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第3章 勇者たちの行方
2.
しおりを挟む持田へはステータスの件は適当にはぐらかした。
(直感的に伝えてはならないと思った)
それしかなかった。
持田と俺の絡みをエリーゼ姫が見ていたのを
俺が気づくことはなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
宴会は適当な時間で終了した。
未成年だからだろう、雰囲気に酔うことはあっても本気で酔う奴はいなかった。
俺は遠藤と安藤の待ち合わせまで
周辺を散策する事にした。
「健二郎さんですね?」
後ろから呼び止められた。
振り返ると、エリーゼ姫だった。
「エリーゼ姫がこんな時間にこんな所にいるなんて、、、」
「あなたの姿が見えましたので。
宴会は楽しんでいただけましたか?」
「えぇ、まぁ。それなりに」
「明日から勇者様にはみなさんの士気を、あげていただくように頑張って頂かないとですからね」
「勘違いしているようですが僕は勇者ではありませんよ」
「いいえ、貴方が勇者です。
加護持ちを舐めてはいけんませんよ?」
なんだろう、またこの靄が、、、、
「おいおい、お姫様がクラスのモテ男に
早速声をかけるなんて、案外おませさんなんだな(笑)」
そこにいたのは、〈佐々木 隼也〉だった。
よく一人でいることが多いが、一匹狼のような男だ。
「ふふっ、そんなことはありませんよ?
夜は冷えますし、何かと危ないですので、お気をつけてくださいませ」
エリーゼ姫は戻って行った。
「お前も靄がかかる人だったんだな」
佐々木が俺に聞いてきた。
「もしかしてお前もか?」
「あぁ、転移ってーのをしてからずっとな。あの姫さんが話すと妙に頭に違和感を感じるんだよ」
「俺、この後遠藤と安藤に会う予定なんだ。佐々木も来てくれないか?」
「なんで俺が行くんだよ」
「あいつらも靄がかかってた奴らなんだ。きっと共通点があると思う」
「そうか、、、んじゃ一緒に行かずに近くにいて、お前の方から安藤と遠藤に話してくれないか。問題なければ俺が出て行く。」
「わかった。付いてきてくれ」
俺は佐々木と一緒に
安藤と遠藤のところに向かった。
-----------
(私の能力が効いてるかと思ったけど
もしかして効いてない人がいるのかしら?)
「タハール様へ確認しないと」
エリーゼ姫は親指の爪を噛んでしまった。
「いけない、癖が出てきてしまった。
これは本来の姫さんならやらないもんね」
カルチャらエリーゼの顔を触って確かめる。
ボロが出ていないかどうか。
エリーゼこと《カルチャ》が元々魔人としての能力を持っているわけではなかった。そしてこの作戦にも本来はカルチャは参加する予定ではなかった。
だが、この作戦に参加できたのはタハールが用意した能力に適した魔人だった。ただそれだけ。ただ、それだけのこと。
それでもカルチャはそれで十分だった。
何も能力を持たない魔人として虐げられていた自身に、タハールは手を差し伸べてくれたのだ。
初めて魔人として、魔王様の役に立てることができている。それが自分の生きる使命であると。
カルチャの心はそれだけで、この人間臭い場所であっても辛くはなかった。
たとえそのあと待つのが死のみだとしても。
魔王様の完全復活までは、、、
あぁ、楽しみで仕方ない。
この世界が炎の赤色で染まっていくのが楽しみで仕方なかった。
(その中で私は死ぬこと。これ以上の幸せがあろうか…)
------------
俺は佐々木を庭の茂みに隠して
安藤と遠藤の待ち合わせの場所に向かった。
「本当に来てくれた」
安藤はありがとうの意味も込めてか右手を出した。
握り返すのを躊躇ってしまった俺を安藤は気づいていた。
「別に毒なんて仕込んでないから安心してよ」
「そういうわけじゃ、、、」
「まぁいいさ。それくらい疑り深くないとこの国では生き残れないしね」
安藤の後ろで遠藤が俺を見ていた。
「突然の話でごめん、けど1番に話した方がいいと思って」
「その前に、佐々木もここにいいか?
あいつもエリーゼ姫のことを疑っているらしくてな。口も固いと思うが…」
「私はいいけど、ユウイチはどう?」
「俺も大丈夫」
俺は後ろに下がり佐々木に合図を送る。
「俺は別にお前らの仲間になったと言うわけじゃねぇ。けどよ、易々とこの命を掛けられるほど、この国には縁もねぇからな。それにあの姫さんが気になるからってことだ、宜しく」
ダルそうにこちらに歩いてくるが
目は本気だった。
「僕は佐々木くんが裏切るだなんて思ってないから、安心してほしい。ギブアンドテイクができる立場ではないから保証なんてもんは、何もないけど」
「大丈夫だ、そこまでは強要しねーから。それとも強要したほうがいいか?笑」
遠藤は眉間にしわを寄せる。
「はいはい、ここまで。とりあえずあたしらはとある共通点でここに来ている。その認識はオッケー??」
俺も遠藤も頷く。
佐々木はノーリアクション。
「みんな、あの姫様の発言やら行動に違和感を感じたってことでいいんだよね?」
改めて頷く。
「私のステータスは忍者。どうやら隠密行動とか隠れ身の術とかそう言うのをスキルとして持ってるわ。もともと人を疑うような職種柄なのかわからないけど、あのお姫様が話すとどうも目の前に靄がかかったような感じになるのよ」
「俺は予言者というステータスだ。といってもレベルが低いせいかいつでも未来が観れるとは限らないが、、、俺は転移時に自分らの未来を見てしまった。それもあって、みんなに集まってもらった」
「俺は解術師だ。呪いとかそう言うのを解く仕事らしい。もちろん呪いも。お前らにとっては悪くねー人材だぜ」
「俺は、、、、」
ここでいってしまっていいのか。
「勇者なんでしょ?」
遠藤が確認する。
「自分だけ言わねーのはどうかと思うけどな?」
佐々木が嗾けてくる。
たしかにそうだ、こんなところで1人だけ言わないのは結束力を高めていきたい中で、俺だけ言わないのは…
「俺は、たしかに勇者だ。だが、その責任は取れるとは限らない。頼られても正直困るのだ、俺は…」
「和田がいねーからか?いつもアイツの背中追いかけて、相手にされてない日々を味わってたもんな。そんなアイツが急にいなくなった、、お前は追いかけるものがなくなったただの迷子だろ?」
「佐々木、あんたねぇ!」
「いや、いいんだ。間違ってないから。俺はどこがでアイツがいることを、そしてこの状況を変えてくれると甘えてたのかもしれないな。………そんなことアイツがしてくれるはずがないのに…」
《-追いかけてきてくれる奴がいなきゃ、逃げる意味がないわ。あなたはずーっと私を追いかける、追いかけることの出来る立場でいなさいよ---》
昔の記憶が蘇る。
「でも、もし和田さんと深見くんが生きているとしたら…?」
遠藤くんが尋ねる。
「言ったよね?僕は預言者だ。僕は和田さんと深見くんが森の中にいる姿を見たんだ。たしかにこの国に転移してきている」
「それじゃ、この世界で生きていると言うのか!?」
「だから、その可能性が高い。そして、僕たちはあと数ヶ月で死ぬ」
------沈黙が流れる。
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