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とある電車の中で2
しおりを挟む期末テストも終わった7月の中頃。
T高校では学校祭が開催された。
此処の学校祭は一般的な模擬店やアトラクション系出し物の他にも、山車で町内を巡ったり町民との交流も兼ねたキャンプファイヤーがあったりと、意外にも町ぐるみで賑わうもののようで。この高校の一大イベントと言っても過言ではないようだった。
中でもメインイベントである山車での町内巡りの際には手製の衣装も用意しなくてはならないとのことで、ファッション好きなクラスの女子たちは率先して衣装を作っていた。
一方で、そういったものとは無縁である私たちのグループは、自然とクラスの出し物を任されていた。
言ってしまえば地味な集まりである私たちは、これまた地味にも『高校周辺に自生する植物について』という展示をすることになった。
他の生徒は部活での出し物やイベントに夢中だったためか、不思議と反対者もいなかった。
私としてもこういった類の調べものは好きな方であったため、学校祭全体の記憶も今も好意的に覚えている。
だからなのか、あの日の忘れたい出来事も一緒になって、今でも鮮明に私の中で蘇ってくるのだ――。
「聞いてよ~、1-Aの山車で練り歩くときの衣装さあ、ジャージ姿にフリル付けただけだって…マジでダサくない?」
「ヤバいでしょそれ」
その日は2日間行われる学校祭の2日目。
この日は山車で練り歩くイベントが行われる予定で、町内を巡った後、最後は山車をかがり火にくべてのキャンプファイヤーというスケジュールだった。
山車を見に来た子供たちは生徒が配るお菓子を貰って上機嫌にはしゃぎ、学校の行事だというのに参加する大人の中には酒の匂いを帯びた者もいた。
一体何がメインなのかわからなくなってくるが、それでも参加しているみんながみんな笑顔だった。
だが、そんな賑わいの影に隠れて笑っていない生徒もちらほらいた。私もその一人だった。
祭の騒がしさ自体は嫌いではないが、クラスメイトによって仕立てられた衣装が笑えなかった。
ファンタジーな王女様の山車に併せて用意された衣装は男女共に妖精をイメージしたもので、男子はハーフパンツ。女子はミニスカートの派手な色の衣装だった。
スカートが好きでは無かった私にとってその衣装は恥辱と言っても過言ではないほどで。そんな格好で町を歩くことに抵抗しかなかった。
「あたしたちにしたらジャージの方がまだマシだったよね」
曽川さんがこっそりとそう不満を漏らしていた。私も同感だった。
誰も私の格好をまじまじと見ているわけではないのだが。それでも気になるものは気になった。
早く終わればいいと願って歩いていたせいか、このときの記憶は随分と曖昧だ。
町の練り歩きもキャンプファイヤーもようやく終わって解散となっていた頃には、日はすっかりと暮れて夜になっていた。
もう間もなく終電がやって来る時刻ということで、電車通学の生徒たちは祭の余韻に浸る暇も無く、急いで駅を目指して走った。
親が見学に来ていた友人たちはそのまま親の車で帰宅した。私の両親は祭の1日目には来ていたが、仕事の都合で2日目は来られなかったため電車で帰ることになっていた。
気を利かせて友人から同車の誘いもあったのだが、私はそれを断った。
他人の家族に囲まれた空間というのは、電車内の閉鎖空間よりも居心地悪く感じたからだ。
(これは着替える暇もないや……)
制服は鞄に詰め込んであったが、あいにくとトイレで着替える間もなく。終電の電車はホームにやって来ていた。
時刻は夜の7時52分。
電車に乗り込んでいる客はT高校の生徒ばかり。
と、その中には例の彼もいた。
私がいつものように馴染みのボックス席に座り込むと、彼もまたいつもと同じ斜め向かいのボックス席にどかりとくつろいで座った。
1人だった私はなるべく彼と視線が合わないよう、窓際に寄って車窓を眺め続けた。
いつも騒がしくしていた生徒たちがいなかったせいか、電車内は異様に静寂していた。
(疲れた……眠くなりそう…)
祭での疲労のせいか睡魔に襲われた私は、しばらくそれと戦っていた。
のだが。結局は負けて、いつの間にか眠り込んでしまっていた。
いつもなら起こしてくれる友人が一緒にいるのに、この日はいない。
このままではまず間違いなく、駅を乗り過ごしまう。
だがしかし。
私は何かに揺さぶられ、目を覚ました。
停車の際の慣性の法則かと思ったが、そうではなく。
寝ぼけまなこで見上げた先には、あの彼がいた。
「――降りる駅、此処だろ…」
短い言葉だったが、その台詞を聞いた途端。私は一気に顔面蒼白した。
話しかけてくるはずのない人が、それも初めて話しかけてきたのだ。驚きを通り越して恐怖すらした。
「あ…うん」
そんなぼんやりとした返答をした私は、逃げるように電車を降りて行った。
ただでさえ祭のせいで着慣れない恥ずかしい格好をしていたというのに、声を掛けられた上に恥ずかしいまで返答してしまった。
乗り過ごさないようわざわざ起こしてくれたというのに、感謝の礼すらすることも忘れた。
その羞恥心が限界に達した私は、しばらくホームに立ったまま動けなかった。
それまで血の気の引いていた全身が、今度は急激に熱を帯びて熱くなっていった。
私は高鳴ってしまった心臓を落ち着かせながら、発車していく電車の明かりが遠く見えなくなるまで、ただただ黙って見つめていた。
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