230 / 365
第三篇 ~漆黒しか映らない復讐の瞳~
52案
しおりを挟む会食場のその神聖な空気が壊されたのは、突然のことであった。
轟音と共に破壊された屋根。その破片が崩れ落ち、王族貴族たちは悲鳴を上げる。
「ひぃぃっ!」
「何事だっ!?」
「た、助けて…!」
「おいおい。何かの余興ではないのか?」
その場は混乱し、逃げ惑う王族貴族たちに兵士たちの声は届かず。
と、そんな大混乱の状況に更に追い打ちをかけるかように、突如、会場内に白煙が入り込んできた。
何処からともなく噴き出す白煙は瞬く間に会場内を前後左右も分からない程の真っ白な空間へと変える。
「―――準備は良いな?」
混乱状態となっている会場の外、その窓際にて。ヤヲたちは突入のタイミングを待っていた。
それまで此処らを厳重に警備していた兵士たちはそのほとんどが兵器破壊のため飛び出していってしまっていた。
待機していた者も居たがあっという間に刃に倒れ、横たわっている。
「中にはほとんど王族貴族しかいねえ。が、俺たちの目的はあくまでも王族貴族どもの追放だ」
彼らに非を認めさせ、謝罪させ、頭を垂れさせる。それが『革命』であり、組織ゾォバの悲願だとロドは語る。
と、そんな中。ニコが呑気に片手を上げた。
「待って! その前に……キャンディ舐めていー?」
「……お前はこんなときまで…」
能天気とも取れる彼女の言葉に呆れるレグ。
こんな緊迫した状況にまで垣間見せる父娘のようなやり取り。
だが、彼女のそんなマイペースな言動が、皆には丁度良い一言だった。
緊張もほぐれ、改めて覚悟も出来た。
ニコが頬袋に飴玉を放り込んだところで、ロドは拳を振り上げた。
直後、振り上げた拳が窓硝子を破壊する。
「な、なんだ…!?」
「きゃぁああああっ!!」
「誰か私を守れ!」
動揺と混乱、絶望と恐怖に叫ぶ王族貴族たち。
不意に過去の記憶が脳裏を過り、人知れず眉を顰めるヤヲ。
しかし考えている暇などなく。ロドが飛び込んだことで口火を切り、突入班は会場内へ入り込んでいった。
「賊め…」
「や、止めてくれ…!」
怯え泣き叫ぶ声の中。ロドも負けじと声を張り上げた。
「我らは反乱組織ゾォバだ! その目的は此処に居るお前らがその大罪を認め謝罪すること! 先ずは国王だ! それ以外はとりあえず全員両手を挙げたまま壁に貼り付け!」
ロドの言葉に僅かばかり混乱の声が治まる。
すると白煙の向こうから一人の初老の男が姿を現した。
威厳ある風格に、それ相応の身なり。そして王冠。
間違いなくその人物こそが第25代国王クェート・リュウ・リンクスであった。
「このようなことを犯して…なんとも愚かな…」
「もっと命乞いなり罵声なり浴びせてくるかと思いきや……素直に出てくる辺り思ったより潔いじゃねえか」
微動だにせず、動揺も見せない国王。
真っ直ぐに見つめるその双眸が重なり、ロドは眉を顰める。
「…なるほど。てめえもようやくと親になったばっかだったもんな」
「貴様も親になれば判ることよ……この老いた身一つはくれてやろう…だが、他の者…せめてこの場にいる我が息子だけはどうか…許してやってくれ」
国王はそう言うとゆっくり跪き、その頭を垂れる。
呆気ないと思える程の毅然とした態度に、拍子抜けしていたのはヤヲだけではなかった。
「……子を思う気持ちくらいは判るさ。俺も、だったからな……」
人知れずそう洩らし、国王を手早く拘束していくロド。
組織ゾォバの目的としては、これで一つ達成されたと言える。そうしてこのまま国王を人質に王城を占拠でもするのだろうか。このまま順調に、革命を果たすことが出来るのか。
渦巻く疑問と不満にヤヲは拳をきつく締める。
(本当にこのまますんなりいくのか。いや、そんなわけがない……それに、まだ僕の…果たしたかった復讐は終わっていない…!)
ヤヲがそう思った、そのときだった。
「危ない―――っ!!」
リデの叫び声が会場内に響いた。
瞬く間すら与えないような、刹那の出来事だった。
ヤヲの横をすり抜けてきたそれは、白煙の向こうから飛んできた。
そしてそれは、それらは。一瞬にして国王とロドを狙った。
「…なっ!?」
「―――え…」
あまりにも突然の出来事で、ヤヲを含めた仲間たちは困惑し驚愕した。
ドドドド、と連続した爆音は間違いなく、砲撃による攻撃の音だった。
白煙の中で起こった想定外の事態は、全ての状況把握は困難だった。
だが、これだけは明白だった。
国王とロドが、撃たれたのだ。呻き声を上げ、崩れ落ちるロド。無言のまま倒れ込む国王。
ロドたちが困惑するのも無理はなかった。この場面での砲撃は、誰も命令していなかった。されていなかったはずだった。
それどころか、こんな連続射撃が出来る兵器を、ゾォバは所持していなかった。
「リーダーがやられた! 報復だ! やれ! やり返せ! 暴れろ! そうしなければ俺たちに勝利はない! 革命は成せない!」
ゾォバ側の誰かが突如、そう叫んだ。
「賊を捕えろ! 国王様を助けるんだ! 絶対に逃がすな! 一人残らず捕まえろ!」
白煙の中、何処からともなくなだれ込んできた兵士たちも負けじと、そう叫んだ。
そこからはもう、リデの制止する声も、レグの叫びも届かなかった。
報復だと暴れ始めたゾォバたちと、国王を守ろうとする兵士たちの争いが始まった。
刃が交じり合う音、雄叫び、悲鳴。叫び声があちこちで響く、轟く。
「キャーーー!!」
「せめて命は!」
「やり返せ!」
「ロドの仇を!」
「国王様の仇を!」
「殺せ!」
「殺さないでぇー!!!」
王族貴族も、兵士も賊も関係なく。次々と地に伏していく。
会食場は瞬く間に最悪の悪夢のような場所と変貌していった。
そこへ更なる増援の兵が会場へ駆け込んでくる。
薄れゆく白煙の中見えたのは、倒れている人々の姿。
ときに折り重なるように、ときに惨たらしく。
絶命している者たちを前に、地面に流れる血を前に。目撃した兵士たちは事態の重大さを知った。そして恐怖した。
「こ、こんなこと…歴史上類を見ない…」
0
あなたにおすすめの小説
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
婚約破棄したら食べられました(物理)
かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。
婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。
そんな日々が日常と化していたある日
リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる
グロは無し
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる