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残り14時間10分23秒
しおりを挟む誰一人怪我することもなく、イコシたちを拘束し終えた俺たち。
――とはいえ、一番の功労者はアマツキだろう。
あんな一瞬の芸当、ただの高校生に出来るとは思えない。
「すごいねアマツキくん。柔道か何かやってたの?」
「まあ……それなりに」
言葉少なげに答えるアマツキ。
ムラタを引き渡す彼に、タカさんが眉をひそめつつ忠告をした。
「今のは一歩間違えば危険な行為だ。素人が独断でやっていいものじゃない……だが、人質を無傷で解放できたことには感謝する」
続いてシガが、拾ったスマホをアマツキへ返しながら笑う。
「相手の注意を引くために、まさかスマホを投げるなんてね。君の商売道具だろうに、大胆だねえ」
「……いや、別に。それはバッテリー切れした練習用スマホなんで……まあいいかと」
「練習用?」
するとアマツキはポケットから更に二つのスマホを取り出した。
「……ゲーム用と、その練習用と、連絡用」
こんなにスマホを持ち歩く人は俺の周りにはいないから、思わず目を見張った。
……さすがは25連勝中のeスポーツ選手だ。
「それに――元野球選手なら絶対キャッチしてくれると思ったんで」
ぽつりとアマツキが口にする。
確かにムラタは、体が勝手に動いたのか、見事に投げられたスマホをキャッチしていた。
そこまで考えて行動していたとは……改めてアマツキの格好よさに感嘆する。
「クソッ! 選手を辞めて何年も経つってのに……体が勝手に動いちまった。野球で人生詰んだ俺が、また野球に邪魔されるなんてな……」
自嘲気味に語るムラタ。
鋭い眼光をこちらに向け、吐き捨てるように言った。
「哀れみの目で見るな。同情はいらねえって言っただろ……!」
拘束され、より一層自暴自棄になっているようだ。
それでも何か言葉を掛けたかったが、結局浮かばずじまいで。
だが、そんなムラタへ意外な人物が近づいていった。
「あ、あの……その人、元野球選手の……ムラタさん、なんですか?」
ナノハだった。
彼女は恐る恐るムラタを見つめている。
「そう、だが……?」
もしかして、こんな場で偶然ファンと遭遇か?
と、一瞬思ったが違った。
ムラタと知るや否や、ナノハは顔を青ざめさせて――。
「……ご、ごめんなさあぁぁい!」
土下座した。しかもムラタに向かって。
一体何がなんだと困惑する俺たち。
さすがのムラタも開いた口が塞がらない。
「えっと……何がどう、ごめんなの?」
俺が問いかけると、ナノハは涙を浮かべて告げた。
「わ、わだじが……あんながぎごみじだがら――」
彼女の話を訳するに、かつてムラタがSNSで炎上したとき、ナノハも誹謗中傷を書き込んでいたらしい。
「ず、ずどれずはっざんだっだんでず……ほがのじどもがぎごみ、じでだがら……ぢょっど、でぎごごどで――!」
「“ストレス発散だったんです。他の人も書き込みしてたから……ちょっと出来心で”と言ってマース!」
涙で言葉にならないナノハの代わりに、何故かグレイが通訳する。
「まざが、ムラダざんがごんなごどなっでるどおぼわだぐで……ほんどうに、ごべんだざい……!」
「“まさかムラタさんがこんなことになってると思わなくて、本当にごめんなさい”と言ってマスネ!」
額を床に擦り付けながら必死に叫ぶナノハ。
ネットの誹謗中傷なんて、背を向けている人に投石するようなもの。当たった人が振り返ったところで、誰が投げたかなんてわからないままだ。
それなのに、素直に名乗り出て謝ったことは立派だと思う。
……まあ、そもそも中傷したのが一番悪いのだから、褒めることは出来ないけど。
「……もういい」
ムラタが小さく呟いた。
「確かにあの炎上に加担したってなら許したくはねえ。けど、さっき兄ちゃんが言った通り、落ちぶれたのは俺の責任だ。アンタだけを責めるつもりはねえ」
その顔を上げてくれりゃ、それで充分だ。
そう言ったあと、ムラタは黙り込んだ。
「――良かったデスネ! お許しいただけましたヨ!」
一人はしゃぐグレイに対して、ナノハは呆然としていた。
もっと罵られると思っていたのだろう、ぽかんと口を開けたままだ。
涙も鼻水もそのままにナノハが呟く。
「書き込みのこと、ずっとずっと後悔してて……いつか謝罪出来たらって思ってたけど……まさか今出来るとは、思わなかった、です……」
ムラタと知るや否や即座に頭を下げていたところからして、本気で後悔していたのだろう。
ムラタも意外な謝罪に怒りの矛先を失ったのか、黙って拘束されたままだった。
「まあ、色々あったが……イコシの乱はこれにて一件落着、ってところだな」
シガがそうまとめ、陽気に笑った。
笑いごとじゃない、と俺は諌めようとする――そのときだった。
「……え?」
「――え」
そこに、ナイフを持った男が一人立っていた。
誰も気づかなかったが、確かにそこにいた。
ナイフ男も”今気づかれた”ことに驚いているようだ。
「えっと、おたくはどちら様で……?」
一番近くにいたシガが尋ねる。
確かに、このナイフ男はまだ会っていなかった顔だ。
ナイフ男はその凶器をシガに向け、激しく振り回す――なんてことはなく。
「……す、すんませんでしたあああっ!」
ナイフを捨て、潔く土下座したのだった。
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