魔王の霊魂を背負う少女

アベルンルンバ

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第七章 待ちに待った少女、遂にギルド対抗試験が始まる

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「あいつには超人的な再生能力がある。さっきから言ってる、禁魔崩書っていう力よ」
 カマロナの傷はみるみる癒され、何事もなかったように体が戻る。
「どうやらお前は禁魔崩書にしっかりと溺れているみたいだな。哀れなものだ」
「溺れている? 違うな、禁魔崩書が私の体を必要としている! 私という完璧な器で、禁魔崩書は本来の力を発揮しようとしているのだ!」
「ふざけたこと言ってんじゃないわよ!」
 リゼットは両手を前に突き出す。七色の六芒星が空中に大きく描がかれると、円環を成して高速回転する魔法陣を展開。次に、魔法陣から肉体を束縛するような風が前方を埋め尽くすように吹き、思わずカマロナは膝を突く。
「『シルフィン・ホワールウィンド・アビス』ッ!」
 速やかにクロックは『天人』級風魔法の『シルフィン・ホワールウィンド・アビス』を唱える。辺り一面から漆黒の風が現れてカマロナを覆うと同時に、天を裂き、地を割る旋風が生み出され、途轍もない威力で炸裂した。吹き飛ばされるような風が一帯を駆け走る。
「お、おいおい、カマロナは大丈夫か────っ……!」
「どこに目を向けているのですか。隙だらけではありませんか」
 シャイニンから数秒ほど注意を逸らしたバリオンの目には、右腕から鮮血に濡れた刀が貫いている姿が見えた。バリオンは刀を無理矢理に引き抜こうとしたが、シャイニンはその刀をゆっくりと回し始める。
「ッ……ぐあっ」
 肉を絶つ生々しい音が、刀を伝ってひしひしと身に染み入る。シャイニンは真顔で、バリオンの苦しむ姿をただ眺めていた。

「ったく、物騒な魔法なんて唱えて」
「ちっ、やっぱり無理か……」
 砂埃から現れたカマロナは、涼しい表情で首を回していた。
 やはり禁魔崩書の能力か。魔法耐性の結界が全身に張り巡らされている。先ほど腕を切り落とした時には耐性を付与していなかったのか。
 どちらにしても、カマロナにとってはお粗末な魔法だったのには変わりない。
「さあて。そろそろお遊戯も飽きたし、さっさと終わらせますか」
 突然、カマロナを中心に、波動が空気中を駆けた。それに命中した魔法使いが、力を失ったように崩れる。
「みなさん!」
 シャイニンは急いでバリオンから刀を引き抜き、三人の元へ駆け寄った。
「ど、どうしたのですか!」
「ち、力が出ない……まさか、魔力消去の呪い……!」
「ご名答。これは生粋の魔法使いほど効果のある呪い。主に魔法を使って戦う貴様らにとってうってつけの呪い魔法だ。対象の魔力を完全に消去し、魔法を使えなくする。魔力を力の源とする貴様らならば瞬時に玩具へと早変わりするわけだ。サキリスも一応ながら魔法使いだからな~?」
「くそったれが……!」
「問題ありません。私だけでも何とかして見せます」
「やめておけ? 貴様は確かに強い。バリオンをあそこまで追い込んだんだからな。だが、動かん方がいいぞ?」
「ん、何故です」
「そいつらには呪いと一緒に身代わりの魔法も付与している。万が一私にダメージが入れば、そいつらの誰かに……攻撃が転換されるぞ?」
「な……っ。外道が……!」
「魔法使いは便利だろう? なんせ自分の身をこうして守ることもできるのだからな」
 すると、カマロナは人差し指をシャイニンに向ける。人差し指が眩しく光ると同時に、シャイニンの右脚を何かが貫いた。さらに一回、二回とカマロナの人差し指が光ればシャイニンの腕、脚を何かが貫いていく。
「……く、それは……『クリーンネス・ライズ』の魔法ですね……。目に見えない光線魔法……唯一私が克服できていない魔法を……!」
「貴様は馬鹿か⁉ この魔法を克服しようと? 不可能に近い。『クリーンネス・ライズ』は最大限に魔力の量を抑制し、音もなく発動される暗殺魔法だ。それを克服しようと」
「ええ。私は魔法という強大な壁をこの刀だけで切り開いてきました……。私の刀は一部、魔力石で作られている。刀と魔力が触れ合えば、魔法に施された魔力を吸収し、かき消す事が可能です。幾度も魔法使いと戦ってきて、魔法を対処してきたもの……ですが」
「貴様は殺すのが惜しいほどだな。剣士でありながら魔法を熟知し、対処までも可能とは。まあ、生かす気は無いが。もう、その体では先ほどのような動きはできんだろう」
 純白の巫女装束はところどころ紅におかされ、シャイニンは刀を立てて必死に直立を保とうとしていた。彼女の言う通り、シャイニンの容態ではまともに刀すら振るえない。
「我々にも段取りがある。故に、貴様らとはもう遊んではいられないのだ」
 カマロナは戦闘不能状態に陥ったシャイニン達に掌を差し向けた。次第に膨大な魔力が一点に集中し始め、見るだに禍々しい魔力弾を形成する。
 あんなものが着弾してしまえば、軽くグランディール国も吹き飛ぶだろう。
「や、やめろカマロナ……! 本当に取り返しのつかないことに……!」
「気にしない。私はマリアネ様の意志を継ぐまで。世界など、すぐに滅ぼしてやる」
「やめなさい……あんた!」
 そして、カマロナが名状しがたい魔力弾を放とうとした時だ。
「おい、何やってんだお前ッ!」
 遠くから声を荒げた少女の声が響いた。
「ん、また邪魔者か? なんだ次は────」
 カマロナは叫び声を上げた一人の少女に思わず我が目を疑った。同じくバリオン、サキリスも瞠若し、元夜魔将官は一斉に言葉を失ったのだ。
「ま、まさか……馬鹿な……!」
「ツルカさん!」
 それは森林から駆け抜けてきたツルカ=ハーランだった。遅れて、仲間の三人もこちらに走ってくる。
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