魔王の霊魂を背負う少女

アベルンルンバ

文字の大きさ
46 / 82
第五章 教官ツルカ率いるギルド、危険種と遭遇する

11

しおりを挟む
「もう疲れたよ~。なんでこんなにもいないんだろう。普通ならとっくに出会ってるよ。ってか、ポイズンドラゴンはともかく、他の魔物にすら出会わないなんて……」
 大変疲弊しきった様子で、ナユはびっしりと地面に背をつけた。
「この山脈、もはや魔物がいない。ここはかなり、強い魔物が生息しているんだよな?」
「ああ。でも、ここまで魔物と出くわさないなんてな。何かおかしいぞ……」
「……あ」
 マリナは両手に膝をつけて立ち上がり、口元を引き締めて腕を組む。
「どうしたのマリナ~。怖い顔して」
「……いや。こんなことが以前にもあったっていう話が」
「ん、なんだマリナ。なんか知ってんのか」
「さっすが情報屋のマリナだね。なら、詳しいことを聞かせてよ」
「うん、えっとね。なんか、マリアネ大山脈に生息する魔物が不定期に存在を消すっていう話なんだけど」
「へ?」
 さながら激しい剣幕でマリナは言うので、ふとツルカは頓狂な声を出した。
「存在を消すっていっても、人目につかないところに隠れているだけなんだけどね」
「なんで隠れてるの?」
「……分からない。噂では、誰かに追われているかのように魔物は怯えてるって話」
 果たしてどこからそういった噂を仕入れて来るのか不明だが、今だけはマリナの話を鵜呑みにしない限り辻褄は合わない。
「なら、どうする。仮にマリナの話が起きているなら、魔物を狩ることはできないぞ」
「そうだよね。はぁ、折角のクエストなのに。幸先悪いな~」
 ナユは嫌々と立ち上がり、腰を捻って大きく背伸びする。
「あー休みたい……そうだ! ここまで来たんだからさ、ビジルゴス国に行かない?」
 ナユは一朝一夕に意気を取り戻して、あどけない子どものような笑みを浮かべる。
「……バカ言うなよ。ここ、まだまだビジルゴス国まで相当距離あるぞ。徒歩じゃ少なくとも、あと二日はかかる」
「確かに国へ行けば詳しいことが分かるかもしれないけど、時間がかかるよ。なら、一回グランディールに戻って、新しいクエスト受けたほうがいいって」
「はいーそうですねー。皆様のおっしゃる通りですー」
 あからさまに消沈して、またしてもナユは地面に屈した。
 その後もナユを引きずりながら散策したが、結局、目当ての魔物とは出くわすことなく、刻々と時が過ぎ去るばかり。
「あ~無理だ。マジでいねえ。しゃーねえけど、やっぱり一回、国に帰るか」
「だね。時間の無駄だよ。ツルカ教官もいいよね?」
「そうだなー。クエストやれる時間も限りあるし、帰るか。おいナユ、そろそろお前も自
分の足で歩いてくれよー。もう引っ張らないからな」
 踵を返して国へと帰ろうとした矢先、ナユはツルカの手を掴んで引き止める。
「な、なんだよ、引っ張らないぞ!」
「違うよ。ほら、あれ見て」
 ナユはグランディール国とは真逆の方向を差す。
「ん~あれ、人か?」
 よく目を凝らしてみると、ツルカは数名程度の人影を遠方に捉えた。
「なんだ、あっちはビジルゴス国の方面だから、そこの人間か?」
 するとあちらもツルカ達の存在に気付いたようで、慌てた素振りでこちらへ駆け走る。
「これはこれは……! どうやら冒険者のようで……っ」
 息を弾ませながら、一人の老人がツルカ達に声をかけた。真ん丸とした胴と、頬まで広がる白い髭。純金の飾りが特徴的な貴族衣装に、古めかしい羽飾りの中世帽。
 気品溢れる老人は、一見、温顔で懇篤そうな人柄に感じた。
「ど、どうしたんですか。相当お急ぎのようで」
「も、もちろん! まさかご存知でない⁉」
「ええ?」
「今、マリアネ大山脈の魔物が姿を消しているということを」
 ツルカは露骨に嘘っぱちな笑みを浮かべた。
(噂をすれば……影がさすってか?)
 ジン達も同様に、老人の言葉に苦笑した。やはり、マリナの噂は正しかったらしい。
「いや、ご存知でないのも仕方ないのか……。失敬、いきなり過ぎましたな。見る限り、ビジルゴス国の者ではなさそうだ」
「はい、グランディール国の者です。失礼ですが、魔物の行方が眩んでいる話、お聞かせ願いたいのですが」
「そうですな。実はマリアネ大山脈は不定期的に魔物が姿を消すのです。そして、原因を調査している内に忽然とまた姿を現す。これが、約数百年間続いています」
「それほど長期にわたってですか⁉」
「はい。正直なところ、魔物はどうせ戻ってくると昔から研究で判明していた為、今まで公にするつもりはありませんでした。ですが今さらながら、新たな研究結果が出まして」
「新たな研究結果……」
「約二百年前という時代。まさしく、魔王マリアネがグランドシオルを滅ぼそうとした大戦の時代。研究している現象は、その戦後から起きている」
「何か、戦争と関連性があると……?」
「そこまでは……といったところですね」
 老人はうんと首を傾げながら顎を撫でる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧井 汐桜香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから

渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。 朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。 「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」 「いや、理不尽!」 初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。 「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」 ※※※ 専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり) ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...