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終章 日常の復帰、消えない傷
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神々が手にしていた魔導書の一冊、『禁魔崩書』が地上へと落とされた。世界の有るべき定理を覆すほどの魔力を秘める魔導書は、初代グランディール国王によって城の塔に保管される。数百年たった今も、その事実を知り得る者は代々のグランディール国王しかおらず、禁魔崩書の伝説は形而上となり、グランディール王城古代書籍に埋没していた。
────元、夜魔将官の魔族二人による世界征服計画。
事件は伝説の魔導書、『禁魔崩書』により端を発した。いずれにせよ公に叙事してしまえば、禁魔崩書がグランディール国王のみ中を知る城の塔に長きに渡って封印されていたことを咎められ、さらには同じ陰謀を企てる者がこれを模倣する蓋然性も大いにある。結果、国は以上の事態を鑑みて、今回の事件は機密事項として結論付けた。
しかし、不安に駆られた大衆の声明には看過できず、グランディール国の名が欠損しないよう代表して、勇者アイギスによる釈明演説が各国で行われた。グランディール国の塔が崩れ落ちてしまったなども含めて、危険種による被害という虚構により収束がつく。
一部、既成の事実を知り得る騎士団や冒険者の間ではどうしてあのツルカがあれほどの力を持っているのかと勇者に迫ったが、アイギスは上層部の人間をかき集めては、正式にツルカが魔王マリアネの転生体と発表したらしい。もちろん、何故それほど重要な事を報告しなかったのかと反発を食らったが、アイギスは苦笑しながら頭を下げるばかりだったようだ。上層部ではツルカをどう対応するかとしばらく議論されたが、絶対宣言のことや功績などを称えられたこともあり、この問題はすぐに帰結した。
言うまでもなく事件の傷跡は消え去ることはない。多大な死者が出た事件の数日後、グランディール国中央広場にて追悼式が行われた。残らず集められた犠牲者の遺体は一斉に火葬され、遺族が花束を添えて泣き叫ぶ。失ったものは、永遠に戻って来ないのだ。
禁魔崩書についても最終的には妙な噂が蔓延り、国民の間柄で浸透しつつある。禁魔崩書は今後の悪用、暴発も兼ね、不朽の栄光によって厳密に保管されている。
そして、事件から数週間後────
「なんというか……変わっちまったな」
「ふふっ、そうですね……すっかりグランディール国も変わり果てちゃいました」
グランディール国のとある宿屋。屋上の鉄柵に身体をもたれて、半壊した城下町とグランディール王城を眺めている少女──ツルカとシトラの姿があった。
グランディール王城には空を覆うほどの魔法陣が展開され、魔法によって崩れた建物を地道に修復していく。以前からツルカが気になっていた塔の建て方だが、どうやらあれは魔法で造られたらしい。長らく疑問を抱いていたツルカもようやく晴れ晴れした。
「にしてもいたた……まだ身体が上手く動かんよ。リハビリをもう少ししないと」
「……それもそうでしょう。初めてだったのでしょう? お姉様の力を解放したのは」
「んまあ……そうだな」
上層部の間ではもうツルカが魔王マリアネの転生体ということは広まっている。当然ながら、マリアネの妹であったシトラもだ。
「妙な感覚です。お姉様とそっくりなのに……全然、雰囲気が違うんですから」
「だから俺はマリアネじゃないんだから……。転生……っていっても合体だし……まあ話すのも面倒だからいいけど。いや、でも気になることがあってさ。初めて俺の姿を見た夜魔将官らは驚いてたけど、シトラはなんとも思わなかったのか?」
いきなり返答に煩悶してしまう質問に、シトラは思わず顔を顰めた。
「……いいえ、そんな事はありません。だってこんなにもお姉様と同じ姿をしてらしているのに、疑うわけがないでしょう。一応、あの時は恩人として気丈に振る舞わなければと思ったのです。結局、お恥ずかしいところを見せてしまったのはご存じだと思いますが」
「ははっ。そうだな」
笑いながら腰を押さえて痛みを我慢しているツルカを見て、シトラは大きく項垂れる。
「申し訳ありません……。魔力欠乏に伴った身体の支障は回復魔法ではどうにもならない。絶対宣言でツルカさんの安全を確約したはずでしたのに……助けに行けず……」
