光がさしこむ、その日まで

再会

　確か五年くらい経ってたはず。偶然、君のことを渋谷で見かけたんだ。君の右手には小さな男の子の手が絡んでた。二人が顔を見て見合わせて笑ってる姿を見て驚きよりも安堵のため息が漏れた。
　ホントに怖かったんだけど、思い切って声をかけた。君は一瞬驚いた表情を浮かべ、不自然な笑顔を返してくれたね。まさか、君からお茶に誘われるなんて思いもしなかった。もしかしたら、他人のフリされるんじゃないか、くらい思ってたから。
　大きな瞳は健在だった。お互い、空白の五年間には触れようとしなかったよね。僕は申し訳なくて、切り出せなかった。僕の覚悟って、あの頃となにも変わってないのかもね。ちゃんと目を見て謝るべきだった。
　時おり、見せる母親としての瞳は、以前より強さと光を増しているように見えた。かわいい息子のこれからの人生をがむしゃらに愛していく覚悟の表れなんだよね、きっと。
　僕が幸せそうだねって言ったら、大きくうなずいて、ゆっくりと瞬きをした君。
　君たちの姿が人混みの中に完全に消えるまで、ずっと目で追ってた。そして、小さく呟いた。
'遅すぎるにもほどがあるけど、僕、離婚したんだ'
　君を真似て黙ってたのか、それとも言えなかったのか、やっぱりわからないまま。僕はズルい男。