89 / 104
第八幕~青年は絶望を味わった6
しおりを挟む「なっ…!?」
その場で目撃していた誰もが言葉を失い、凍り付いた。
それは間一髪で助けられたルイスとトラストも同様で。
信じられない現象に、戦慄が走った。
黒い光に呑み込まれた―――二人の前にいたイグバーン。その他、周囲にいた兵たちが、一瞬にして消滅していた。
吹き飛ばされたわけでもなく。
まるで手品のように、跡形もなく。
その証拠に、光から逃れきれなかった兵だろう凄惨な残骸が何体か転がっていた。
エスタに敵対していたもの全てが、光に呑まれ消え去っていた。
「これが…伝承に謳われていた『終焉の光』というものか―――」
思わずトラストが呟く。
天使と人間との戦争が行われていたという、幻想とも伝説とも言える遥か昔。
それについて書き残された伝記に、『一部の天使のみが使った破壊兵器にも匹敵する力』の一文をトラストは思い出す。
天使が存在しない今となっては失われたはずだった、恐るべき力。
それを、エスタは扱ってみせた。
そしてその力は、世界の破壊など容易いほどの圧倒的な力だと見せつけた。
紛れもない、絶望を与える終焉の光だと、知らしめたのだ。
「黒き光を放つ翼に紅き双眸…まさに黒鷹の化身……終焉の天使が生まれてしまったということか……」
トラストはそう呟いた後、静かに息を呑んだ。
大将を失い、見たことのない恐ろしい力を目の当たりにした兵たちは、怯え、悲鳴を上げて逃げ出していく。
中には果敢に飛び込む兵士たちもいたが、しかし。
彼らの攻撃は全て弾き返され、先ほどと同じ黒い光球に包まれ消滅していった。
彼らの雄叫び、悲鳴すらも消滅させていくエスタ。
「さあ、破滅の幕開けだ! 逃げろ、惑え、恐怖しろ…!」
彼の顔をした天使は黒い輝きの翼を広げ、兵たちを弄ぶ。
逃げ惑い、恐怖する兵。
勇敢に立ち向かい返り討ちに遭う兵。
混乱し慌てふためく兵たちの姿を見て、彼はそれが愉悦であるかの如く笑う。
兵士だけではなく、周辺の建物さえも光によって消えていく中。
ルイスは怪我とは関係なく硬直し、動けないでいた。
こんな力を持つ化物を相手に立ち向かう術など、何も浮かばない。
親友ではなくなってしまったエスタに、彼はただただ絶望するだけであった。
「そう、それだ! その絶望した顔を見ることこそが我らの欲求であり悲願だ! もっとその目に恐怖を焼き付けろ! そして絶望の中で消え失せろッ!」
そう叫ぶエスタは不意に、足元にあった何かを踏みつけた。
思わず見下ろしたその先にはミラ―スがいた。
正しくは、彼女だったものだ。
彼にとっては愚かなただの傀儡であり、最早ただの抜け殻だ。
だが、そんな少女を見るなりエスタは眉を顰めた。
「この私を生み出しておきながらも、脆弱過ぎた愚かな者どもめ…まだ私の邪魔をするか―――!」
そう言ってエスタはミラ―スを蹴り飛ばす。
不愉快だと示す彼の言動。
だがそこに隠れた違和感に、トラストは唯一気付く。
(―――何故、あの少女は『光』で消えていないのだ……消せなかった、のか…?)
そこから、ある一つの可能性に彼が辿り着こうとするよりも早く。
気付けば一人の人影が、トラストを横切り走り出す。
「止めろォォッ!」
ミラ―スへと手を翳していたエスタは、その雄叫びに手を止める。
そしてその手で、振りかざされた剣を受け止めた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜
リョウ
ファンタジー
僕は十年程闘病の末、あの世に。
そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?
幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。
※画像はAI作成しました。
※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる