都会の夢

羽島 翔

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千年の孤独

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地上30階のマンションの一室にいる。ここは僕が昨年買った億ションだ。家具はデザイナーズ家具である。部屋に白と黒のモダンな家具が配置されている。

僕は窓辺でコーヒーを飲んでいる。入っているのはインスタントコーヒーだ。ガムシロップも入っている。高いコーヒーにも挑戦したことがあるのだが、飲み慣れない味というものが人間にはあるらしい。いつもこれを飲んでいる。

実を言うと家具も揃えたがあまり気に入っていない。なんだか新しすぎてぎこちないのだ。結局のところ僕は和室の四畳半くらいの広さがいいのかもしれないと思っているのだけど、お金が余っているから仕方がない。商業的に成功したから今の生活があるのだろうが、いまいち幸福ではない。きっと彼女と別れたからだ。

彼女は「きっと振られるのは私の方ね」といっていた。僕は僕で振られるのは僕だろうと思っていた。初めはうまくいきそうに見えた。海で何時間も2人で佇んで、暮れゆく空を見ていても飽きなかった。だけど、いつからか彼女は田舎から都会の生活に憧れを抱いていた。僕は田舎の生活でいいと思っていたのだけど、彼女はそうも思わなかったようで、大学進学を機に東京に行くことになった。そして我々は別れた。最後は笑顔で見送ったから円満な関係で終わりを迎えたのはむしろ良いことだった。

そんなわけで僕はいま孤独の極地にいる。いつも窓に映る東京の風景を眺めている。彼女がどこかにいるかもしれないこの街の風景を。

僕が商業的に成功したのはまぐれ当たりだった。たまたま出会ったビジネス相手のビジョンが新しい物好きの目に止まって、ジムにくるお客さんが増えていった。僕は彼の会社の副社長になって成功したのだけど、いまの生活を見ると商業的な成功とは程遠い。毎日を忙しく生きていたらそれ相応の姿になっていただけだ。

僕の心の中の空っぽはいつ満たされるのだろうか...。この都会の荒野のどこかに彼女はいるはずなのだ。僕はコーヒーのカップをソーサーに置いていつまでもその景色を眺めていた。
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