「悔やむな。別に気にしてないよ。犠牲者は多いけど、助けられた命もあった。水には流せないことだけど……俺の活躍で救われた奴がいたのなら……満足だ……」
「そう……ですか」
嘘だった。凍てついたようなツルカの瞳からは、未練が大いに見て取れる。
「……あ。そういえば。教えて欲しいんだが、サキリスと……バリオンだったっけ? お前ら魔王軍が引き取ったが、どうなってる」
理由も分からなく思い出した、あの魔族はどうなっているかとツルカはシトラに伺う。
「……第一にお姉様の夜魔将官であったカマロナとバリオン、サキリスは大戦から行方知らずでしたから、戦死と判断していたのですが……生きていたことにまず驚きました。できれば、このような事態になる前に、顔を合わせておきたかった……」
シトラは悲涙を湛えながら、強く指を組んでいた。
「……サキリスはバルドロスという冒険者とともに、ギルド対抗試験を妨害したと聞いています。さらにクロック=クラックに暴行を加えた事実もありますので、国で執行猶予を言い渡しました。彼女は一応、世界征服を企んだカマロナを食い止めようとした……。そのこともあり、暫時の執行猶予を終えた暁には夜魔将官に帰属させようと考えています」
「……へえ。慈悲あるんだな」
「一方、バリオンはカマロナと共謀したということで地下牢に封じています。彼がしたことは決して許されません……恐らく極刑は免れないかと」
「そう……か」
当然の報いではあるが、どこか残念そうにツルカは肩を落とした。
「……カマロナですが、実は彼女、夜魔将官第一位であるグザヴィエの妹様です」
想定外の事実に、ツルカは言葉を失う。
「カマロナはお姉様の夜魔将官第二位として従順に仕えていた。心からお姉様を慕い、命令を貫徹してきた。その毅然とした性格所以か、お姉様が亡くなられた後も堅固として世界征服に尽力した。きっと、お姉様の願いを叶えたかったのでしょう」
「なるほど……」
「杜撰な計画ですよね。私は知っています……。お姉様がどうして戦争を起こしたのか。今でも鮮明に覚えています……大切な人を失ったお姉様の辛いお顔を」
「……もしかして、シトラは戦争の理由を知って……!」
シトラは首を横に振って、大きく溜息をついた。
「……私は、見てしまった。玉座の間で、滅茶苦茶にされたモルナの傍で、酷く絶望したお姉様の姿を。ですがお姉様はこのことを夜魔将官に言わなかった。余計な心配をさせたくなかったのでしょう。行方知らずになったモルナを捜索させたのも、魔王軍の兵士達でしたから」
「…………」
「その翌日、お姉様は憤怒に駆られながら魔王軍を招集しました。そして、放った言葉が世界征服。皆、冗談のつもりだと思っていましたが……それは本気だった。夜魔将官、兵士の戸惑った様子は、滑稽なほどでした。私は……皆様に真実を話したかった。でも、言えなかった。あれほど怒り狂ったお姉様を見て、どうしても……」
目線を落とし、シトラは悲しそうに町の復興に勤しむ人々を眺める。
「……でも、今ならお姉様はこう言うと思うんです。『私がしたことは取り返しが付かない。なら、理由よりも結果だ。態度で示して信用を勝ち得るしかない』……なんて」
「……今も生きていたら、確かに言うかもしれないな。ははっ」
二人がくすくすと笑っていると、屋上の扉がばん、と蹴られたように開いた。
「お~お~、姉妹みたいに仲良くしちゃて。姉妹みたいなもんだけどよっ」
「あ、アイギス」
それはところどころ身体に傷を負ったアイギスだった。頬に布を当てては、腕にも足にもぐるぐる巻きに布やらを当てている。
「ごきげんよう、アイギスさん」
「ご無沙汰しております、シトラ魔王様。あとツルカ。いいなあ、魔王様を相手に、気楽に話せるなんてよ。お前だけだぜ」
「ツルカさんだけに許可を取っているのです。お友達ですから」
「え、ならば俺も! 勇者アイギスもどうか魔王様のお友達入りを────」
「却下です」
一切の迷いもなくシトラは即答し、アイギスはガクンと崩れて地面を叩いた。
「にしてもアイギス! どうしたんだその傷。ボロボロじゃないか!」
「ああー。これはつい先ほども、仲間にぼっこぼこにされた傷だ。ちょっと君が魔王の力を持っている事を隠してたの、まだ怒っててな~ははははは……」
