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白い烏
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森の中へ逃げ込んだ僕とリリアは森の茂みに隠れていた。
「…ゼラ」
「なに?」
「私、殺されちゃうのかな」
僕はその質問に答えられなかった。
魔人になった人間は王宮に連れていかれるか処刑されるかのどちらかだ。処刑を逃れても王宮に連れていかれた魔人は恐ろしい罰を受けるらしい。どちらにしても、地獄だ。
「いこう」
話を誤魔化すように僕は立ち上がろうとする。
「待って!あれ」
「嘘だろ。ホワイトクロウだ」
そこには白い甲冑を着た騎士が数人いた。
そいつらの名前はホワイトクロウ。それは魔人を殺すために設立された騎士団。
「黒目、黒髪の少年と青い瞳に白髪の魔人を探せ! 女の方は殺して構わん!」
「移動しよう。ここにいたら見つかっちゃう。…リリア? どうしたの、リリア?」
僕の呼びかけにリリアは何故か動こうとしない。
「ゼラ、もういいの」
「もういいって…」
「だって魔人を庇ったらゼラが英雄になれなくなっちゃう」
リリアは泣いていた。そして、手の甲を僕にみせる。
黒い斑点模様は最初に見たときよりも一回り大きくなっていた。
「私の夢は、もう叶えられない。でもゼラは違う。茂みから出てホワイトクロウにどうしてここにいるか聞かれたら、魔人に襲われて逃げたって答えるの」
ここまで聞いてようやくリリアのしようとしていることがわかった。
リリアは自分の夢を捨てて僕のために死のうとしている。
「わ、私の代わりにゼラは夢を叶えて。立派な英雄になってね。い、いつも迷惑かけてたけど最後くらいは、じ、自分で、なんとかするから」
鼻水混じりの震えた声でリリアは茂みから立ち上がる。
「おい!魔人がいたぞ!」
騎士の一人が剣を抜きながらリリアに近づく。
いやだ。
リリアが死ぬ。
なんで。
魔人だから。
なんで魔人だと殺されなきゃいけないんだ。
なんで。
こんな世界、間違ってる。
「うわぁあああああああ!」
足が勝手に動いていた。時間がゆっくりと動く。これでもう僕は英雄になれない。けど、後悔はなかった。友達一人守れない英雄なんてならないほうがいい。
僕は雄叫びを上げながら騎士に向かって体当たりした。
「なんだこのガキ!」
「ゼラっ、なんで…」
「リリア!逃げろ!」
「でも…」
「いいから!早く!」
「クソ!邪魔だ、どけ!」
騎士の振りかぶった拳が僕の顔面にめり込み、地面に叩きつけられる。
「ぐあっ」
頭がくらくらするがリリアに向かおうとする騎士の足を両手でがっしりと掴む。
「このガキ!離しやがれ!」
「行かせ、ない」
リリアのいた方を向くとそこに人影はなかった。
よかった。逃げ切れたみたいだ。
「くそっ。見失っちまった」
「どうする。捜索を続けるか?」
「だかもう直ぐ日が暮れる。これ以上は危険だぞ」
「今日は一旦引き上げるか」
「その前にこのガキころしてもいいよなぁ!こいつのせいで魔人を殺し損ねた!ちくしょう!」
「魔人を庇うのは立派な反逆罪だ。そのガキは孤児らしいし問題ないだろ」
「へいよ」
騎士が僕の首に剣を当てがう。
「待て。そういえば研究所の奴が被験体を探してたな」
「被験体?」
「今朝の集会で言ってたろ。魔人化実験だよ」
「ああ!そうだった!」
騎士たちはおもちゃを見つけた子供のように笑う。
「おいガキ。これからお前が味わうのは死刑なんて生やさしいもんじゃないぞぉ。死よりも恐ろしい生き地獄だ。ククっ、せいぜい頑張るんだな」
