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第一章【親亡き復讐者】~Who is betrayal parents~
2:再調査とお約束イベント
しおりを挟む─《トール家》 オリヴィアの自室─
元老院議長『オードリー・ブラウン』にお呼ばれしてから1日が経過した。その間に報告書は完成したのは言うまでもない。むしろあの程度に1日以上の時間の掛けようがない。
オリヴィアはあの日ルイスから「席を外せ」と直接的ではないが制されて、あのあと何について、どんなことを、結論はなんだったのか、その全てを知らされなかった。ただルイスが帰宅したときにさりげなく「いつ頃になったら正式な命令が下されるの?」と聞いたところ、返ってきたのは「遅くとも1日の間は開けないだろう」だった。そう今日である。
「なんか緊張してきたぁー」
それもそうだろう〔賢人級〕の超高位術者、仮称『正体不明』と対峙するのだから。
ところで賢人級とは一体何か、まず『魔法聯盟』を理解した上で進める。
例えば料理で使う包丁は使い方次第では人を傷つけることができる。ましてや人殺しも可能だ。それは魔法にも言える、『治癒魔法』は人を癒すため。《二刀一重の太刀》の『分離』と『結合』の五法句は悪く言えば効率的に殺すためだ。
同じ魔法でも方法句が違えば自ずと善悪は決まる。絶対悪と判断された術者、五法句を取り締まるのが魔法聨盟の存在する理由であり、その対抗手段として必要悪の五法句と剣を取った四龍鍛が制圧力となる。
だが魔法聨盟の仕事はそれに留まらず善良な術者の施設面、金銭面の援助も行っている。
他にも術者の階級も定めている。それはオリヴィアが追う〔賢人級〕の超高位術者、仮称『正体不明』の〔賢人級〕がそうだ。階級は上から順に〔大賢人級〕〔賢人級〕〔大術者級〕〔高術者級〕〔小術者級〕の五つに格付けされる。余談だが最高位〔大賢人級〕は過去に10人以上現れておらず、今現在は一人しかいない。
この階級は詳しい線引きがされているが『正体不明』の〔賢人級〕はあくまでもブラウン議長が暫定的に決めた仮の階級で後々変わることも十分有り得る。
「いつ正式な命令がきてもいいように旅の準備でもしとこうかなーだったらお姉さまにも伝えておいたほうがいいかもね……」
なんて独り言をただ一人の自室で呟く。現に一人しかいない部屋なので本当に独り言として終わったように見えたが…
「オリヴィアさん、アレクシスに用事が?」
「うわあぁぁーーー! ジ、ジン様!? 何でここにッ! というかここ……私の部屋なんだけど?」
昨日も同じように突然声が出現したような気がする。お世辞にも天井は高いとは言えない部屋だ、流石に頭上には現れなかったが、それ同様に驚くことはできた。
今回はドアに背中を預けていたらしい。
オリヴィアの驚愕から嫌悪感の滲む表情に変化したのを見なかったことにしつつジンは自分の話を再開した。
「聞いたとこアレクシスに新規の仕事が入る──ってことで合ってる?」
「えぇ……正式決定じゃないですけど恐らく私とお姉さまが長期の任務に出ると思います……はい」
「なるほど、で? いつ頃使いが来るの?」
「もうそろそろだと思います……そういえばお姉さまの元から離れても大丈夫なんですか?」
オリヴィアの知識の中では大精霊ジンは単独行動は不可能と覚えていた。そして今はアレクシスの視界から居ない、つまり彼女の知識と現実は解離してしまっている。それを見過ごせる性格の持ち主ではないオリヴィアは聞かざるおえなかった。
「今は好きにしていいって言われているし頼まれでもしない限り護衛には付かないよ? それとこちらから一つ質問、どうしてそう思ったの? 確か君には僕達の契約内容の詳細は話してないはずだけど?」
「それはですねー私が学生の頃、図書室で偶然ジン様の文献を見つけたのでついつい読んでしまったので……えーとそこには『ジン』は契約した守護者に半永久的に憑いていなければならない。と」
「ふーん。その文献は今も図書室に?」
「はい、でも図書室というよりは立派な図書館みたいに広いので探すつもりなら私が行きましょうか?」
「探して読むのではなくてね……ちょっと嘘の書かれた本は消さないといけないから、もし君が借りてきたら迷惑が掛かるだろう?」
すると青いマントの中から右腕を突きだした。改めて見ると服の素材はどうやらゴム製らしく素材としては全く見かけない。やはりと言うべきか、腕にも白線が無数に這っている。
しかし何を意味するのかはご本人に問わなければわからない。
「あの~何をなさるおつもりで?」
「文献を魔法で消す」
「いやいや、いくら大精霊ともあろうお方でも…………」
ジンは右手を前に出したまま目を閉じた。なにやら意識を集中しているらしく、眉間の皺が深くなるのがわかる。
ジンの顔から右手に注意を向けると、まるで手先から二の腕の半分にかけてガラスの如く透き通っていた。透明度は手先が高く二の腕にかけて徐々に低く、服の漆黒色と浮かぶ白線が見える。が、それも僅かな瞬間だった。輪郭を保っていた手先はようやく本来の姿を取り戻したかのようにいち早く形を消していた。
「何でまた僕の本が書かれているだ……」
そう毒づいているとジンの右腕は実体が戻っていた。一仕事終えたらしくマントの中に右腕を仕舞った。
さながら平素を装い部屋を退出しようとするジンを制し一つ聞こうとする。
「まさか……今ので文献を消したのですか?」
「うん、消したんじゃなくて具体的に説明するとその本だけ火の素で燃やした」
「ええぇぇえーーーーッ! あっいや! でもご、五法句の詠唱が無かったじゃないですか!」
「大精霊だとこのぐらいはどうってことないよ」
「へぇーそういうものですか……」
毎度のことながらこの大精霊様には驚かされる。
魔法の行使上避けては通れないルール、五法句の詠唱。大原則すらも無視するとは流石大精霊。
その後二人は解散し、命令が下り次第オリヴィアが直接アレクシスに伝える流れに決まった。が、小一時間も経たずに元老院の使者はトール家の玄関を叩いたのである。
─《トール家》 玄関─
「トール家長女アレクシス・レブル・トール殿、同じく次女オリヴィア・レブル・トール殿。元老院より書状をお持ちいたしました!」
早すぎるような遅すぎるような、しかし一日足らずで各関係者の承認を得られたと考えれば十分早いのではと考えられる。
「ご苦労様で……ってカーターさんでしたか」
「オリヴィアさんお久しぶりではないですね、なんと言えばいいでしょうか?」
「困りますよねこういうときハハ」
挨拶の内容について思案を巡らせる彼らだったが、カーターの方は任務を忘れる等という愚行は犯さなかった。
「えーこちらが元老院議長より預かっている書状です。ご確認を」
「中身……ですか?それならお父様の方がよろしいかと」
「問題ありません、どちらが先に拝見なさるかはあまり関係ないことだと思います。内容を知っていますので申させて頂きますが、この事件、事情通なのはあなた様ですのでそちらの方が理解が早いかと……」
「はぁ、では──なるほど了解しました。お姉さまにも伝えた後すぐに出発します」
「別に24時間以内なら問題無いのですが……いいえ止めません。ご武運を」
カーターが預かっていた書状には昨日の召集で語られた内容をそのまま書き写したものだった。要約すると、〔賢人級〕の超高位術者『正体不明』(正式名)の拘束もしくは抹消。『《ヤルト村》事件』(同じく正式名)の再調査兼証拠収集。これをアレクシス・レブル・トール、オリヴィア・レブル・トールの二名に命ずる。
「ありがとうございますカーターさん。せっかくなんで家でゆっくりしていって欲しいのですが生憎家の者が出払っていて……」
「お気遣いありがとうございます。私も用件が済んだらすぐに戻るよう命じられていますので」
程無くして会話は終わり早速オリヴィアはアレクシスにこの旨を話に行った。
─《トール家》 アレクシスの自室─
「元老院より書状が届きました」
「ジンから聞いたわ、あなたとんでもないハズレくじを引いたわね。まさか〔賢人級〕とは……」
「で、何故既に準備が完了しているのですか?」
オリヴィアがアレクシスの自室に踏み行った時には任務用の服装に着替えていた。胸には質素な茶色のレザーアーマー、その下には白のカットソー夏の季節をむかえたので半袖仕様だ。
ボトムスはこのあと馬に跨がるのを考慮してかスカートではなく黒のサブリナパンツだった。
左腰にアレル帝国の紋章──リンドウが彫られた50センチメートルの両刃短剣の鞘が提げられていた。そしてそれらの上にアリスブルーの首もとにボタン、フード付きのマントを羽織っていた。
実はアレクシスのマント、武勲を立てた者のみ纏うことを許された、まぁさぞかし素晴らしいものだ。
二十歳では普通ならあり得ないが、しかし彼女の場合やはり『大精霊ジン』と契約が帝国より武勲として認められた。
「ジンから教えてもらったの。その様子じゃ気づいてないようだからネタバレ。カーターさんとやり取りしているときアイツあなた達の真上にいたのよ?」
「通りでお姉さまが知り得ない『正体不明』のことも……やっぱり隠し事は出来ませんね」
「でも諜報関係の仕事は全部断っているわよ?」
「多分それが正しいです。度が過ぎると帝国民の人権が消し炭になっちゃいますもん。それはそうと今回はアゾット剣を持っていくのですか? というか必要あるんですか?」
「あるわよ! 私だって剣士の端くれなんですから!」
「自称"魔法剣士"ただし魔法と剣術の割合が9対1の後方支援型さんが何をおっしゃっているのやら」
アレクシスが腰に携(たずさ)えているアゾット剣は柄頭に火の素を結晶化、ルビーに埋め込み火の五法句に特化したかなり魔法よりの剣だ。よってオリヴィアが言っていることは大体合っている。
「せめて4対6」
「なら、素装剣術を実戦で使えないとね……げっ!」
目線をアレクシスにやるとアゾット剣を震える手でオリヴィアに向けて構えていた。
おそらく誰がみても狂喜の沙汰だと思うだろう。
「リ・ヴィ・ア・ちゃ・ん?私が14才でジンと契約して以来【硬度制御】はおろか【一般魔法】も使いずらいのを知ってのことかしら」
「お、お姉さま落ち着いて……!」
補足だがアレクシスは使いずらいのであって、全く使えない訳ではないのだ。原因はアレクシスにも分からないらしい。
もう一つ、オリヴィアがさらーと口に出した『素装剣術』とは相反するはずの魔法と剣が融合した技術。
剣以外にも武器として扱うことが出来るものなら五大素〔土 水 火 光 闇〕の代表的な効果を付与出来る。だがしかし剣術の上に魔法を上乗せするのだから使える人は四龍鍛の中でも少数だ。
「まぁいいわ、護身用よ」
「はぁー怖かったぁーじゃ、じゃあ私も準備しときますね」
「はーい馬小屋で待ってるね」
いそいそと自室に入り準備を整える。この季節に外に出るのだから少しは涼しげな格好でなければやっていけない。ひとまず今着ている普段着を脱ぎ捨てる。
仕事用の服を仕舞っているクローゼットを開ける。しばらく悩むオリヴィア、選んだ服は結局『《ヤルト村》の実地調査』で着ていた服装だ。
─《トール家》敷地内 馬小屋─
馬小屋には計6頭が過ごしている。6頭のうち2頭は既に心を通わせた主人がいるのだがそれはルイスとアレクシスだ。
その点オリヴィアといえばこなした任務は一回のみ、乗馬の練習で跨がっていた馬とはまた別の個体だったりする。
「お待たせいたしました」
「それじゃ……んしょ、行くわよ!」
愛馬に跨がるアレクシス、その身のこなしは軽やかでまた美しい。同性であろうとも目を奪われるのは必然だろう。が同時に僅か2年の差が大きな隔たりをオリヴィアに否応なしに感じさせた。
「久しいわね、絖喚」
「そっか半年だもんね」
絖喚、アレクシスの愛馬の名。数週間前は大陸の西の果ての都市で起きた領土権を巡る問題を解決するべく、アレクシスを様々な地に運んだ剛脚の持ち主だ。
絖喚の顎下を撫でてやるとブルルと満更でもない様子でないた。
オリヴィアも不馴れながらも『《ヤルト村》の実地調査』のときお世話になった(アレクシスに会うため超高速で帰った節がそれだ)馬、名を『不羇』と云うが彼に跨がる。
実はこの2頭、姉弟だったりする。
「リヴィア? お昼ってどうする?」
「あっ!? 考えて無かった……」
「やっぱり」
「う~ん……中央道の店先で食べてく?」
「いいね! リヴィアの奢りならもっーーといい!」
「…………」
─アレル帝国 北西帝都中央道─
帝都は四龍鍛の四つの塔のように北西、北東、南西、南東に扇状で四区画に別けられている。先程から謂っているように《トール家》は北西区画に位置する。
各方角の帝都には二家の公家が住む。位置的に最も近い四龍鍛を管理するのが帝国が始まって以来の決まりだ。
それはさておき、オリヴィアとアレクシスは家の敷地内から脱し、北西方向に伸びる中央道をひた走っているのだが──
「お昼どこにする?」
並走しながらオリヴィアが質問する。
「私、ここら辺の飲食店制覇したしなー」
「私もー」
急に顔を合わせ不敵な笑みを浮かべるこの謎姉妹。
「結局あそこなのね……」
「いいじゃない! 味は折り紙つきだし!」
徐々に絖喚と不羇の速度を落としおりる。
目的の店は中央道沿いに店を連ねておらず、一つ道を曲がらないと行けない。
少し歩くとこじんまりとした趣のある店が見えてくる。店の入り口には『空米庵』と達筆な筆遣いで懸かれていた。
店名からは察するのは困難だが、入り口の横のお持ち帰り用の勘定場から漂う空きっ腹を刺激する匂いで定食屋ということが初見の客でも察するのは可能。
そしてオリヴィア達に用があるのもお持ち帰り用の勘定場だ。
「よぅ! 嬢ちゃん!」
「店主のおじちゃん! 元気だった?」
店の厨房から顔をぴょこんと面子に似合わぬさまで出してきた。
どうやらこの『店主のおじちゃん』はオリヴィアと顔見知りかそれ以上らしい。
「おうよ! 今日も繁盛してるぜ!──で、なんだい? 見たとこ中で昼食って訳でもなさそうだが?」
「えぇちょっとお手軽におにぎりでも」
「相分かった! ちょっと待ってな今品切れなんだ大急ぎで作ってくる!」
他の料理人を避けつつ狭苦しい厨房を大股で進み奥に消えた。
「変わらないわね、おじちゃん」
「そうだね。というか騒がしいのは相変わらずだけど」
昔馴染みの不変を見てついつい笑みを浮かべてしまう。
多分5分も経ってないだろう、厨房の奥からお盆と上に乗る二種類のおにぎり一人分を持って出てきた。
「はいよ! 嬢ちゃんは昔からこの紅鮭と梅がお気に入りだったな」
「はい、よく覚えてましたね」
「まぁなそれとそこのお方は何にしますか?」
空米庵の店主の声色が硬くなる。原因は武勲をたてた証拠のアクアブルーのマントのフードを目元まで被った謎の人物だろう。
「フフ、まぁ仕方ないわね」
深く被っていたフードをとり、その素顔を見せた、否、魅せたと表現しよう。
「そ、その朱色の髪……まさかアレクシスかい!?」
「はい、ご無沙汰しております」
と、外向けではない親しい人用の笑顔で。
「あっ……いや、なんつーかそのちょっと見ない間にえらくべっぴんさんになって……全然気付かなかったよ」
「そんなこと言っていると奥さんが悲しみますよ」
騒ぎ?を聞き付けてか厨房の奥から店主の奥さん──女将さんがやって来た。これが所謂(いわゆる)"噂をすれば影がさす"なのだろう。
「あんた! 早く仕事しなさいよ!……はっ! まぁーアレクシスちゃんにリヴィアちゃんじゃない!」
いや、さすがに驚き過ぎではないか?──と姉妹は思ったに違いない。たがそれがこの女将さんの性格なのだと理解しているからわざわざ言う必要もない。
「女将さん、長らくご無沙汰しております」
「あら、難しい言葉を覚えたじゃないリヴィア。感心、感心」
「むぅ~もう18なんですからね!」
この会話の最中に厨房に再度消えた店主。この間にはっきりと覚えていたアレクシスが好きなおにぎりを用意してきた。彼は普段ここまでのサービスはしない、それでもこの姉妹に対してはどうしても甘くなってしまう……そんな過去がある。
程無くして『空米庵』を去り、北西帝都中央道を走る。
─アレル帝国 北西帝都中央道 検問所─
「止まれ!」
突然検問所にお勤めの青年が二人を呼び止めた。ここ北西帝都検問所は事実上、帝都と他の土地との境界線だ。検問所に勤める人は四龍鍛から派遣された人なので一応オリヴィアとアレクシスとは同僚なのだが……
「何かしら、人探しなら大きな勘違いよ」
「そうではない……ゴボン、貴殿は『人類の擁護者』アレクシスか?」
「……えぇそうね」
「失礼。お渡ししたい物が」
そう言って検問所の中から一つ薄い直方体の黒光りする物とそれとは正反対の色をした白の直方体とそこから伸びるゴム製の紐。
「お待たせいたしました。《小型通信機》と《充電器》です。お二人とも使用経験がお有りと伺っていますので説明は省きます」
「ありがとう」
足で絖喚に常歩の指示を出す。ここで一回の指示で動き出す辺りが信頼が高い証拠。ではオリヴィア・不羇と謂えばオリヴィアは一応指示を出した、がそれよりも早く姉に遅れないように不羇が歩き出したのだ。
─《ヤルト村》 道中─
検問所を通過してから早30分ちょっと。辺りは長閑(のどか)な田園風景と化して横には小川も流れている。もし春なら初等学校の1年生が遠足に出掛けている。そう陽気な春なら……
例えばここに少しばかりかお口が悪いお兄さんがいたとしよう。彼にこの情景を語らせたらこう評しただろう…
「ちっ! なんだよくっそ暑いじゃねえかあー暑い! ふざけんな殺す気か!」と。
その通り、暑いのだ、ひたすらに暑い。
オリヴィアはこの文の月になると毎度思う事がある。
中央道の並木にへばりつくセミども、アイツがこの暑さを助長しているのではないかと。わんさか啼いているセミが小一時間ほど泣き止んでくれたらまぁさぞや体感温度は下がるはず。
「リヴィア……地獄ね……暑い……」
「ちょっと静かにしてくださいお姉さ─お姉ちゃん余計に暑くなります」
「うぅ~熱中症になるぅ~」
「こまめに水飲んでおけば少なくとも大丈夫、あとタオルってあります?」
「ん? タオルあるけど?」
不羇の歩みを止めて降りる。それに倣(なら)ってアレクシスも降りた。
小川の前でしゃがみ鞄からタオルを取り出す。アレクシスと自分のタオルを小川に突っ込み。何事かと見守るアレクシス。
「はい!濡れタオルの完成ー!」
「……それで顔でも拭くの?」
「フッフッフそんな甘いもんじゃありませんよ……」
いたずらっ子のように不敵な笑みで笑うオリヴィア、次にアレクシスにフードをとらせ後ろを向かせた。
「キャッ! 冷た! ちょっリヴィア!」
「へへーどう? 涼しいでしょ?」
「……確かに!」
しかし、これには気になる人には重大な欠点がある。それは──
「でもリヴィア、これって……『農家のおばちゃん』だよね?」
