魔王の霊魂を背負う少女

アベルンルンバ

文字の大きさ
77 / 82
第七章 待ちに待った少女、遂にギルド対抗試験が始まる

15

しおりを挟む
「ま、マガン! しっかりなさい、どうしてこんなことに……!」
「ううっ……ごめん……ね。私、まだ……未熟だった……。何も……できなか……っ」
「喋っては駄目です……! 誰か……く、クロック! この傷を、時を戻して────」
「ダメなの……私は人の身体に直接、時魔法を使えない……。できるのは物とかなの……! ごめんなさい……っ!」
「そんな……。不朽の栄光は……騎士団長でもいいです! 誰かいないのですか⁉」
「いないわ……。試験中なのにも関わらず、騎士団長も不朽の栄光も昨日の夜、ドリバルグ魔城国の緊急会議に向かわれた。今、グランディール国には誰もいないのよ……!」
「会議ですって…………」
 微睡む意識の中、マガンは血で塗れた手をさし伸ばし、シャイニンの頬を優しく覆った。
「私は……シャイニンさんと……一緒に刀を振るえて、すごくよかったよ……。刀の事に関して……シャイニンさんはいっつも厳しくて、私……どれだけ……泣いちゃったか……。でも、私を見放したりは……絶対にしなかったね。本当に……ありがとう……」
「…………っ」
「……シャイニン……さん……絶対、死なない……で……」
 とびっきりの笑顔でそう呟き、マガンの手はゆったりと倒れた。この瞬間、彼女の意識は深淵に墜ちたのだ。
「あ~もしかして逝った? でもかなり持ったな! ガハハハ───ッ!」
 無慈悲にも、バリオンは墜ちたマガンを見ながら嘲謔するように腹を抱える。
「ま、マガン……」
「マガンさん……そんな……」
「………」
 不思議にもシャイニンは何も言わない。泣き叫ぶどころか涙すら見せることもなくゆっくりと立ち上がると、酷く震えながら刀の鞘を握りしめた。
「誰が……こんなことを?」
 低く、こもった声でシャイニンが口を開く。
「おれ~。にしても弱かったよ? 何にもできない、人形みたいだったね────っ⁉」
 シャイニンは一瞬にしてバリオンとの間合いを詰め、光のような斬撃を振るう。かろうじてバリオンはナイフを構えて受け止めたが、堪らなく焦っていた。
「貴様が……貴様がやったのか……貴様がッ! 私の旧友を何の躊躇もなくッ!」
 シャイニンは視界にも捉えられない剣戟を振るい、バリオンの胴体を確実に捉えて斬りつけていく。気がつけばバリオンの背後へ、前へ、左右へ、一閃の突進斬りは四方八方へと瞬間的に転移し、彼女の俊足な動きはもはや人間レベルではない。
 尚且、かろうじて瞬時に見て取れるその動きは華麗で、姫の舞踏そのものである。吹雪のように神速な裁き、怒りに支配されてはいるが舞踏のように麗しい姿。まさにシャイニンの二つ名『吹雪の剣姫』の面目躍如であろう。
「や、やべえ……! こいつだけは格が違う⁉ か、カマロナ、応戦を求む!」
 おびただしい厭悪にかられた一方的なシャイニンの攻撃に、バリオンは反撃すら叶わない。これでも、シャイニンはSランク冒険者一位候補。他の追随を許さないほどの鍛錬を積み重ねてきた。故に、シャイニンとバリオンの実力には雲泥の差が生じていた。
「ふーん……あの動きは只者ではないな。まってろ────なんだ」
「行かせん……貴様の相手は私だ……!」
「応戦するわ。あんたが誰か知らないけどね……」
「……私も、できる限りの事を……!」
 カマロナの行く手を塞ぐように、サキリスとクロック、リゼットが立ちはだかった。
「相手? アハハ! 冗談はよせ! 私は元、夜魔将官第二位。まず貴様らとのレベルがそこで違う! だというのに禁魔崩書の力を手に入れた私と相手をするのか?」
「私は本気だ。たとえ勝ち筋がなくとも、お前を好き勝手させるわけにはいかん! マリアネ様は……決してこのようなことを望んでいなかった。そう思うのだ」
「なんだと……」
 サキリスはフードローブを破くように脱ぎ捨て、軽鎧に身を包む本来の姿を露にする。
「ふふん……やっぱりあんたも元、ってところかしら?」
「ふっ。お恥ずかしながら……」
 胸当てに刻まれた紋を懐かしそうに手で撫でると、サキリスは腰に掛けていた鞘から剣を引き抜いて身構える。同じようにクロックとリゼットも眦を決する。
「貴様ら、後悔するのは遅いぞ。全員、嬲り殺しにしてやる!」
 カマロナが速攻してサキリスにツメを差し向けた。急いでサキリスは剣で守護に当たったが、ツメは右肩を穿つ。
「くっ……!」
 怯むことなくサキリスはカマロナの腹部を蹴り入れて距離を取る。吹き飛んだカマロナを追撃するようにサキリスは剣を振るって押し立てるが、気楽そうにカマロナは笑うと赤く瞳が光り出した。
「させるか!」
 サキリスは渾身の上段回し蹴りをカマロナの顔面に叩き込む。同時に放たれたのは空気を切り裂いて空へと消えていく一線の光だった。
「危ないな。あれを受けていたら……」
「すごいねえ。読まれてたか。まあ、勝負がこんなにも早く終わるのもあれだし───」
 泰然と語るカマロナの背後に人影が映った。
「隙ありっ!」
 クロックが時空を利用してカマロナの背後に急接近。クロックは魔力弾を手に収め、カマロナの胴体に構えた。そして、魔力弾はカマロナの心臓部を一気に貫く。
「ぐふっ……ほほう、やるではないか」
「え、ええ⁉」
 狙いは確実に心臓部。クロックの魔力弾が貫通したはずだ。しかし、カマロナは平然としてかしわ手を打つ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧井 汐桜香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから

渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。 朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。 「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」 「いや、理不尽!」 初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。 「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」 ※※※ 専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり) ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...