25階。このふざけたゲームを終わらせて

緋島礼桜

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 お騒がせ夫婦が去ったことで、展望フロアは再び静けさを取り戻した。
 一騒動を終えた何とも言えない疲労感に、俺はため息をつく。
 その一方でタカさんは、どこか神妙な面持ちで考え込んでいた。

「そういえば、さっき言っていた『気になること』って、何だったんですか?」
「うーむ……いや、“犯人”の正体ではないのだがな――ツムギは確か25歳だったよな?」

 突然の年齢確認に眉をひそめつつも、俺はうなずいた。

「え、まさか25歳で俳優志望が悪いとか……?」
「それは関係ない。だが、先ほどの声優志望の女性も25歳で、友人は今日――1月25日が誕生日だと言っていた。そして……銀婚式は結婚25周年を祝うものだ」

 奇妙な符合に、背筋がぞくりとした。
 ……単なる偶然か?
 いや、偶然とは思えない根拠が、他にあった。

「そういえば、あのアナウンス……『この25階に25個の爆弾を仕掛けた。ここにいる25人の中から犯人を探せ』って言ってましたね」

 このゲームは、やけに”25”という数字に縁がある。
 シガも腕を組んで口を開く。

「そういや俺、次の写真集が25冊目なんだよな。節目だから珍しい題材でも、と思ってここにやって来たわけだが……」
「まるで“25”に導かれているみたいだな」
「……まさか、タカさんも”25”絡みで何かあるとか……言わないですよね?」

 俺の問いに、タカさんは渋い顔で答えた。

「その、まさかだ」
「マジですか……」

 俺が口をぽかんと開けていると、タカさんは真顔で言った。

「実は……今から25年前に――」

 彼の話が始まろうとした、そのとき。

「25は偶然によるものではなーいっ!! これは神に導かれた……運命なのだあああ!!」

 甲高い声がフロアに響いた。
 登場したのは、立派な髭を蓄えたあの“カミヨおじさん”。
 ……この人、後回しにしたかったんだけどな。
 俺が思わず頭を抱えていると、別の方向から冷めた声がした。

「運命? 偶然? そんな非科学的な言葉で片付けないでくれるかな? そもそも“25”と神にどんな関係があるっていうんだよ」

 そう話したのは、先ほど見かけた眼鏡の中年男性。ねちっこい喋り方が何とも鼻につく。

「ふむ……貴様は先ほどから随分と突っかかってくるな。もしや入信希望か? ならば我が“25神妙教”について語ってやろう!」

 その布教話は頼むから他所でやってくれ。
 俺の願いも虚しく、カミヨおじさんは声を張り上げた。

「“25神妙教”とは! 25という数字に宿りし神を崇め、その教えを説くものだ!」

 ……いや、そのまんまかよ。心の中でツッコむ。

「ははっ、つまんないくらいそのままだね」

 黒縁眼鏡を押し上げながら、ねちっこい男性は鼻で笑う。

「しかも25? 一や三、七とか十三みたいな素数ならまだしも……25ってかなり中途半端だよね」
「お前は何も分かっておらぬ! 神は万物に宿る……なればこそ、25にも神が宿っておるのだ!」

 ……この人、多分何を言われても『神が宿っている』の一点張りだろうな。
 そんな俺の予想を裏付けるかのように、おじさんは天を仰いで声を張った。

「それに我は実際に、25の神から救済を受けたことがあるのだ!」

 黒縁眼鏡の男が「救済?」と興味なさげに返す。
 ……これ、絶対長い話になるやつだ。
 そう思い、俺はタカさんに助けを求める。
 するとタカさんはいつの間にか、顔を真っ青にして脂汗を垂れ流していた。

「す、すまない……どうやら先ほど食べた羊羹が当たったようでな……」
「羊羹でっ!?」

 確かにタカさんの腹部からはギュルギュルと唸りのような音が聞こえてくる。

「本当にすまん! もう一度、便所に行ってくる!」

 タカさんは俺に有無を言わさず、トイレへと消えていった。
 取り残された俺じゃ、この濃すぎる二人を止められるはずもない。
 一応エリカちゃんにも助けを求めるが、彼女も興味津々でおじさんの話を聞いている。シガにいたっては論外だ。
 ……こうなったら観念するしかない。
 俺は人知れずため息を吐いた。



「あれは今から25年前!」

 おじさんは天井を仰ぎながら語り始めた。
 ……しかも、またここで“25”だ。

「妻は妊娠中で、もうすぐ我が子が生まれようとしていた!」

 こんな奇抜な格好と発言をする人間に、まさか妻がいるとは。
 失礼なことを思いつつも、驚いたのは俺だけじゃないはずだ。

「しかし分娩室に入ったきりなかなか出産に至らず。医師には難産の可能性を告げられ……我は生まれて初めて天に祈った!」

 おじさんは大げさに身振り手振りを交え、話を続ける。

「そして25時間が経ったそのとき! 天の声が我に告げた……『お前の赤子は助からない。生まれても25時間後に命を落とす』と!」
「……この時点でもう“25”だらけ。作り話にしてもつまんなさ過ぎるね」
「話は最後まで聞け! 天はさらに告げたのだ。『25に関わるものを捧げよ。さすれば赤子を救おう』と!」

 すると突如、おじさんは指を口に突っ込み、ガポリと“総入れ歯”を外した。
 歯茎だけの口を見せつけた後、声を張る。

「我は歯を25本捧げた! すると恐ろしいことに歯は本当に25本抜け落ち……そして間もなく、分娩室から元気な産声が響いたのだ!」

 おじさんの顔は、先ほどまでのふざけた雰囲気とは違い真剣そのものだった。
 作り話だと思う半面、25本も歯を抜く覚悟に俺は全身が粟立った。

「赤ん坊の命がたかが自分の歯25本で救われる? ちゃんちゃら可笑しな話だね」
「信じる信じないは自由だ。だが25の神は実在する! そう信じた我は“25神妙教”を立ち上げた! いつか訪れる終末の時に抗うため――我、伊興いこし 遍陀金へんだごんは25の神に全てを捧げるため、このビルを訪れたのだ!!」

 ――25の神。
 彼の宗教を信じる気はないが、この“ゲーム”がやたら25に絡みすぎている事実は、確かに信じるしかない。
 が、今一番気になるのはそこじゃない。

「“へんだごん”って、本名ですか?」
「まさか……本名なわけないよね?」

 俺とねちっこい男性の声がぴったり重なる。
 するとカミヨおじさんこと、イコシは真面目な顔で答えた。

「失敬な。これが本名だ」

 思わず二人で口をあんぐり開けて固まっている横で。

「……キラキラネームだね」

 エリカちゃんがぽつりと呟いた。

 
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