エーデルヴァイス夫人は笑わない

緋島礼桜

文字の大きさ
10 / 25

2日目~4

しおりを挟む






「わかった、調理場は後回しだ」

 僕がそう言うとアンはホッとしたような顔をしていた。

「だとしても次はどこを探そうか…」

 調理場を除けば1階はこれで全て調べ終わった。
 次は2階を探す、ということになる。
 1階は大体客室のような部屋ばかりで、エーデルヴァイス夫人の部屋はなかった。
 だからきっと、2階に夫人の部屋があって、一番思い出の品々がたくさん置かれていると僕は思った。




「時間は…まだ昼を過ぎたばかりだし…じゃあ今度は2階に上がって―――」
「待って」

 そう言ってまた制止するアン。
 アンは僕の腕を掴むと2階じゃなく、なぜか屋敷の外を指さしていた。

「2階も広そうだし…探しているうちに暗くなっても困るから。それよりも屋敷の周りも調べてみましょう?」
「屋敷の周り?」

 でもヨハンネスさんは屋敷の中にある私物でと言っていたし、外に夫人の思い出の品なんてあるのかな?
 けれど僕が首を傾げている間にもアンは僕の腕を強引に引っ張っていく。

「調べてみなきゃわからないじゃない?」

 ランプの灯りに照らされるそんなアンの顔は、どこか楽しそうに見えた。
 僕はこの状況を未だにずっと怖くてドキドキしているっていうのに。

「…アンって僕より幼いのに度胸があるね」
「ふふふ、そうでしょ? 私ね、この屋敷も嫌いじゃないの。だっておもむきがあってステキじゃない」

 おもむき?
 ステキ?
 このお化け屋敷が?
 ちょっと流石にそれは理解出来そうにないな…。
 僕がそう考えている間に、アンは屋敷の玄関まで僕を連れて来ていた。

「とりあえず湖まで行ってみない?」
「湖? そこって怖い噂とか伝説とかある…」

 そもそも湖なんて目的からかけ離れている気がするんだけど。
 あんまり行く気にはなれないけど、それでもアンは行こうとせがんでくる。
 まあでも…期日まで後3日間もあるし。
 
「わかったよ」
 
 僕がそう言うとアンは嬉しそうに目を輝かせた。
 よほど湖が見てみたかったのかな。

「それじゃあ昼ご飯も持って行こう。ついでにちょっとしたピクニックだ」
「ええ、ありがとう」

 そうして僕とアンは屋敷の外へと出た。





 屋敷の外はまだ夕暮れではなく。
 けれど朝起きたときにはなかった濃い霧が屋敷や森中に広がっていた。
 すぐ近くに建ててあるテントさえ見えなくなるほどだった。

「こんなに霧がかかっていたらちゃんと湖見れないかもね」

 僕の言葉を聞きアンは少しだけ俯いた顔をする。
 
「それでもいいの。行ってみたいだけだから」
「…そっか」

 僕はちょっとだけ微笑むと鞄にパンと缶詰を詰めて支度を終える。

「よし、じゃあこっちだと思うから行くだけ行ってみよう。この濃霧だと迷子になっちゃうかもしれないから、手をつないで行こう?」

 そう言って僕はアンの前へ手を差し出す。
 大きく、嬉しそうに頷いたアンは迷わず僕の手を握り返した。











 


 屋敷から少しばかり歩いた先―――そこに湖はある。
 地図にも名前の載っていない、ただの湖。
 けれど大人も子供も湖が存在していることと、悪くて怖い噂だけは聞いたことのある湖。
 湖を見た人は生きて帰っては来られない、なんて噂もあるけれども。
 僕は今、そんな湖を目の前にしていた。

「綺麗だね」
「うん…」

 それは思った以上に透き通っていて、美しい湖だった。
 生憎の霧で周囲の景色が見えないのは残念だけど。
 それでもその霧がまた神秘的な雰囲気を醸し出していた。

「まるでこの世じゃないみたいだ」
「うん…」

 僕はゆっくりと湖へ近づき、恐る恐るその湖面に触れてみた。
 驚くくらいに冷たくて。でもそれ以外なんてことはないただの水だった。

「誰だよ、魔女が毒を流してるなんて言い出したのは…」

 そう言いながら、僕はふとヨハンネスさんの言葉を思い出した。



『真に恐ろしいのは屋敷の方なのです』



 屋敷の方が恐ろしいらしいのに、なぜ湖の方が怖い噂ばかり出回っているんだろう。
 もしかして、湖に誰も近づいて欲しくなかったから怖い噂を流したとか…?
 うーん…僕にはちょっとわからないや。





