魔王の霊魂を背負う少女

アベルンルンバ

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第五章 教官ツルカ率いるギルド、危険種と遭遇する

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「……乗ってくれるか。助かる」
「へっ、魔力石が報酬ならなぁ? ま、日々騎士団に目ぇ付けられることしかしてねえし、今さらって感じだな。今まで人殺しもしてきたが、俺の能力の前では騎士団の奴らも手の施しようがねえ。だから、何をしたって俺は自由ってわけさ。クロックを殺したところで、俺の生活が変わるわけでもねえ」
 バルドロスは最もSランク冒険者の一位候補として名を寄せている人物。
 そんな彼の驚くべき能力こそ、魔力が続く限りあらゆる攻撃を無効化する『絶対防御』だ。例えどんな攻撃であろうと全て無効化してしまう怪傑である。
 あろうことか彼は見ての通り、短気なために殺人をもよく起こす。目的のためなら悪辣な手段を使ってでも成し遂げようとする野放図な性格は、広く知り渡っているほどだ。
 騎士団はもちろん、如何なる手を使ってでもこの男を拘束しようとする組織は山のようにいたが、元よりバルドロスに対抗する術がないため、最終的には厳重注意、酷ければ撤退で事が終了してしまう。彼には攻撃が通じない──殺そうとしても無意味であり、一方的に虐殺されるのは仕掛けた側。冒険者が人殺しを行うなど断じて看過できないが、彼と対抗して死人が増えるようならば、事を放棄するしかないのだ。
「できれば殺さず捕らえてほしいが、やむを得ないなら殺してもいい。私は他人の能力を一時的に我が物にできる魔法を習得している。発動に時間がかかる上、成功確率もままならないから使い勝手は悪い。その上、死体になったら更に成功確率が落ちる。でも、死体ならいくらでも時間をかけられるからな。手間を省くなら生きたままがいいが」
「ったくよぉ。てめえはホントにマリアネの話になるとやり方を選ばねえな。もとは忠実な夜魔将官だったろ。てめえの後輩でもある今の夜魔将官が聞いたら泣くぞ、サキリス」
 バルドロスは閲覧していた本をバタン、と閉じて、女──サキリスに投げ渡す。
「私は……マリアネ様と、かつての生活がしたいだけだ。そのためなら……!」
 サキリスは底気味悪いほどに歪んだ笑みを浮かべて棚に本を置き、またしても懐からあるものを取り出した。どうやら誰かの手紙のようで、それをバルドロスに手渡す。
「ん、アルベルからの手紙?」
「そうだ。冒頭に言ったが、今は冒険者昇格試験の真只中だ。下旬に行われるギルド対抗試験、そこにはSランク冒険者もゲストとして任意で参加できる。手紙はSランク冒険者全員に送付されているが、君は転々と住処を変えるせいで所在が分からん。こいつは以前、君が強奪して住処にしていた民家にあったものだ。私が回収しておいた」
 バルドロスは封皮を裂くように破り中身を取り出す。
「一応、君もSランク冒険者として招待されている。クロックは、ギルド対抗試験のゲストとして、メンバーと共にグランディール国へと赴くらしい。そこが狙い目だ」
「すげえ周到だなぁ。むしろ気持ちわりいわ、お前」
 バルドロスは悦楽そうにせせら笑い、サキリスを唆す。
「むっ、とにかく。クロックはそこで来る。今回、ギルド対抗試験の舞台はダマユナセール地方。一週間のサバイバル生活をしつつ、己のギルドの旗を守り切るというルールだ。相手の旗を取った数を競うらしい」
「ダマユナセールか……森なら人目にもつかねえし、殺り放題じゃね?」
 歪んだ口元からぽろりと漏れたバルドロスの言葉に、思わずサキリスは身震いした。
「……別にギルド対抗試験をも崩壊させるほど殺戮しろとは言ってないぞ。してもいいが、責任は負わん」
「なあに今さら。俺は最強だぞ? 誰がこの俺を殺せるっていうんだ」
「……うむ」
 サキリスは怖気づくように縮退し、バルドロスから目線を落とす。この男が暴れてしまっては世も末だ。バルドロスが暴走すること──それは一番彼女が知っている。
 鮮血に滲んだ一帯……違う、鮮血の池ができる──────
「よし、任務遂行は対抗試験日。気が済むまで遊ばせてもらう。しっかりクロックは殺ってやるよ。あ、生きたままって言う話だけどよ、あんまり期待するなよ?」
「わ、分かった。あと一つ言っておく。今回、ゲストとして参加するSランク冒険者はクロック一行、八位の『稲妻の一刀』一行、三位の『疾風の覇者』一行、君と同じく一位候補『吹雪の剣姫』一行だ。新しい情報は追々伝達するが、恐らくこの四名に留まる」
「へえ。おもしれえ奴らばかりだな。ま、ひとまず話はこんなもんで終わりか?」
「ああ、今日は取引に応じてくれて助かった。バルドロス、しっかり頼むぞ。対抗試験の当日、中央広場で落ち合おう」
 バルドロスは床を蹴り飛ばして立ち上がると、ぶつぶつと呟いて部屋を立ち去った。
 一人、立ち尽くすサキリスは、彼が部屋から退出する姿を横目で確認すると、ぐったりと気抜けする。
「……はぁ、やはりあいつは危険すぎるな。危うく私まで殺されるかと……」
 サキリスは机に両手を突き、気術無さそうに息を呑む。
「あの時……袂を分かつことになったが、二人は『禁魔崩書』についてまだ調べているのだろうか……。私もこうしていられん。必ずやマリアネ様……ご復活させてみせます。昔の……平和な日々をもう一度────」
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