「ぷっ! アーハハ確かに! 似てる似てる!」
オリヴィア自身も今言われて気が付いた。農作業に従事するおばちゃんそのものだと。
吹き出すのも無理はない、まさにおばちゃんそのものなのだ。
あえてもう一度、農家のおばちゃんだ。これ
「笑うな! だったらリヴィアにもやってもらうからね!」
「ふぅー……ふっふンッ…………はぁーはぁー」
「どんだけ笑ってるんだよ!」
「もちろん私もやるわよ」
馬に跨がるやけにスタイルのいいおばちゃん二人は歩み始めた。
意図しないおばちゃん化から20分経過。この頃からというか最初から風景に飽きを感じる。しかしそれも中断することになった。
ガサッ──ガサッ──背丈が50センチメートルほどの低木から物音がする。絖喚と不羇がシュッと物音がした低木に顔を向ける。
「──!?」
「今の……何……」
いち早く察知したのはオリヴィア、続けてアレクシスが正体について問う。
物音がした低木は右前方10メートル、左側には小川が流れている。オリヴィアは念のため不羇からおりる。その根拠はそうしろと囁くのよ、私のゴー──な勘から来ている。
バッ──気にかけていた低木からなにやら黒い影が飛び出した。それはオリヴィア達に対峙する形で道を塞いだ。
「あれ……500年前の『異界の残党』よね……?」
「そう……ね、うん、そうだわ」
アレル帝国暦より約500年前、【ナタ大陸】北北東の端にてどこの軍ともつかぬ武装集団が一つ国を滅ぼした。
この頃はまだ大陸全土を手中に納める国は存在せず幾つもの独自の法律、土地を持つ国があるのみだった。
全国の代表者が一同に会し協議した。結果どこの国でもないことが判明し、数少ない情報から異界からやって来たと判断された。
武装集団の戦力は当時の規格外だった。それ故に遥か昔に栄えた超文明の遺物『ラグナ・シャーナ』によって一掃した。しかし敵が放った生物兵器『フェンリル』は生き残り、今も帝国の悩みの種だ。それが『異界の残党』
オリヴィアが対峙する『異界の残党』は山に棲むオオカミを2メートル級に伸ばしたようなものだった。他にも口元から漂うどす黒い瘴気と真っ赤に染まった目もアレクシスに『異界の残党』だと決定させた。
「お姉さま、援護を」
「ジンに頼めばすぐ──分かった」
我彼の差は10メートル前後、変化はない。
果たしてこの道端で斬り倒して問題ないかオリヴィアは思案を巡らしたが、いざとなればジンに任せればいいと責任転嫁を選んだ。
左腰にぶら下げていた《二刀一重の太刀》を抜き放ち刃を上に向け構える。銀の刀身が太陽の光を跳ね返す。かの太陽は両者の頭上、それは遮るものがないことを意味する。『フェンリル』は分からないがオリヴィアのこめかみから一筋の汗が流れる。果たして今のは冷や汗か、否か。
「Nodethhite・sword of Elemes・brasa・my long sword・Olivia」
《二刀一重の太刀》の刀身に深緋色の幾何学模様をした極薄の帯が二重螺旋を描きながら鋒に向かう。それは《二刀一重の太刀》の分離の五法句を詠唱したときと酷似していた。結末は少し異なり帯が収束するところまで全く同じ、ただ刀身──特に刃紋に沿って赤い、でも薄い光がなぞられていた。
『sword ofElemes』、『素装剣術』を発動させる方法句。後に続く素句の代表的な効果が武器に付与される。今回は火の素、付与される効果は『火炎攻撃』だ。
対人戦闘では相手も【一般魔法】を習っている可能性が大いにある。そのために五法句を詠唱する際には小声で発声するのが基本。なぜなら方法句、素句、対象句が聞かれてしまったらそれだけで発動する内容が丸裸にされてしまうからだ。と謂ってもオリヴィアが敵対するのはオオカミ、到底理解出来るはずがない。しかしそれでも小声で詠唱してしまう。
