魔王の霊魂を背負う少女

アベルンルンバ

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第六章 最強の少女、罪に問われる

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「あー、いる? ていうか、いないわけないよね、ここまで呼んどいて」
 女性がある建物を覗くようにして声を響かせる。
「いる。早く来い」
 太く、渋い声が地下へと続く大階段から微かに渡ってきた。
「あっそ。入るわよ。ったくなんで私がダマユナセールからノリマルンナのシルフ平原までこなきゃいけないのよ。それがまさか、二百年前の勇者の地下墳墓?」
 女性は極端に消沈して、地下への大階段を下った。
 薄気味悪く、湿った空気の一本道をしばらく歩き続けると、長身の老人を視認する。
「……なに勇者の剣なんか見てんのよ、クソジジイ」
「なんだと、風魔法しか操れん生意気なクソガキが」
「へー、そんなにあんたの風能力が私のより劣っている事が気に食わないのかしら?」
「馬鹿言え。てめえは風をただ一筋に探求し続けただけだろう。こちとら不朽の栄光が一つだけに偏った能力で生きてられるか。他の魔法もバランスよく使えんといけんのだ」
「はあ。そう言われたら、何も言い返せないのよ。ま……そうね。悪かったわよ、親父」
「なあ、いつになったら俺を名前で呼んでくれるのかね、リゼット」
「無理ね。誰があんたの汚らしい名前を呼ぶの」
「汚らしい……ね。リザインって名前があると言ってるだろうに」
 少し落ち込んだ様子で、不朽の栄光所属の老人──リザインは、『疾風の覇者』として名高い娘のリゼットから目を逸らした。彼は『風の使い』として不朽の栄光に属している。かつては娘と同じような髪色と伺える色褪せた白緑の頭髪と、垂れ下がった頬の筋肉はやはり穏やかに見えず、親子そろって機嫌が悪そうに険しい。身を隠すように外套を羽織り、胸辺りには言わずと知れた不朽の栄光としての勲章を身につけている。
「んで、本題よ。まさか勇者の墳墓に呼ぶなんて。ここ、立ち入り禁止なのよ」
「許可は貰った。まあ、大変だったがな」
「ふん、んで。呼んだ理由ってのは……ねえ、聞いてる?」
 リザインはリゼットを蔑ろにするように、勇者の剣を仔細に眺める。
「やはりおかしい」
「なにがよ……」
「剣から、全く力を感じん」
 独り言のようなリザインの呟きを打ち聞いた途端、リゼットは億劫そうに脱力する。
「一応聞いとくわ。なに?」
「……約三、四か月前に、この地下墳墓から一人の少女が出てきたところを目撃したっていう情報があった」
「質問と違うし……。なに、ここから人が出てきたの?」
「そうだ。ここは世界を滅ぼしかけた魔王を討った伝説の勇者の墓。立ち入りは断じて許容できん。今さらながら調査に来たが……」
「三ヶ月も経ってから来ても無駄じゃない?」
「ここに立ち入ってよいという許可に、三カ月もかかったんだよッ、あぁ⁉」
 怒鳴り上げるようなリザインの声に、リゼットは少し怯んだ。
「う、うん。分かったわ。落ち着いて」
「んで、意味もなく今日来たが……偶然にも違う発見があったんだ」
 リザインは勇者の剣を親指で差すと、またしてもそれをまじまじと観察する。
「お前もアイギスに会った事あるな。あいつが持っている神器アイヴィスを知ってるか」
「ええ。あの~あれよね。伝説の剣ってやつ」
 興味がさらさら無かったようで、リゼットは曖昧そうに苦笑していた。
「で、でもあれよ? 感じたわ、なんかこう、神聖な感じ!」
「それだ」
 リザインは目を細めてリゼットを睨む。
「こいつはアイギスと同じ神器。名前はベナゲードだ。こいつは魔王を討った聖剣としてここに保管されている。しかしだな、妙だとは思わんか。ベナゲードからはまるで力を感じん。神器ならばたとえ常人であっても、神聖な力を少なからず感じるはずなんだ」
 リゼットは神器ベナゲードの前にしゃがみ込み、腕を組みながら事細かに眺めてみる。移動して右から、移動して左から。上から下から。
「これ、ただの剣ね。しかも状態の悪いオンボロだわ」
「そうだろう。おかしくないか。神器は凄まじい神力を持っている。しかしベナゲードはこれほどまでにも脆弱になっている。そこでな、俺の推測があるんだ。聞いてくれ」
「……いやよ、面倒くさい」
「神器には複数の固有能力がある。聞いたところ、ベナゲードは封印効果を持つそうだ」
「……無理矢理話すなら聞かないでくれる? ったく、んで……話の中核は何よ?」
 回りくどいリザインの話し方にリゼットは頬膨らませ、渋々と腰を上げる。
「伝説では魔王マリアネ……歴代『最年少』の魔王と聞く。しかも『女』だそうだ。そして、今回調査しに来た理由は、この地下墳墓から『少女』が出てきた事。分かるか」
 話の内容を遅れて理解したリゼットは、獰猛な野獣のように険しい目つきになる。
「まさかあんた、それが魔王って言いたいの。だって勇者は魔王を討伐したはずじゃ」
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