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手と手をあわせて
薄暗い部屋に住まうもの
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『──中断するときは、画面左下の【⏯️】このマークをクリックしてね』
画面の中に表れた、やけにポップにデフォルメされた緑色の生き物──ゴブリンがそう話しかけてくる。
その指示に従いマークをクリックすると、明るかった画面には薄暗いフィルターが張られ中央には─PAUSE─と文字が表示される。画面の中の世界で蠢いていた小さな生物達も、眠りについたように動きを止めていた。
「──生産・作戦フェーズ中も時間は進むんだな。オフラインで他のプレイヤーがいるわけでもないのに、変なとこにこだわるゲームだな・・・」
このゲームはどうやら、生産をしたり作戦を練ったりするフェーズと、実際にユニット同士を戦わせる戦闘フェーズを繰り返しながら進めていくようだ。
それぞれに時間が決められていて、何もしないでいても他の勢力はどんどん力をつけてじわじわと迫ってくるというわけだ。
用意しておいた飲み物がなくなってしまったため補充をしようと思ったのだが、どうやって止めるのかと色々マウスとキーボードを操作していたところ、画面右下に一時停止のマークを見つけた。
画面の横に置いてある目覚まし用だった時計を見ると、現在時刻は深夜2時らしい。
もう誰も起きてるものはいないだろうが、凝り固まった身体を慎重に動かし、音を立てないよう静かに部屋のドアを開け拠点の外へと出る。
ミシリ、ミシリと歩く度に音が鳴る階段を、なるべく音を殺しながら進む。この時間は誰もいないとは思うが、いつどこから奴等が現れるか分からない。すぐに逃げ出せるよう心の準備くらいはしておかなければ・・・。
無事、食料や飲み物が貯蔵された部屋に辿り着くことができた。ついでに食料の補充もしていくとしよう。ひとまずは喉の渇きを潤すために冷蔵貯蔵用の白い箱の扉を開ける。そこにはまだ誰も手をつけていないいつもの飲み物が入っていた。慎重にそれを取り出し、慎重に蓋を開ける。弛んだ隙間からプシュッと思ったより大きな音が出てしまった。
しばらく息を殺して身を潜めたが、奴等には気づかれなかったようだ。ほっと一息ついてから、開いたばかりの飲み物を直接身体に流し込む。甘ったるい刺激的な黒い水をどんどんと飲み込み、あっという間に3分の1ほど無くなってしまっていた。
適当に袋入りの菓子類と6個入りのロールパンを手に取り拠点へ戻ろうとすると、"ミシリ"という音が扉の外で響いた──
慌てて、でも極力静かに部屋の中央に置かれたテーブルの下に隠れる。ミシリミシリと鳴る音はだんだんと近づいてくるようだ。まずい・・・、このままでは奴等と鉢合わせになってしまう──
どう対処するべきかを必死に考える。いいアイディアなどはまったく出てこない・・・。浮かんでくるのはドロッとした汗だけ。鳴り続ける音に合わせるように、ドキン、ドキンと身体がまるでウーハーのようだった。
しかし、音の主が姿を現すことはなかった。どうやら用を足しに降りてきただけだったようだ。しばらくそのままでいると、水が勢いよく流れる音とまたミシリ、ミシリという音が遠ざかっていくのが聴こえた。
流れ出た水分を補給する。思いのほか水分を消費していたようで、半分以上残っていた飲み物があっという間に空になってしまっていた。
仕方なく棚の横に置いてあった常温の同じ飲み物を掴んで、また音を殺しながら拠点へと戻った。
拠点へと戻るなり戦利品を適当にベッドの上に投げ捨て、マウスで一時停止を解除する。何事もなかったかのように、画面の中の世界はまた時を刻み始める。
『──おかえり!さあ、何から始める?』
ポップなゴブリンが相変わらず楽しそうに話しかけてくる。名付けしたのは自分なのだが、一緒に表示されるこのキャラクターの名前と自身とのギャップに違和感しか感じない。こちらのほうがよっぽど醜いモンスターのようだ。
「──ふぅ。さて、次の戦いに向けてユニットの強化をしないとな。同盟を組んだからかコボルトの強化も出来るようになったみたいだし・・・う~ん。とりあえず初期レベルの高い槍使いの"シベリアンハスキー"みたいなのと、大剣使いの"ゴールデンレトリバー"みたいなのを強化しとくか?強化は・・・、ゴブリンと同じでいいのか・・・」
カチカチとマウスを操作する。強化に使うLEを入力して"Enter"キーを叩く。画面が光を放ち、効果音と共にレベルアップのエフェクトが表示される。
name:コボルトランサー
Lv:5 LP:10 SP:6
atk:6 def:5 int:2 spd:5
Skill:ベヒーモスチャージ Lv:2
フェンリルラッシュ Lv:2
未習得
name:コボルトブレード
Lv:5 LP:12 SP:5
atk:7 def:6 int:1 spd:4
Skill:オルトロスアタック Lv:2
ケルベロスアタック Lv:2
未習得
「──よし。こんなもんだろ。ハンターとホブも強化してあるし、コボルトが使えるようになってユニット数は増えたからなんとかなるだろ」
生産・作戦フェーズを終了するためのマークにカーソルを合わせマウスをクリックする。YES or NOの確認が表示され、迷わず"YES"をクリックする。
画面に戦闘フェーズの開始を告げるエフェクトが表示される。