「ハァッ!」
先制攻撃はオリヴィアが取った。10メートルを全力疾走で1秒もかけずに走る。上向きの刃を時計回りの軌道を描き『フェンリル』の口を狙う。しかし『フェンリル』もその体格から想像もつかぬ速度で後ろ向きに飛んで躱す。
オリヴィアは太刀に手応えが無いのを感じるとそのまま勢いを殺さず高速一回転する。
「速い……!」
次は『フェンリル』がその鋭利な牙を武器に飛び込んで来た。相対距離は2メートルとさっきの5分の1だ。
太刀で受けるにしても遅すぎる。一か八か左に避ける。右ならば良かっただろう。なんせ左側には小川が流れているのだから。
バシャッン──低いが土手のせいで肩から小川に突撃する。太刀が水に触れ蒸発する。
それをものともせず逆に好機と見たのか『フェンリル』はすぐにこちらに向き直した。
「お姉さま! 私を上げて!」
この戦いを絖喚の後ろから見守っていたアレクシスとジン。急に援護と要求が迫りはっとさせられる。
指示はオリヴィアを上に上げる、色々と省いた命令だったがこれっきしで伝わらない姉妹ではない。それはジンも同じだ。
アレクシスは実戦で通用する魔法は使えない。それはジンと契約して以来の足枷のようなもの。が同時に本来人には扱えない五法句を扱う力を手にいれた。
それはつまりジンに代わりに行使してもらうこと他ならない。
「オリヴィアッ!」
普段の彼からは予想だにしない大声でオリヴィアに合図を送った。オリヴィアはジンを見ずただ敵と睨みを利かせる。それでも頷いた。
ジンは左腕を水平にマントから出し、肘を上に曲げる。行ったのはそれだけだ。
突如オリヴィアが浸かっていた小川がオリヴィアを持ち上げ、真上に跳ばした。
今のはジンの特権のような、五法句の詠唱を省いて魔法を行使する。云わば『無詠唱行使』──
「ありがとう!」
それだけ言って10メートル近く跳んだオリヴィアはやがて自由落下を開始した。その頃『フェンリル』といえば視界が急に水しぶきにかわり狙っていた獲物は頭上にいるわとたいへん困惑していたに違いない。
だが、流石『フェンリル』落ちてくるところを仕留めようとジャンプの構えをとる。
「ハアアァァァァ────ッ!」
太刀と体が一直線になるように落ちていく、否、『フェンリル』の首もと目掛けて鋒を真下に切り込む。
それを無視する『フェンリル』ではない。獲物が自身のどこを狙っているのかすら本能的に察知していた、しかし上を向くにもそこにあるのは目が眩むほどの太陽だけだ。
──グサッ──
耳障りな音がオリヴィアの太刀からする。だがそれは決してオリヴィアにマイナスの効果をもたらすものではない。そう狙い通り、『フェンリル』の首に真上から突き刺すことに成功した。衝撃を避けるために突き刺した瞬間柄から手を離し、宙返りの要領で一回転し着地する。
『フェンリル』から太刀に焼かれた肉の匂いが漂う。首の切断、および焼却──勝負は決した。
「お疲れ、リヴィア」
「た、大したことないわよ」
自慢気に、でもどこか照れ臭そうに答えた。頬が赤くなるのはオリヴィア自身もわかっているはず。
あまり見られたくないので太刀を回収するふりをしながら顔を隠す。
「この死体どうする?」
「いえ、差し支えありません」
オリヴィアの予想は的中した。人力が及ばない時には『大精霊』の力を借りるのが手っ取り早い。
ジンは右手の親指と中指で鳴らすと死体と化した『フェンリル』が今度は業火に包まれた。
「数分で全焼します。さぁ行きましょう」
突然のお尋ね者に邪魔されながらも彼らの目的地『《ヤルト村》の再実地調査』と〔賢人級〕『正体不明』の確保を目指し歩き始めた。
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