魔王の霊魂を背負う少女

アベルンルンバ

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第五章 教官ツルカ率いるギルド、危険種と遭遇する

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 曇天の冷たい空気に浸されたマリアネ大山脈。暗雲が棚引く、よじれた糸のように蜿蜒と連なる岩山は、ところどころ不自然で不格好だった。まるで爆撃されて頂が消失したような山や、断崖絶壁の山。そして爆破されたような惨澹たる無数のクレーター。
 ただでさえ植生が乏しいこの大陸には、生命が宿るのも些と厳しい。
「……なんか、ホントに山しかないな。危険な場所だ」
 グランディール国の城壁を越え、ビジルゴス地方に足を踏み入れたツルカと試験用ギルドのメンバー。マリアネ大山脈へと向かうため、四人は起伏の激しい裾野を歩んでいた。目前に立ち並ぶ大山脈の山麓には、無造作に建てられた小さな集落が広がっている。
「こっちの大陸に来たのは久しぶりだな。こっちの地域は強い魔物が出ることから、あまり初心者には馴染みがないんだ」
「そうだよね~。前に来た時はあそこの村で一泊して帰ってきちゃったんだっけ」
 道に沿って歩いていると、ツルカはぽつりと建っている看板を見つける。
「えっと……『この先、マリアネ大山脈。踏み入れる際は準備を怠るべからず。ネドラ村にて万全を期すべし』ってよ」
「あの村は優しい人ばっかりで、山脈に入る人達に無償で宿をとらせてくれるんだよね」
「へえ、それはいいな。ま、日帰りの予定だけどっ」
「え~」
 身も心も困憊しきったかのようにナユは脱力し、うんと屈み込む。
「お前、遊びに来たんじゃないぞ。俺は滞りなく順風満帆にクエストを行いたいんだっ。準備もグランディールでしてきたし、寄る意味もないだろ。分かったなら行くぞ」
「ほら、ナユ行くよ~」
「ううっ」
 マリナはナユの腕を無理矢理に引っ張って歩かせた。和やかな雰囲気を醸成している村を横切り、マリアネ大山脈への入り口へと向かう。
「いやぁ、にしても絶景だな。見る限り山しかない。遭難でもしたら一溜まりもないな」
「確かに地形も複雑で危険な場所もあるからな。だから、マリアネ大山脈にはところどころに休憩するためのポイントが設立されている。大山脈に栄える国は、ここからかなりの距離があるからな」
「ビジルゴス国だね~。マリアネ大山脈に囲まれている盆地に建国されていて、頂から見下ろす夜の町並みは、グランドシオルの名勝なんだ」
 鼻高々とした表情で、マリナはその光景を目の当たりにしたことがあるように言う。
「ま、行ったことないけど~」
「……ないのかよ」
 と、歩みを進めているうちに大山脈への入口に到着。ここから先がマリアネ大山脈に栄えるビジルゴス国の領土となる。いわば国境だ。
「いやぁ、こりゃ~デカい門だな」
「そりゃな。ここは危険な魔物がよく出る。一般的には夜間に活発的な行動を見せるんだ。こっちは村もあるんだし、魔物が入ってきたら困るだろ」
 早速、四人は門を抜けた。いよいよ教官ツルカ率いるギルドの第一回目試験が始まる。
 ツルカはロングコートの衣嚢から冒険者カードを取り出した。カードの印に指をかざし、タッチレスパネルを出現させてメンバーに呈する。
「よしっ、まずはクエスト詳細のおさらい。今回のクエストはポイズンドラゴンの討伐だ。体長二メートルほどの小型ドラゴンで、群れる性質がある。どうやらこいつらは、山に洞窟を掘って暮すってよ。よく見られるのは山の中腹あたりらしい。とりあえず、人が入れるほどの穴をくまなく探してみるぞ」
「はいっ、ツルカ教官!」
「メインはお前らなんだ。せいぜい目を見張るような戦いを見せてくれよ」
 無論、ツルカこそ実戦経験が全くない為、当の本人の心中は絡まるほどに複雑だった。
「張り切るぞ~。昇格のためだもん。最高の戦いをツルカちゃんに見せなきゃ!」
 頗る軒昂な様子でナユは先陣を切った──が、そんな意気込みも儚く散りかけていた。
 かれこれ数時間、よほどの距離を歩いたが、一向にポイズンドラゴンに出くわす気配はない。かつて山脈に遮光されていた天光は、陸地を占めていた陰影を乗っ取り、眩しく照射する。まさか、昼間になるまで途方もない山脈地帯の鞍部をほっつき歩くことになるとは、誰が予想したか。
「あの~。ポイズンドラゴンって絶滅してます?」
「してないよ……でも全然出くわさないね。巣らしき空洞はあるけど、いないし……」
 マリナは怪訝そうに、ぐったりと腰を下ろした。
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