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【小話】大蛇 side ???②
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◇◇◇
――裁きが下る少し前、妹が何の前触れもなく家族が集まる部屋に現れた。
異世界に追放されたはずの妹の突然の出現に、夢を見ているのかと思った。母上は泣き崩れるし、父上は咥えていたパイプを落とした。私も動けずにいると、妹が口を開いたのだ。
「お父様、お母様、お兄様。ただいま戻りました」
待ち焦がれていた妹の声に我に返り、父上の落としたパイプを拾い上げた。
「アンジェリカ、本当にアンジェリカなのか?」
「ええ。帰って来ましたわ」
家族皆で妹に抱き着き涙を流した。妹の無事な姿をもう一度見ることが出来るなんて。一頻り抱きしめ合った後に、妹とは別に見知らぬ男性が側にいることに気が付いた。
「アンジェリカ、そちらの男性はどなたかな?」
「こちらは、ケビンと言って私の旦那様です」
妹の旦那様発言に驚き過ぎて、母上の涙も漸く止まった。妹の話によると異世界での恩人であり、心から思い合っているのだとか。妹を助けてくれたことには感謝するが、もう既に婚姻しているというのは直ぐには受け止めきれなかった。旦那であるピスタチオ卿から詳しい話を聞くと、我々家族が妹の結婚式に参加出来るということだった。国家機密扱いであるため家族のみにしか明かすことは出来ないが、こちらの世界とあちらの世界を行き来出来る魔法陣を開発してくれたと言う。
それにアイツが拘っていることもそこで聞いた。許せない相手ではあるが、幼い頃から知っている弟のような存在だ。義理とは言え、兄として正しい道に導いてやれなかったことを後悔していた。そんなアイツが無事で、罪を認め新たな道を進もうとしている。妹はそれを許し応援していると言うのだから、私がとやかく言う必要はないだろう。密かに安堵した。妹にしたことは許し難いが更生する機会が与えられたのだ。
◇◇◇
「お前なんぞ引き取らなければよかった!」
「お前のせいでっ」
ネトリ男爵家の者たちの首が次々と切り落とされていく。阿婆擦れは顔を背けることも出来ない。
皇帝に自分を愛しているのではないのかと縋るが冷たく突き放された。自分の味方ではないと悟ると、形振り構わず元取り巻きだった子息たちに助けを求めた。
「ちょっと! あんたたちも助けなさいよ! みんな私のことを愛していると言ってくれていたじゃない!」
誰も動き出す者はいない。虚しく阿婆擦れの声だけが響き渡った。
「どうしてこうなっちゃったのよ。私はただ、誰よりも幸せになりたかっただけなのに」
「うふふっ、たくさんの男たちを手玉に取っていると聞いたから、どんな傾国の美女なのかしらと楽しみにしていたのだけれど、拍子抜けしちゃうわね? 田舎臭い小娘が勘違いしちゃったのかしら。お可哀想に」
皇妃の冷たい憐みの声が阿婆擦れのちっぽけなプライドを傷付けた。
「さっさと殺しなさいよ! もう嫌っ! 憐れみなんて要らないから、とっとと処刑したらいいじゃない」
「簡単に楽になれると思ったら大間違いよ? あなたは簡単に死なせない」
そうしてネトリ元男爵令嬢は大帝国に連れて行かれた。
妹の結婚式の前に方が付いて良かった。これで妹の婚姻を心置きなく祝うことが出来る。
視察と称して私は大帝国に足を運んだ。目的地は例の阿婆擦れがいるという娼館だ。汚らわしい女に触れるつもりはないが末路は見届けてやりたい。
適当な男娼を雇って阿婆擦れを指名した。薬漬けにされていると言う話は本当のようで、ニコニコ笑顔を振りまいていたが、不意に正気に戻ることがあるらしくその時は少しばかり暴れた。抜かれてしまった歯のせいで話す言葉はまるで舌っ足らずな幼児のようであるし、逃亡防止のためなのか足の腱が切られていた。そして暴れ出すと直ぐにスタッフが薬を投与し、ニコニコした幼女のような状態に戻される。男娼により多少ハードな行為をされても終始笑顔で、娼館を出るまで正気に戻ることはなかった。