「……なんかごめんな」
ツルカは脇見してアイギスに呟いた。
「ま、今日はあんたの様子を見に来たってわけ。見舞いさ。身体の調子はどうよ?」
「そんな身体で言われても仕方ねえだろ! まず回復魔法を唱えろよ」
「いや、あえてこうやって怪我のままでいることで、みんなに反省の色を見せてるんだ」
「……ずる賢いというか、ただ単に馬鹿というか……」
ツルカは半ば呆れたように鼻で笑った。
「にしても、どうなったのやら……あいつらは」
ふと、ツルカは空を仰ぎながら物寂しそうに呟いた。
「というと……あの三人ですか?」
「ああ。確か、今日が昇格発表日だろ」
先の事件によりギルド対抗試験は中止。一ヶ月に渡って行われた冒険者昇格試験は、ギルド対抗試験を省く成績で合否を判断することとなった。ツルカは遅れて騎士団本部に評価シートを提出した。嘘偽りなく書いたつもりだが、やはり心配だ。
「ツルカさんは気を揉みすぎですよ。大丈夫、きっとその心配は杞憂に終わります」
「腐心しているだけなのかね……」
その話をちらっと聞いたアイギスは跳ねるように体を起こすと、ツルカに耳打ちするように────
「おいガキっ!」
するとまた、屋上の扉が乱暴に開けられると、小生意気な男の声が聞こえた。
「ツルカちゃん────うわわっ⁉ シトラ魔王様、勇者様までも⁉」
「オールスターが勢ぞろいだね……」
荒々しく開かれた屋上の扉から、すっかり見慣れてしまった三人の姿が。ジンとナユ、マリナが息を切らしてわざわざこの宿に走ってきたらしい。
「おお、どうやら僕が言う前に来ちゃったか……ふふん」
ふてくされたようにアイギスはそっぽを向く。
「お、おいどうしたお前ら。今日は昇格発表日だろ。合否を受け取りにいかないのか────いてっ」
突然、シトラとアイギスの優しい拳骨が、ツルカの頭上に降ってきた。まるで空気を読まんかといわんばかりに二人は頬を膨らしていたが、穏やかに笑っていた。
「そうだよ! 今日が待ちに待った試験の合格発表日! それで────」
ナユは懐に、ジンとマリナはポケットに手を入れると、そこから一枚の封を取り出した。中から折り畳まれた紙を抜き取り、百点満点の答案用紙を親に見せつける子どものように、三人は屈託のない笑みを弾かせる。
「────!」
差し出された紙に大きく記されていた文字を見て、かわいらしい弟子がようやく一人前になったかと思うとツルカは途端に嬉しくなり、隠すことなく涙を流した────
────元、夜魔将官の魔族二人による世界征服計画。
事件は伝説の魔導書、『禁魔崩書』により端を発した。いずれにせよ公に叙事してしまえば、禁魔崩書がグランディール国王のみ中を知る城の塔に長きに渡って封印されていたことを咎められ、さらには同じ陰謀を企てる者がこれを模倣する蓋然性も大いにある。結果、国は以上の事態を鑑みて、今回の事件は機密事項として結論付けた。
しかし、不安に駆られた大衆の声明には看過できず、グランディール国の名が欠損しないよう代表して、勇者アイギスによる釈明演説が各国で行われた。グランディール国の塔が崩れ落ちてしまったなども含めて、危険種による被害という虚構により収束がつく。
一部、既成の事実を知り得る騎士団や冒険者の間ではどうしてあのツルカがあれほどの力を持っているのかと勇者に迫ったが、アイギスは上層部の人間をかき集めては、正式にツルカが魔王マリアネの転生体と発表したらしい。もちろん、何故それほど重要な事を報告しなかったのかと反発を食らったが、アイギスは苦笑しながら頭を下げるばかりだったようだ。上層部ではツルカをどう対応するかとしばらく議論されたが、絶対宣言のことや功績などを称えられたこともあり、この問題はすぐに帰結した。
言うまでもなく事件の傷跡は消え去ることはない。多大な死者が出た事件の数日後、グランディール国中央広場にて追悼式が行われた。残らず集められた犠牲者の遺体は一斉に火葬され、遺族が花束を添えて泣き叫ぶ。失ったものは、永遠に戻って来ないのだ。
禁魔崩書についても最終的には妙な噂が蔓延り、国民の間柄で浸透しつつある。禁魔崩書は今後の悪用、暴発も兼ね、不朽の栄光によって厳密に保管されている。
そして、事件から数週間後────
「なんというか……変わっちまったな」
「ふふっ、そうですね……すっかりグランディール国も変わり果てちゃいました」
