拾ったネコがくれたもの

小夏 礼

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3.ノアと新しいご主人

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吾輩はネコである。
名はノア。


この名は、新しいご主人である舞加が付けてくれた。
なんでも、どこかの国の言葉で「黒」という意味らしい。
吾輩の体の色が黒だからだろうな。
安直かもしれないが、覚えやすくて吾輩は良いと思うぞ。



さて、吾輩がなぜ舞加に飼われるようになったかについて
少し語ろうか。

まず、吾輩には別のご主人がいた。
夫婦と小さい子どもがいる家族に飼われていた。
だが、ある日家の主が転勤することになり、
その転勤先では動物が飼えないということで、捨てられたのだ。
母親が泣いて抵抗する子どもにそう言っているのを聞いたので、
間違いないだろう。

なんとも無情なことだった。
これでも子どもの頃から5年飼われていたのだがな。

とはいえ、生きていかなくてはならないので、
捨てられた後は野良としてしばらく過ごした。
もともと飼われていた時も時々外に出ていたので、
何とか生きていけたのだと思う。


そんな風に生きていたのだが、
あの日、運の悪いことに、速く走る硬い塊……車というやつに
少しだけ触れてしまったのだ。
そのせいで怪我を負い、体全体が痛くなり、血がたくさん流れたので、
これで死ぬのかと思った。
朦朧とする意識の中、
最後は誰もいない場所で死ぬのかと思うと悲しかった。

そう思った時、誰かが吾輩を抱き上げてくれたような感覚があった。
その時は意識がほとんどなかったから、確信が持てなかったが、
ただ、吾輩に触れた人間の手が温かいと思ったことは覚えていた。


次に意識が戻った時、吾輩は透明な箱の中にいた。
そこがどこなのかわからなかったが、
どうやら助かったらしい。
体のあちこちを白い布で巻かれていて少し窮屈だったが、
血が止まっているので大丈夫なのだと思った。


しばらくすると、白い服を着た人間の男が吾輩のことを見に来た。
この恰好をしている人間を前にも見たことがある。
確か、病院とかいう場所で注射という痛いことをする人間だ。

それを思い出し、一気に警戒心がでたが、
体が思うように動かず、威嚇がうまくできなかった。
む、無念だ。
という吾輩の警戒心も空しく、
白い服を着た男に、怪我が治るまで世話をされた。
(時々あの注射という痛いことをされた恨みは忘れないぞ……)


怪我が治るまでの間、1人の女が頻繁に吾輩を見に来ていた。
誰だがわからなかったが、
白い服の人間が言うには、この女が吾輩を助けてくれたらしい。
なんとも有難いことだ。
さらに、怪我が治った後は、家に連れ帰ってくれたのだ。

こうして吾輩は舞加に飼われるようになった。


舞加はとても優しいご主人だった。
吾輩のために心地よい寝床や使いやすいトイレ、爪とぎ場所を用意してくれた。
食事も味が最高で値段がお高いキャットフードだ。
研究熱心なのか凝り性なのか、吾輩が快適に過ごせるように
いろいろ試行錯誤してくれた。

そして、なんといってもブラッシングが気持ちいいのだ。
舞加はとっても丁寧に吾輩の毛にブラシを入れてくれる。
本当にうっとりする。
いつまでもしてほしいと思うぐらいテクニシャンなのだ。
そのおかげで、吾輩の毛並みは以前よりもサラサラの艶々になった。


捨てられた時は世の無常を嘆いたが、
こんな素晴らしいご主人である舞加に出会えたことは、
とても幸運だと思う。



「ただいま」
舞加が帰ってきたので、「おかえり」と返事をした。

ちょっと疲れた様子なのはいつものことなのだが、
今日はさらに悲しそうな、痛みを耐えるような顔をしていた。

理由がよくわからないが、舞加は時々こんな表情をする。
そんな時は、吾輩は舞加にすり寄ることにしている。
吾輩を撫でると舞加は嬉しそうにしてくれるので、
撫でてくれと催促するために。

悲しそうな顔より笑っていてほしいからな。

今日も撫でてくれと催促すると、撫でてくれた。
いつものように、優しく温かい手だ。

撫でられながら吾輩は思う。
吾輩の命を助け、愛情を持って飼ってくれる大好きなご主人のために、
吾輩はもっと何かできないのだろうか。
最近の吾輩の悩みである。


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