魔王の霊魂を背負う少女

アベルンルンバ

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第七章 待ちに待った少女、遂にギルド対抗試験が始まる

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「マガンッ!」
 吹き出た血が草を緋色に染める。そっと腹に手を添えて触ってみると、それはねっとりと熱い。マガンのなまこから零れ落ちた涙が頬を伝い朱に染まる。
「痛い……痛いよ……痛い……よ……」
「あ~あ。もたもたしてるから──おっと、行かせないって」
「────どきなさいッ!」
 リゼットは途轍もない魔力を放って風を生み出す。その威力は従来と比べ物にならないほど熾烈であるが故に、カマロナの片腕を切り落とした。
「おお、まさか腕が」
 リゼットは今のうちに、マガンの方へと風を切った。
「マガン、マガン! しっかりしなさい!」
「うう……痛い……よぉ」
「くそっ、『天人』級魔法使いが回復魔法すら唱えられないなんて……情けないッ……。親父の言う通りだった……。風を極めるだけじゃなくて、もっとみんなのためになるような魔法を覚えておけば……」
「わ……悪くないよリゼットさんは……。油断した……私のせい」
 マガンは目も当てられない微笑みをリゼットに向けた。
「あんた、『天人』級魔法使いなんだ。なら私の体に傷を与えられたのもうなずけるな」
 リゼットは凄絶な殺気を帯びて、朗らかに微笑むカマロナを睥睨する。
「怖い怖い、怒んないで。別に私がやったんじゃないし?」
「おい、俺のせいみたいに言うな? 俺のせいだけど、ははっ」
 カマロナの肩から触手のようなものが蠢くように生えてくる。触手は色艶を帯びていくと、瞬く間に切り落としたはずの腕が形成されていく。
「へえ、禁魔崩書にはこれほどの再生能力があるのか。たまげたな」
 バリオンが感激するように拍手をするが、対してリゼットの反応は変わらない。
「許さない……あんたら絶対にッ!」
「あはははは────っ! 風しか操れない魔法使いが何を! いずれ貴様ら人間は魔力欠乏を引き起こす。けど禁魔崩書の力を取り入れた私は無尽蔵。勝ち筋はない!」
「うるさい……うるさいっ! 『ゲイルダンス』───!」
 リゼットが自棄になって魔法を唱える。何処とも無く疾風が吹き乱れて渦を巻くと、風は魔族の二人に走っていく。
「『ディスペル』」
 目の前の一切を穿つだろう疾風は二人を捉えたかと思えば、あの男の一言によってかき消された。あれは『破壊』魔法に分類される『ディスペル』で、対象の魔力を完全にかき消すと言った効果を持つ。魔法使いにとって、非常に足枷になるものだ。
「ありゃまともに喰らったら体に大穴あいちまうよ。そこの子みたいにね!」
 バリオンは血塗れのマガンを指差しながら、喜色満面の笑みを浮かべた。この上ない屈辱に身を震わせるリゼットに、マガンが優しくリゼットの足首を掴んでかぶりを振る。
 もちろん分かっている。『ディスペル』を扱う敵に、魔法使いが無為無策に突っ込むなど自殺もいいところだ。だが、リゼットは心からあの二人に殴りにかかりたかった。
「ま、大丈夫だ。貴様もいずれ、そこの子と同じような結末を辿るだろうし」
「任せろ。カマロナはそこで見てな。あの女でいい演出を披露してやる」
 手の指をぽきぽきと鳴らして、バリオンはゆっくりリゼットに歩み寄る。
「……ん?」
 リゼットとバリオンが睨み合う狭間の空間が揺らめき、そこから二つの人影が現れる。一人は怪我を負った女と、もう一人は不気味なフードローブを羽織った女だ。
「……こいつは驚いた。まさかサキリスがお出ましとは」
「クロック!」
 空間の揺らめきから出てきたのはクロックとサキリスだった。言うまでもなく、二人が一番に目に付いた光景は────
「ま、マガン⁉」
 クロックは声を上擦らせて、一直線にマガンの元へと走った。
「バリオン……カマロナ。まさかここまでやるとはな。取り返しはつかないぞ」
「なにを? 我らは亡きマリアネ様のご意志を引き継いだまで。間違ったことは一切していない。それになんだ、貴様の計画とやらは成功したのか? その様子では、収穫はないように思えるがな!」
「っち」
 サキリスと、かつて戦友であった二人が対話していると────
「────みなさんっ!」
 ダマユナセール森林を突き進んでくる少女の姿が見えた。少し遅れた後に、シャイニンも現場に到着する。
「し、シャイニン……!」
「この惨状は……」
 シャイニンはあちこちに倒れる騎士団を見て、大要の把握をする。
「ううっ、うっ……」
 クロックがシャイニンを見つめながら嗚咽する。
 気になることに、クロックとリゼットは後方を隠すように体を立てていた。ふとシャイニンは目を凝らし、二人の隙間を垣間見るようにしてその後ろを確認する。
「────マガン⁉」
 二人は隠し通せなかった。シャイニンは二人の間を割くと、マガンの傍で膝を突いた。意識はまだある。しかし、急速に生気が落ちていくことだけは認められた。
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