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グランディール王城には空を覆うほどの魔法陣が展開され、魔法によって崩れた建物を地道に修復していく。以前からツルカが気になっていた塔の建て方だが、どうやらあれは魔法で造られたらしい。長らく疑問を抱いていたツルカもようやく晴れ晴れした。
「にしてもいたた……まだ身体が上手く動かんよ。リハビリをもう少ししないと」
「……それもそうでしょう。初めてだったのでしょう? お姉様の力を解放したのは」
「んまあ……そうだな」
上層部の間ではもうツルカが魔王マリアネの転生体ということは広まっている。当然ながら、マリアネの妹であったシトラもだ。
「妙な感覚です。お姉様とそっくりなのに……全然、雰囲気が違うんですから」
「だから俺はマリアネじゃないんだから……。転生……っていっても合体だし……まあ話すのも面倒だからいいけど。いや、でも気になることがあってさ。初めて俺の姿を見た夜魔将官らは驚いてたけど、シトラはなんとも思わなかったのか?」
いきなり返答に煩悶してしまう質問に、シトラは思わず顔を顰めた。
「……いいえ、そんな事はありません。だってこんなにもお姉様と同じ姿をしてらしているのに、疑うわけがないでしょう。一応、あの時は恩人として気丈に振る舞わなければと思ったのです。結局、お恥ずかしいところを見せてしまったのはご存じだと思いますが」
「ははっ。そうだな」
笑いながら腰を押さえて痛みを我慢しているツルカを見て、シトラは大きく項垂れる。
「申し訳ありません……。魔力欠乏に伴った身体の支障は回復魔法ではどうにもならない。絶対宣言でツルカさんの安全を確約したはずでしたのに……助けに行けず……」
「悔やむな。別に気にしてないよ。犠牲者は多いけど、助けられた命もあった。水には流せないことだけど……俺の活躍で救われた奴がいたのなら……満足だ……」
「そう……ですか」
嘘だった。凍てついたようなツルカの瞳からは、未練が大いに見て取れる。
「……あ。そういえば。教えて欲しいんだが、サキリスと……バリオンだったっけ? お前ら魔王軍が引き取ったが、どうなってる」
理由も分からなく思い出した、あの魔族はどうなっているかとツルカはシトラに伺う。
「……第一にお姉様の夜魔将官であったカマロナとバリオン、サキリスは大戦から行方知らずでしたから、戦死と判断していたのですが……生きていたことにまず驚きました。できれば、このような事態になる前に、顔を合わせておきたかった……」
シトラは悲涙を湛えながら、強く指を組んでいた。
「……サキリスはバルドロスという冒険者とともに、ギルド対抗試験を妨害したと聞いています。さらにクロック=クラックに暴行を加えた事実もありますので、国で執行猶予を言い渡しました。彼女は一応、世界征服を企んだカマロナを食い止めようとした……。そのこともあり、暫時の執行猶予を終えた暁には夜魔将官に帰属させようと考えています」
「……へえ。慈悲あるんだな」
「一方、バリオンはカマロナと共謀したということで地下牢に封じています。彼がしたことは決して許されません……恐らく極刑は免れないかと」
「そう……か」
当然の報いではあるが、どこか残念そうにツルカは肩を落とした。
「……カマロナですが、実は彼女、夜魔将官第一位であるグザヴィエの妹様です」
想定外の事実に、ツルカは言葉を失う。
「カマロナはお姉様の夜魔将官第二位として従順に仕えていた。心からお姉様を慕い、命令を貫徹してきた。その毅然とした性格所以か、お姉様が亡くなられた後も堅固として世界征服に尽力した。きっと、お姉様の願いを叶えたかったのでしょう」
「なるほど……」
「杜撰な計画ですよね。私は知っています……。お姉様がどうして戦争を起こしたのか。今でも鮮明に覚えています……大切な人を失ったお姉様の辛いお顔を」
「……もしかして、シトラは戦争の理由を知って……!」
シトラは首を横に振って、大きく溜息をついた。
「……私は、見てしまった。玉座の間で、滅茶苦茶にされたモルナの傍で、酷く絶望したお姉様の姿を。ですがお姉様はこのことを夜魔将官に言わなかった。余計な心配をさせたくなかったのでしょう。行方知らずになったモルナを捜索させたのも、魔王軍の兵士達でしたから」