 僕はその後、アンと一緒に遅めの昼食をとった。
 アンは小食で全然食べなくて、だから代わりに僕がアンの分も食べる。

「そう言えば…アンは好きなものとかってある…?」
「え…?」

 それは何となく聞いてみたくなった質問だった。
 
「答えたくないなら良いけど…」

 アンはしばらく無言でいたけれど。
 そのうち、小さい声で「ある」と答えてくれた。

「あのね…可愛いものが好き。お花やお人形よりもぬいぐるみとか、小動物とかが好きなの」

 僕はアンの言葉をちゃんと聞きながらうなずく。
 するとアンは次第に他のことも話し始めてくれた。

「甘いお菓子も好き。宝石とかよりもキャンディの方がキラキラしてるのに甘いんだもの」

 本当はおしゃべりが好きな子なんだろう。
 そんなアンの話を聞いているうちに気づけば夕暮れになっていて。
 僕たちはまた手をつなぎながらテントへと戻った。







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

未来スコープ  ―キスした相手がわからないって、どういうこと!?―

米田悠由
児童書・童話
「あのね、すごいもの見つけちゃったの!」 平凡な女子高生・月島彩奈が偶然手にした謎の道具「未来スコープ」。 それは、未来を“見る”だけでなく、“課題を通して導く”装置だった。 恋の予感、見知らぬ男子とのキス、そして次々に提示される不可解な課題── 彩奈は、未来スコープを通して、自分の運命に深く関わる人物と出会っていく。 未来スコープが映し出すのは、甘いだけではない未来。 誰かを想う気持ち、誰かに選ばれない痛み、そしてそれでも誰かを支えたいという願い。 夢と現実が交錯する中で、彩奈は「自分の気持ちを信じること」の意味を知っていく。 この物語は、恋と選択、そしてすれ違う想いの中で、自分の軸を見つけていく少女たちの記録です。 感情の揺らぎと、未来への確信が交錯するSFラブストーリー、シリーズ第2作。 読後、きっと「誰かを想うとはどういうことか」を考えたくなる一冊です。

笑いの授業

ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。 文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。 それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。 伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。 追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。

ローズお姉さまのドレス

有沢真尋
児童書・童話
*「第3回きずな児童書大賞」エントリー中です* 最近のルイーゼは少しおかしい。 いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。 話し方もお姉さまそっくり。 わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。 表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成

少年イシュタと夜空の少女 ~死なずの村 エリュシラーナ~

朔雲みう (さくもみう)
児童書・童話
イシュタは病の妹のため、誰も死なない村・エリュシラーナへと旅立つ。そして、夜空のような美しい少女・フェルルと出会い…… 「昔話をしてあげるわ――」 フェルルの口から語られる、村に隠された秘密とは……?  ☆…☆…☆  ※ 大人でも楽しめる児童文学として書きました。明確な記述は避けておりますので、大人になって読み返してみると、また違った風に感じられる……そんな物語かもしれません……♪  ※ イラストは、親友の朝美智晴さまに描いていただきました。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

【完結】またたく星空の下

mazecco
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 君とのきずな児童書賞 受賞作】 ※こちらはweb版(改稿前)です※ ※書籍版は『初恋×星空シンバル』と改題し、web版を大幅に改稿したものです※ ◇◇◇冴えない中学一年生の女の子の、部活×恋愛の青春物語◇◇◇ 主人公、海茅は、フルート志望で吹奏楽部に入部したのに、オーディションに落ちてパーカッションになってしまった。しかもコンクールでは地味なシンバルを担当することに。 クラスには馴染めないし、中学生活が全然楽しくない。 そんな中、海茅は一人の女性と一人の男の子と出会う。 シンバルと、絵が好きな男の子に恋に落ちる、小さなキュンとキュッが詰まった物語。

処理中です...