光がさしこむ、その日まで

神の自由

　僕のプライベートな送別会にはほとんど参加してくれた君。やっぱり、君はどこにいても目立つ存在。君は初対面だろうが、その大きな瞳で相手を飲み込んじゃうんだ。僕の先輩や後輩たちとニコニコと話してる君を遠目で見てた。僕と2人の時と大勢の中にいる時の差がないんだ、君は。
　忘れもしない、３月３０日の土曜日。君はわざわざ大阪まで来てくれたよね。思ってたより綺麗な単身赴任用のマンション。ダンボールの荷ほどきをしてる君を見て、ホントに2人の生活が始まるような気がしたんだ。

　自由になれたと喜んだ単身赴任正解は、考えていたものよりずっとキツかった。東京と大阪だから、君に会えるのはせいぜい月に一度か二度。慣れない大阪での一人暮らし。関西弁が飛び交う社内。道もわからなくて約束の時間に遅れたり、営業車を停めた駐車場がわからなくなったり・・・。毎日イライラするようになって、ミスなのかどうかもわからないようなミスを繰り返した。
　そばにいて欲しい時にいない、会いたい時に会えないことが、こんなに辛いものだとは思わなかった。小さなことも含めて置かれてる環境に慣れるまでホント辛かった。
　大阪に来て3カ月くらい経って、目に見える気色が透き通るようになったころだった。仕事帰りに先輩と軽く飲んで、家に着いたのが１０時過ぎ。テレビをつけてボーっとしてた時に君からのメール。
'わたし、会社辞めて岡山に帰ることにした'
　ただただ驚くしかなかった。酔いが一瞬で覚めたよ。
　僕は、あの時、君に会社を辞める理由を聞かなかった。会社でなんかあったのか、僕の大阪転勤と関係してるのか・・・。君の秘めた思いをちゃんと掘り起こしてあげればよかったんだよ、僕は。もし、そうしていたら、もっと早くに小さなゴールを見れていたのかもしれない。

　ダメだね、'たら' 'れば'は・・・。