、ええ? そんなバカな事が……あぁ!」
すると妖精は何かに気がついたようで、酷く青ざめた。
「マリアネの封印に全力を注いでたから、外部からの接触遮断ができてない……。ま、まさか二百年間ずっと⁉ 気が付かなかったのかな……」
「要するにお主が悪いんだな。私は悪くないんだな、よし」
「なにぃ⁉ 元はと言えばあんたが世界を混乱させて────」
マリアネと妖精は突如、見苦しい諍いをおっ始めた。
妖精は息のように毒を吐くが、マリアネはそれに一切耳を傾けず黙殺する。
「はぁ、はぁ」
「言いたいことは言えたか、おチビちゃん?」
「ってか、ちゃんと聞いてたの⁉ ねえぇぇ────ッ⁉」
(な、なんなんだこいつら……)
《とにかく、様子を伺うほうがよろしいかと》
ひとまず、健太は二人の悶着が終わるまでじっと待つことにした。
「────まったくなんなんだい、君ってやつは」
「分かった、分かった。とりあえず落ち着け。ほら、あの子を見てみろ」
マリアネは今にも意識を失いかけていた健太を指差す。
「うんこみたいなあんたの話で、死にそうな顔してる。きっと内心、おもんねえなーこのチビ、とか思われてるぞ! この小人はセミみたいによく鳴くなー、とか! がはは!」
「ムキィィィィィ! うるさいわっ! あんたと話してたら時間の無駄! ちょ、君!」
「……は、はい!」
妖精は苛立ちを帯びたかたい表情を一度弛緩させて、改めて開口する。
「君はどうしてここに? ていうか、勇者の剣に触れたってことは、君は今、墳墓に来ているの?」
「は、はい。誤って踏み入れてしまって……」
「そう。とりあえず自己紹介。私は聖剣ベナゲード。君が触れた勇者の剣、その番人だ」
「あなたが番人でしたか!」
どうやらこの妖精こそ、健太の固有能力が言っていた番人──ベナゲードらしい。
「で……私の横にいる、うんこよりも位が低いこいつが……名乗る価値もないか……」
「んだとてめぇ! 私はマリアネって名前があるんだが!」
声を荒げるマリアネに、知ったことかと言わんばかりにベナゲードはそっぽを向いた。
「なんか実感がないですよ。かつて最も恐れられていた魔王が俺の目の前にいるなんて」
「はっはっは! そこまで褒められると少し照れるな~」
「今の、どこが褒められてると思った?」
ベナゲードは呆れて、つまめるほどの手でやれやれと頭を抱える。
「聞きたいのですが、俺はどうして神器の中に……」
「ごめん。それに関しては、私の不手際が原因」
いきなり番人は健太に向かって頭を下げる。
「ここは聖剣の中。そして、神器で唯一私だけ、ここを封印場所として使える」
「封印場所……?」
「ああ。こいつ、マリアネは二百年前、グランドシオルを征服しようとした魔王だけど、最後に我が主、勇者ノマールが命を燃やして、マリアネをベナゲードに封印した。勇者は魔王を討伐することはできなかったけど、マリアネを無力化することに成功したんだ」
「なるほど……だからマリアネさんはここに」
「そうさ。しかし、こいつは暴君そのものでね。私がここに閉じ込めておくのもやっとなのさ。私はこの空間の領主だ。全力でマリアネを閉じ込めておいたばかりで、他の役割を放棄していた。そのせいで、空間の侵入口が剥き出しだったんだ……」
「だから、特別でもない俺が触れてもあなたの世界に接続できたと……」
「くう、主め……こんな大役を任されるなんて聞いてないっ!」
「まあ、そういう事らしいぞ。私を封じ込むためにベナゲードは全力を注いでいたから、他の事は疎かにしていたようだ。だから、君がこいつの空間に入ってしまった」
「納得できるような、できないような……」
結局、健太が神器の世界に侵入できた理由はベナゲードのうっかりということだった。
0
あなたにおすすめの小説
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧井 汐桜香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから
渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。
朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。
「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」
「いや、理不尽!」
初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。
「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」
※※※
専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり)
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる