25階。このふざけたゲームを終わらせて

緋島礼桜

文字の大きさ
29 / 40

残り02時間10分28秒

しおりを挟む

 必然的に、俺たちはタカさんの後を追った。
 彼が向かったのは、エレベーター横に掲示されたフロアマップだ。

「ど、どうしたんですか、タカさん」
「ずっと引っかかっていたことがある」

 そう言ってタカさんが指差したのは、北側と南側フロアの境目――多目的トイレがあるエリアだった。

「トイレならもう調べましたよね?」

 ちなみに、この展望フロアには多目的トイレが三つもある。どうやらベビールームも兼ねた設計らしい。

「クワキノさんがあの周辺を縄張りにしてましたけど、他に誰かが潜んでる様子はなかったですよね」

 俺がそう言うとタカさんは首を縦に振る。

「ああ、トイレ内も広々していて赤ちゃん連れでも安心そうだった」

 だが、とタカさんは眉間にしわを寄せた。

「この図と見比べると……あのトイレ、一つはそこまで広くなかったんだ」

 確かに、言われてみればフロア図の面積より実際の空間は狭かった気がする。

「間違えて書いちゃった、とかありそうですけど?」
「それはない」
「あ、そうですか」
「もしかすると、この多目的トイレの横に隠し通路があるのではないかとオレは思っているんだ」

 こうしたフロア図に描かれていない空間には、災害時用の備蓄庫やプライベートルームが設けられていることがある――と、タカさんは付け足す。

「まさか……そこに?」
「行ってみる価値はあるだろう」

 俺とタカさんは視線を交わし、多目的トイレへと足を向けた。
 と、その前に背後にいたシガが水を差してきた。

「――でもよ、おたくら警備員と清掃員だろ? なんでそういう部屋の設計とか聞いてないわけ?」

 彼のもっともな疑問に、俺とタカさんは顔を見合わせてから声を揃えた。

「入ってまだ日が浅いんで」
「入ってまだ日が浅いんで」

 見事なハモりだった。

「え、タカさんって……新人警備員なんですか?」
「……ああ。一週間ほど前に雇ってもらったばかりでな」
「一週間!?」

 その貫禄から十年選手だと思っていたのは、俺だけじゃなかったらしい。シガもエマも目を丸くしている。

「そんなに貫禄があったとはな。他の警備員仲間からは『若造が入ってきたと思った』なんて言われたがな!」

 タカさんは高らかに笑う。
 もしや彼の若々しさの秘訣は、この豪快さとポジティブさなのかもしれない。
 


 多目的トイレに着いた俺たちは早速、再調査を開始した。
 だが、二つのトイレには怪しいスイッチも仕掛けも見当たらない。

「……となると、残るはクワキノさんがいるここだけですね」

 最後の多目的トイレは使用中ランプが点いていた。とりあえずノックする。

「クワキノさーん」
「……なに?」

 やがてドアが開き、怪訝な顔のクワキノが姿を現した。

「あの、もう一度だけ中を調べさせてもらっていいですか?」

 俺が頭を下げながら頼み込むと、クワキノはこれ見よがしに嫌そうな顔をした。

「はあ? さっきも散々調べてったよね? そもそも他の人と関わりたくないからここに籠ってるのに……これ以上は迷惑なんだよね」

 ネチネチと文句を言う彼に、時間が惜しいからと、俺はさらに頭を下げかけた。そのとき――

――バンッ!

 トビトが勢いよくドアを蹴り飛ばした。

「ごちゃごちゃうるせえ! 時間がねえんだ、協力しろ!」

 相変わらず乱暴だが、こういうときばかりはありがたい。 
 クワキノは目を白黒させ、その場にしゃがみ込んでいた。

「オレはこっちを探す。ツムギはそっちだ!」

 タカさんもトビトを咎めることなくズカズカと中へ入り、捜索を始めた。
 それだけ切羽詰まっているということだ。
 シガも鏡をベタベタ触りながら探る。

「いやいやいや、こういうときはマップから考えて“この辺”を調べるんだって」

 しかし、男四人で隅々まで調べても、扉らしきものもスイッチらしきものも見つからない。

(タカさんの読みが、外れたのか……?)

 そんな不安がよぎったときだった。
 トイレの外からエリカちゃんの声がした。

「……ここ、怪しいかも」

 そう言って彼女が指差していたのは、多目的トイレのドアからドアの間にある壁だった。

「確かに……ここ、空洞っぽいかも!」

 エマが壁をコンコンと叩く。
 すると次の瞬間。

 カチッ。

 ノックの拍子に何かを押したらしい。
 壁が、まるで近未来の扉のようにゆっくりと上下に開いていく。

「急に世界が変わったな、こりゃ!」

 シャッターを切りまくるシガ。
 だが彼が興奮するのもよく分かる。隠し扉の奥には無数の配管が剥き出しになっており、スチームパンクめいた空間が広がっていた。
 タカさんは懐中電灯を手に、不思議で不気味な通路の奥へと進んでいく。

「何があるかわからん……とりあえずオレが先に行く。ツムギたちは後からついて来い」

 警備員とはいえ、一人で進んで大丈夫なのか。
 なんて心配する暇もなかった。

「ちょ、エリカちゃん!」

 エリカちゃんがその背を追って走り出した。
 俺とシガ、そしてトビトやエマたちも後に続いた。



 通路は想像以上に暗く、そして細い。

「うぐっ!!」

 突如、奥から呻き声が聞こえた。タカさんの声だ。
 俺は足を速め、通路の奥へと飛び込んだ。 


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。

設楽理沙
ライト文芸
2026.1.4 73話見直した際、瑛士の台詞《本音/懺悔》を加筆しました。😇 ☘ 累計ポイント/ 200万pt 超えました。ありがとうございます。 ―― 備忘録 ――    第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。  最高 57,392 pt      〃     24h/pt-1位ではじまり2位で終了。  最高 89,034 pt                    ◇ ◇ ◇ ◇ 紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる 素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。 隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が 始まる。 苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・ 消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように 大きな声で泣いた。 泣きながらも、よろけながらも、気がつけば 大地をしっかりと踏みしめていた。 そう、立ち止まってなんていられない。 ☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★ 2025.4.19☑~

ねえ、テレジア。君も愛人を囲って構わない。

夏目
恋愛
愛している王子が愛人を連れてきた。私も愛人をつくっていいと言われた。私は、あなたが好きなのに。 (小説家になろう様にも投稿しています)

さようなら、お別れしましょう

椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。  妻に新しいも古いもありますか?  愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?  私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。  ――つまり、別居。 夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。  ――あなたにお礼を言いますわ。 【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる! ※他サイトにも掲載しております。 ※表紙はお借りしたものです。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

あなたが決めたことよ

アーエル
恋愛
その日は私の誕生日パーティーの三日前のことでした。 前触れもなく「婚約の話は無かったことにしよう」と言われたのです。 ‪✰他社でも公開

処理中です...