「…………」
「その翌日、お姉様は憤怒に駆られながら魔王軍を招集しました。そして、放った言葉が世界征服。皆、冗談のつもりだと思っていましたが……それは本気だった。夜魔将官、兵士の戸惑った様子は、滑稽なほどでした。私は……皆様に真実を話したかった。でも、言えなかった。あれほど怒り狂ったお姉様を見て、どうしても……」
目線を落とし、シトラは悲しそうに町の復興に勤しむ人々を眺める。
「……でも、今ならお姉様はこう言うと思うんです。『私がしたことは取り返しが付かない。なら、理由よりも結果だ。態度で示して信用を勝ち得るしかない』……なんて」
「……今も生きていたら、確かに言うかもしれないな。ははっ」
二人がくすくすと笑っていると、屋上の扉がばん、と蹴られたように開いた。
「お~お~、姉妹みたいに仲良くしちゃて。姉妹みたいなもんだけどよっ」
「あ、アイギス」
それはところどころ身体に傷を負ったアイギスだった。頬に布を当てては、腕にも足にもぐるぐる巻きに布やらを当てている。
「ごきげんよう、アイギスさん」
「ご無沙汰しております、シトラ魔王様。あとツルカ。いいなあ、魔王様を相手に、気楽に話せるなんてよ。お前だけだぜ」
「ツルカさんだけに許可を取っているのです。お友達ですから」
「え、ならば俺も! 勇者アイギスもどうか魔王様のお友達入りを────」
「却下です」
一切の迷いもなくシトラは即答し、アイギスはガクンと崩れて地面を叩いた。
「にしてもアイギス! どうしたんだその傷。ボロボロじゃないか!」
「ああー。これはつい先ほども、仲間にぼっこぼこにされた傷だ。ちょっと君が魔王の力を持っている事を隠してたの、まだ怒っててな~ははははは……」
「……なんかごめんな」
ツルカは脇見してアイギスに呟いた。
「ま、今日はあんたの様子を見に来たってわけ。見舞いさ。身体の調子はどうよ?」
「そんな身体で言われても仕方ねえだろ! まず回復魔法を唱えろよ」
「いや、あえてこうやって怪我のままでいることで、みんなに反省の色を見せてるんだ」
「……ずる賢いというか、ただ単に馬鹿というか……」
ツルカは半ば呆れたように鼻で笑った。
「にしても、どうなったのやら……あいつらは」
ふと、ツルカは空を仰ぎながら物寂しそうに呟いた。
「というと……あの三人ですか?」
「ああ。確か、今日が昇格発表日だろ」
先の事件によりギルド対抗試験は中止。一ヶ月に渡って行われた冒険者昇格試験は、ギルド対抗試験を省く成績で合否を判断することとなった。ツルカは遅れて騎士団本部に評価シートを提出した。嘘偽りなく書いたつもりだが、やはり心配だ。
「ツルカさんは気を揉みすぎですよ。大丈夫、きっとその心配は杞憂に終わります」
「腐心しているだけなのかね……」
その話をちらっと聞いたアイギスは跳ねるように体を起こすと、ツルカに耳打ちするように────
「おいガキっ!」
するとまた、屋上の扉が乱暴に開けられると、小生意気な男の声が聞こえた。
「ツルカちゃん────うわわっ⁉ シトラ魔王様、勇者様までも⁉」
「オールスターが勢ぞろいだね……」
荒々しく開かれた屋上の扉から、すっかり見慣れてしまった三人の姿が。ジンとナユ、マリナが息を切らしてわざわざこの宿に走ってきたらしい。
「おお、どうやら僕が言う前に来ちゃったか……ふふん」
ふてくされたようにアイギスはそっぽを向く。
「お、おいどうしたお前ら。今日は昇格発表日だろ。合否を受け取りにいかないのか────いてっ」
突然、シトラとアイギスの優しい拳骨が、ツルカの頭上に降ってきた。まるで空気を読まんかといわんばかりに二人は頬を膨らしていたが、穏やかに笑っていた。
「そうだよ! 今日が待ちに待った試験の合格発表日! それで────」
ナユは懐に、ジンとマリナはポケットに手を入れると、そこから一枚の封を取り出した。中から折り畳まれた紙を抜き取り、百点満点の答案用紙を親に見せつける子どものように、三人は屈託のない笑みを弾かせる。
「────!」
差し出された紙に大きく記されていた文字を見て、かわいらしい弟子がようやく一人前になったかと思うとツルカは途端に嬉しくなり、隠すことなく涙を流した────
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