25階。このふざけたゲームを終わらせて

緋島礼桜

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残り14時間10分23秒

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 誰一人怪我することもなく、イコシたちを拘束し終えた俺たち。
 ――とはいえ、一番の功労者はアマツキだろう。
 あんな一瞬の芸当、ただの高校生に出来るとは思えない。

「すごいねアマツキくん。柔道か何かやってたの?」
「まあ……それなりに」

 言葉少なげに答えるアマツキ。
 ムラタを引き渡す彼に、タカさんが眉をひそめつつ忠告をした。

「今のは一歩間違えば危険な行為だ。素人が独断でやっていいものじゃない……だが、人質を無傷で解放できたことには感謝する」

 続いてシガが、拾ったスマホをアマツキへ返しながら笑う。

「相手の注意を引くために、まさかスマホを投げるなんてね。君の商売道具だろうに、大胆だねえ」
「……いや、別に。それはバッテリー切れした練習用スマホなんで……まあいいかと」
「練習用?」

 するとアマツキはポケットから更に二つのスマホを取り出した。

「……ゲーム用と、その練習用と、連絡用」

 こんなにスマホを持ち歩く人は俺の周りにはいないから、思わず目を見張った。
 ……さすがは25連勝中のeスポーツ選手だ。

「それに――元野球選手なら絶対キャッチしてくれると思ったんで」

 ぽつりとアマツキが口にする。
 確かにムラタは、体が勝手に動いたのか、見事に投げられたスマホをキャッチしていた。
 そこまで考えて行動していたとは……改めてアマツキの格好よさに感嘆する。

「クソッ! 選手を辞めて何年も経つってのに……体が勝手に動いちまった。野球で人生詰んだ俺が、また野球に邪魔されるなんてな……」

 自嘲気味に語るムラタ。
 鋭い眼光をこちらに向け、吐き捨てるように言った。

「哀れみの目で見るな。同情はいらねえって言っただろ……!」

 拘束され、より一層自暴自棄になっているようだ。
 それでも何か言葉を掛けたかったが、結局浮かばずじまいで。
 だが、そんなムラタへ意外な人物が近づいていった。

「あ、あの……その人、元野球選手の……ムラタさん、なんですか?」

 ナノハだった。
 彼女は恐る恐るムラタを見つめている。

「そう、だが……?」

 もしかして、こんな場で偶然ファンと遭遇か?
 と、一瞬思ったが違った。
 ムラタと知るや否や、ナノハは顔を青ざめさせて――。

「……ご、ごめんなさあぁぁい!」

 土下座した。しかもムラタに向かって。
 一体何がなんだと困惑する俺たち。
 さすがのムラタも開いた口が塞がらない。

「えっと……何がどう、ごめんなの?」

 俺が問いかけると、ナノハは涙を浮かべて告げた。

「わ、わだじが……あんながぎごみじだがら――」

 彼女の話を訳するに、かつてムラタがSNSで炎上したとき、ナノハも誹謗中傷を書き込んでいたらしい。

「ず、ずどれずはっざんだっだんでず……ほがのじどもがぎごみ、じでだがら……ぢょっど、でぎごごどで――!」
「“ストレス発散だったんです。他の人も書き込みしてたから……ちょっと出来心で”と言ってマース!」

 涙で言葉にならないナノハの代わりに、何故かグレイが通訳する。

「まざが、ムラダざんがごんなごどなっでるどおぼわだぐで……ほんどうに、ごべんだざい……!」
「“まさかムラタさんがこんなことになってると思わなくて、本当にごめんなさい”と言ってマスネ!」

 額を床に擦り付けながら必死に叫ぶナノハ。
 ネットの誹謗中傷なんて、背を向けている人に投石するようなもの。当たった人が振り返ったところで、誰が投げたかなんてわからないままだ。
 それなのに、素直に名乗り出て謝ったことは立派だと思う。
 ……まあ、そもそも中傷したのが一番悪いのだから、褒めることは出来ないけど。

「……もういい」

 ムラタが小さく呟いた。

「確かにあの炎上に加担したってなら許したくはねえ。けど、さっき兄ちゃんが言った通り、落ちぶれたのは俺の責任だ。アンタだけを責めるつもりはねえ」

 その顔を上げてくれりゃ、それで充分だ。
 そう言ったあと、ムラタは黙り込んだ。

「――良かったデスネ! お許しいただけましたヨ!」

 一人はしゃぐグレイに対して、ナノハは呆然としていた。
 もっと罵られると思っていたのだろう、ぽかんと口を開けたままだ。
 涙も鼻水もそのままにナノハが呟く。

「書き込みのこと、ずっとずっと後悔してて……いつか謝罪出来たらって思ってたけど……まさか今出来るとは、思わなかった、です……」

 ムラタと知るや否や即座に頭を下げていたところからして、本気で後悔していたのだろう。
 ムラタも意外な謝罪に怒りの矛先を失ったのか、黙って拘束されたままだった。

「まあ、色々あったが……イコシの乱はこれにて一件落着、ってところだな」

 シガがそうまとめ、陽気に笑った。
 笑いごとじゃない、と俺は諌めようとする――そのときだった。



「……え?」
「――え」

 そこに、ナイフを持った男が一人立っていた。
 誰も気づかなかったが、確かにそこにいた。
 ナイフ男も”今気づかれた”ことに驚いているようだ。

「えっと、おたくはどちら様で……?」

 一番近くにいたシガが尋ねる。
 確かに、このナイフ男はまだ会っていなかった顔だ。
 ナイフ男はその凶器をシガに向け、激しく振り回す――なんてことはなく。

「……す、すんませんでしたあああっ!」

 ナイフを捨て、潔く土下座したのだった。


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