「これが終わったら寝るとして、起きたら風呂入って少し部屋の掃除しよう。・・・面倒くさいけど、説明書探さないとな──
画面の中に表れた、やけにポップにデフォルメされた緑色の生き物──ゴブリンがそう話しかけてくる。
その指示に従いマークをクリックすると、明るかった画面には薄暗いフィルターが張られ中央には─PAUSE─と文字が表示される。画面の中の世界で蠢いていた小さな生物達も、眠りについたように動きを止めていた。
「──生産・作戦フェーズ中も時間は進むんだな。オフラインで他のプレイヤーがいるわけでもないのに、変なとこにこだわるゲームだな・・・」
このゲームはどうやら、生産をしたり作戦を練ったりするフェーズと、実際にユニット同士を戦わせる戦闘フェーズを繰り返しながら進めていくようだ。
それぞれに時間が決められていて、何もしないでいても他の勢力はどんどん力をつけてじわじわと迫ってくるというわけだ。
用意しておいた飲み物がなくなってしまったため補充をしようと思ったのだが、どうやって止めるのかと色々マウスとキーボードを操作していたところ、画面右下に一時停止のマークを見つけた。
画面の横に置いてある目覚まし用だった時計を見ると、現在時刻は深夜2時らしい。
もう誰も起きてるものはいないだろうが、凝り固まった身体を慎重に動かし、音を立てないよう静かに部屋のドアを開け拠点の外へと出る。
ミシリ、ミシリと歩く度に音が鳴る階段を、なるべく音を殺しながら進む。この時間は誰もいないとは思うが、いつどこから奴等が現れるか分からない。すぐに逃げ出せるよう心の準備くらいはしておかなければ・・・。
無事、食料や飲み物が貯蔵された部屋に辿り着くことができた。ついでに食料の補充もしていくとしよう。ひとまずは喉の渇きを潤すために冷蔵貯蔵用の白い箱の扉を開ける。そこにはまだ誰も手をつけていないいつもの飲み物が入っていた。慎重にそれを取り出し、慎重に蓋を開ける。弛んだ隙間からプシュッと思ったより大きな音が出てしまった。
しばらく息を殺して身を潜めたが、奴等には気づかれなかったようだ。ほっと一息ついてから、開いたばかりの飲み物を直接身体に流し込む。甘ったるい刺激的な黒い水をどんどんと飲み込み、あっという間に3分の1ほど無くなってしまっていた。
適当に袋入りの菓子類と6個入りのロールパンを手に取り拠点へ戻ろうとすると、"ミシリ"という音が扉の外で響いた──
慌てて、でも極力静かに部屋の中央に置かれたテーブルの下に隠れる。ミシリミシリと鳴る音はだんだんと近づいてくるようだ。まずい・・・、このままでは奴等と鉢合わせになってしまう──
どう対処するべきかを必死に考える。いいアイディアなどはまったく出てこない・・・。浮かんでくるのはドロッとした汗だけ。鳴り続ける音に合わせるように、ドキン、ドキンと身体がまるでウーハーのようだった。
しかし、音の主が姿を現すことはなかった。どうやら用を足しに降りてきただけだったようだ。しばらくそのままでいると、水が勢いよく流れる音とまたミシリ、ミシリという音が遠ざかっていくのが聴こえた。
流れ出た水分を補給する。思いのほか水分を消費していたようで、半分以上残っていた飲み物があっという間に空になってしまっていた。
仕方なく棚の横に置いてあった常温の同じ飲み物を掴んで、また音を殺しながら拠点へと戻った。
拠点へと戻るなり戦利品を適当にベッドの上に投げ捨て、マウスで一時停止を解除する。何事もなかったかのように、画面の中の世界はまた時を刻み始める。
『──おかえり!さあ、何から始める?』
ポップなゴブリンが相変わらず楽しそうに話しかけてくる。名付けしたのは自分なのだが、一緒に表示されるこのキャラクターの名前と自身とのギャップに違和感しか感じない。こちらのほうがよっぽど醜いモンスターのようだ。
「──ふぅ。さて、次の戦いに向けてユニットの強化をしないとな。同盟を組んだからかコボルトの強化も出来るようになったみたいだし・・・う~ん。とりあえず初期レベルの高い槍使いの"シベリアンハスキー"みたいなのと、大剣使いの"ゴールデンレトリバー"みたいなのを強化しとくか?強化は・・・、ゴブリンと同じでいいのか・・・」
カチカチとマウスを操作する。強化に使うLEを入力して"Enter"キーを叩く。画面が光を放ち、効果音と共にレベルアップのエフェクトが表示される。
name:コボルトランサー
Lv:5 LP:10 SP:6
atk:6 def:5 int:2 spd:5
Skill:ベヒーモスチャージ Lv:2
フェンリルラッシュ Lv:2
未習得
name:コボルトブレード
Lv:5 LP:12 SP:5
atk:7 def:6 int:1 spd:4
Skill:オルトロスアタック Lv:2
ケルベロスアタック Lv:2
未習得
「──よし。こんなもんだろ。ハンターとホブも強化してあるし、コボルトが使えるようになってユニット数は増えたからなんとかなるだろ」
生産・作戦フェーズを終了するためのマークにカーソルを合わせマウスをクリックする。YES or NOの確認が表示され、迷わず"YES"をクリックする。
画面に戦闘フェーズの開始を告げるエフェクトが表示される。
「これが終わったら寝るとして、起きたら風呂入って少し部屋の掃除しよう。・・・面倒くさいけど、説明書探さないとな──
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