――大蛇に絡みつかれたら最期。
――裁きが下る少し前、妹が何の前触れもなく家族が集まる部屋に現れた。
異世界に追放されたはずの妹の突然の出現に、夢を見ているのかと思った。母上は泣き崩れるし、父上は咥えていたパイプを落とした。私も動けずにいると、妹が口を開いたのだ。
「お父様、お母様、お兄様。ただいま戻りました」
待ち焦がれていた妹の声に我に返り、父上の落としたパイプを拾い上げた。
「アンジェリカ、本当にアンジェリカなのか?」
「ええ。帰って来ましたわ」
家族皆で妹に抱き着き涙を流した。妹の無事な姿をもう一度見ることが出来るなんて。一頻り抱きしめ合った後に、妹とは別に見知らぬ男性が側にいることに気が付いた。
「アンジェリカ、そちらの男性はどなたかな?」
「こちらは、ケビンと言って私の旦那様です」
妹の旦那様発言に驚き過ぎて、母上の涙も漸く止まった。妹の話によると異世界での恩人であり、心から思い合っているのだとか。妹を助けてくれたことには感謝するが、もう既に婚姻しているというのは直ぐには受け止めきれなかった。旦那であるピスタチオ卿から詳しい話を聞くと、我々家族が妹の結婚式に参加出来るということだった。国家機密扱いであるため家族のみにしか明かすことは出来ないが、こちらの世界とあちらの世界を行き来出来る魔法陣を開発してくれたと言う。
それにアイツが拘っていることもそこで聞いた。許せない相手ではあるが、幼い頃から知っている弟のような存在だ。義理とは言え、兄として正しい道に導いてやれなかったことを後悔していた。そんなアイツが無事で、罪を認め新たな道を進もうとしている。妹はそれを許し応援していると言うのだから、私がとやかく言う必要はないだろう。密かに安堵した。妹にしたことは許し難いが更生する機会が与えられたのだ。
◇◇◇
「お前なんぞ引き取らなければよかった!」
「お前のせいでっ」
ネトリ男爵家の者たちの首が次々と切り落とされていく。阿婆擦れは顔を背けることも出来ない。
皇帝に自分を愛しているのではないのかと縋るが冷たく突き放された。自分の味方ではないと悟ると、形振り構わず元取り巻きだった子息たちに助けを求めた。
「ちょっと! あんたたちも助けなさいよ! みんな私のことを愛していると言ってくれていたじゃない!」
誰も動き出す者はいない。虚しく阿婆擦れの声だけが響き渡った。
「どうしてこうなっちゃったのよ。私はただ、誰よりも幸せになりたかっただけなのに」
「うふふっ、たくさんの男たちを手玉に取っていると聞いたから、どんな傾国の美女なのかしらと楽しみにしていたのだけれど、拍子抜けしちゃうわね? 田舎臭い小娘が勘違いしちゃったのかしら。お可哀想に」
皇妃の冷たい憐みの声が阿婆擦れのちっぽけなプライドを傷付けた。
「さっさと殺しなさいよ! もう嫌っ! 憐れみなんて要らないから、とっとと処刑したらいいじゃない」
「簡単に楽になれると思ったら大間違いよ? あなたは簡単に死なせない」
そうしてネトリ元男爵令嬢は大帝国に連れて行かれた。
妹の結婚式の前に方が付いて良かった。これで妹の婚姻を心置きなく祝うことが出来る。
視察と称して私は大帝国に足を運んだ。目的地は例の阿婆擦れがいるという娼館だ。汚らわしい女に触れるつもりはないが末路は見届けてやりたい。
適当な男娼を雇って阿婆擦れを指名した。薬漬けにされていると言う話は本当のようで、ニコニコ笑顔を振りまいていたが、不意に正気に戻ることがあるらしくその時は少しばかり暴れた。抜かれてしまった歯のせいで話す言葉はまるで舌っ足らずな幼児のようであるし、逃亡防止のためなのか足の腱が切られていた。そして暴れ出すと直ぐにスタッフが薬を投与し、ニコニコした幼女のような状態に戻される。男娼により多少ハードな行為をされても終始笑顔で、娼館を出るまで正気に戻ることはなかった。
――大蛇に絡みつかれたら最期。
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