そして、騎士たちの愉快な笑い声が森の中に響き渡った。
「…ゼラ」
「なに?」
「私、殺されちゃうのかな」
僕はその質問に答えられなかった。
魔人になった人間は王宮に連れていかれるか処刑されるかのどちらかだ。処刑を逃れても王宮に連れていかれた魔人は恐ろしい罰を受けるらしい。どちらにしても、地獄だ。
「いこう」
話を誤魔化すように僕は立ち上がろうとする。
「待って!あれ」
「嘘だろ。ホワイトクロウだ」
そこには白い甲冑を着た騎士が数人いた。
そいつらの名前はホワイトクロウ。それは魔人を殺すために設立された騎士団。
「黒目、黒髪の少年と青い瞳に白髪の魔人を探せ! 女の方は殺して構わん!」
「移動しよう。ここにいたら見つかっちゃう。…リリア? どうしたの、リリア?」
僕の呼びかけにリリアは何故か動こうとしない。
「ゼラ、もういいの」
「もういいって…」
「だって魔人を庇ったらゼラが英雄になれなくなっちゃう」
リリアは泣いていた。そして、手の甲を僕にみせる。
黒い斑点模様は最初に見たときよりも一回り大きくなっていた。
「私の夢は、もう叶えられない。でもゼラは違う。茂みから出てホワイトクロウにどうしてここにいるか聞かれたら、魔人に襲われて逃げたって答えるの」
ここまで聞いてようやくリリアのしようとしていることがわかった。
リリアは自分の夢を捨てて僕のために死のうとしている。
「わ、私の代わりにゼラは夢を叶えて。立派な英雄になってね。い、いつも迷惑かけてたけど最後くらいは、じ、自分で、なんとかするから」
鼻水混じりの震えた声でリリアは茂みから立ち上がる。
「おい!魔人がいたぞ!」
騎士の一人が剣を抜きながらリリアに近づく。
いやだ。
リリアが死ぬ。
なんで。
魔人だから。
なんで魔人だと殺されなきゃいけないんだ。
なんで。
こんな世界、間違ってる。
「うわぁあああああああ!」
足が勝手に動いていた。時間がゆっくりと動く。これでもう僕は英雄になれない。けど、後悔はなかった。友達一人守れない英雄なんてならないほうがいい。
僕は雄叫びを上げながら騎士に向かって体当たりした。
「なんだこのガキ!」
「ゼラっ、なんで…」
「リリア!逃げろ!」
「でも…」
「いいから!早く!」
「クソ!邪魔だ、どけ!」
騎士の振りかぶった拳が僕の顔面にめり込み、地面に叩きつけられる。
「ぐあっ」
頭がくらくらするがリリアに向かおうとする騎士の足を両手でがっしりと掴む。
「このガキ!離しやがれ!」
「行かせ、ない」
リリアのいた方を向くとそこに人影はなかった。
よかった。逃げ切れたみたいだ。
「くそっ。見失っちまった」
「どうする。捜索を続けるか?」
「だかもう直ぐ日が暮れる。これ以上は危険だぞ」
「今日は一旦引き上げるか」
「その前にこのガキころしてもいいよなぁ!こいつのせいで魔人を殺し損ねた!ちくしょう!」
「魔人を庇うのは立派な反逆罪だ。そのガキは孤児らしいし問題ないだろ」
「へいよ」
騎士が僕の首に剣を当てがう。
「待て。そういえば研究所の奴が被験体を探してたな」
「被験体?」
「今朝の集会で言ってたろ。魔人化実験だよ」
「ああ!そうだった!」
騎士たちはおもちゃを見つけた子供のように笑う。
「おいガキ。これからお前が味わうのは死刑なんて生やさしいもんじゃないぞぉ。死よりも恐ろしい生き地獄だ。ククっ、せいぜい頑張るんだな」
そして、騎士たちの愉快な笑い声が森の中に響き渡った。
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