僕と天使の終幕のはじまり、はじまり

緋島礼桜

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第八幕~青年は絶望を味わった6

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「なっ…!?」

 その場で目撃していた誰もが言葉を失い、凍り付いた。
 それは間一髪で助けられたルイスとトラストも同様で。
 信じられない現象に、戦慄が走った。
 黒い光に呑み込まれた―――二人の前にいたイグバーン。その他、周囲にいた兵たちが、一瞬にして消滅していた。
 吹き飛ばされたわけでもなく。
 まるで手品のように、跡形もなく。
 その証拠に、光から逃れきれなかった兵だろう凄惨な残骸が何体か転がっていた。
 エスタに敵対していたもの全てが、光に呑まれ消え去っていた。
 
「これが…伝承に謳われていた『終焉の光』というものか―――」

 思わずトラストが呟く。



 天使と人間との戦争が行われていたという、幻想とも伝説とも言える遥か昔。
 それについて書き残された伝記に、『一部の天使のみが使った破壊兵器にも匹敵する力』の一文をトラストは思い出す。
 天使が存在しない今となっては失われたはずだった、恐るべき力。
 それを、エスタは扱ってみせた。
 そしてその力は、世界の破壊など容易いほどの圧倒的な力だと見せつけた。
 紛れもない、絶望を与える終焉の光だと、知らしめたのだ。




「黒き光を放つ翼に紅き双眸…まさに黒鷹の化身……終焉の天使が生まれてしまったということか……」

 トラストはそう呟いた後、静かに息を呑んだ。





 大将を失い、見たことのない恐ろしい力を目の当たりにした兵たちは、怯え、悲鳴を上げて逃げ出していく。
 中には果敢に飛び込む兵士たちもいたが、しかし。
 彼らの攻撃は全て弾き返され、先ほどと同じ黒い光球に包まれ消滅していった。
 彼らの雄叫び、悲鳴すらも消滅させていくエスタ。

「さあ、破滅の幕開けだ! 逃げろ、惑え、恐怖しろ…!」

 彼の顔をした天使は黒い輝きの翼を広げ、兵たちを弄ぶ。
 逃げ惑い、恐怖する兵。
 勇敢に立ち向かい返り討ちに遭う兵。
 混乱し慌てふためく兵たちの姿を見て、彼はそれが愉悦であるかの如く笑う。
 兵士だけではなく、周辺の建物さえも光によって消えていく中。
 ルイスは怪我とは関係なく硬直し、動けないでいた。
 こんな力を持つ化物を相手に立ち向かう術など、何も浮かばない。
 親友ではなくなってしまったエスタに、彼はただただ絶望するだけであった。



「そう、それだ! その絶望した顔を見ることこそが我らの欲求であり悲願だ! もっとその目に恐怖を焼き付けろ! そして絶望の中で消え失せろッ!」

 そう叫ぶエスタは不意に、足元にあった何かを踏みつけた。
 思わず見下ろしたその先にはミラ―スがいた。
 正しくは、彼女だったものだ。
 彼にとっては愚かなただの傀儡であり、最早ただの抜け殻だ。
 だが、そんな少女を見るなりエスタは眉を顰めた。

「この私を生み出しておきながらも、脆弱過ぎた愚かな者どもめ…まだ私の邪魔をするか―――!」

 そう言ってエスタはミラ―スを蹴り飛ばす。
 不愉快だと示す彼の言動。
 だがそこに隠れた違和感に、トラストは唯一気付く。

(―――何故、あの少女は『光』で消えていないのだ……消せなかった、のか…?)

 そこから、ある一つの可能性に彼が辿り着こうとするよりも早く。
 気付けば一人の人影が、トラストを横切り走り出す。

「止めろォォッ!」

 ミラ―スへと手を翳していたエスタは、その雄叫びに手を止める。
 そしてその手で、振りかざされた剣を受け止めた。






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