観客席のモブは、恋をする予定じゃなかった

しろうさぎ

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虹色の瞳2(ルカside)

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アイリスと過ごした数ヶ月は、どの瞬間も忘れられない。忘れたくない。それほど幸せな時間だった。
周りに何度咎められても、人目を盗んでこの町に来るほどに。

二人で居る時に、何か特別な事をしていた訳じゃない。
目的もなくブラブラと町を歩いて、噴水広場の冷たい石のベンチに座ってぼーっと過ごす。
お腹が空いたら二人でマルタおばさんのパンを分け合って、美味しいねって笑うアイリスが堪らなく可愛かった。
川縁に腰を下ろして「陽射しが水面に反射してきれいだね」と笑う君の方が何倍も綺麗だと、俺が思っている事なんて気づいていないんだろうな。

何度も迷って、迷って…プレゼントを用意した事もあったけど、結局渡せないまま、リボンやブローチは今も引き出しに入れたまま。
俺のあげた物で君を飾りたいという、執着めいた想いに必死に蓋をする。

結局、何もしてあげられなかった。
それなのに、アイリスはいつも俺を見つけると、笑顔で駆け寄ってくる。君が気付くずっと前から見ていた俺の女々しさも知らないんだ。

「私、ルカと過ごす穏やかな時間が好きだよ」

その言葉をもらえた日、もう何もかも捨てて良いか、と本気でアイリスとの未來を考えた。
こんな不細工な見た目で何も与える事のできない俺と一緒に居る時間が好きだなんて、世界でアイリスただ一人だと思う。

この思いを素直に伝えられたらどんなに良いか。
「俺も好きだよ」って伝えたら、アイリスはどんな顔をするかな。

「アイリスってほんとに変わってる」
と、気持ちを隠した代わりの言葉を伝えるほどに、不甲斐ない自分が情けなく思えた。

「アイリスが笑うと、この町が少しだけ優しく見える。だから…好きだよ。」
やっとの事で、絞り出した愛の言葉に

「良かった。ルカがこの町を好きになってくれて嬉しいよ」
って、アイリスが笑ってくれたから、今はまだこのままでいいって自分を納得させた。


ーーーーー

アイリスと最後に会った日のことは、今でも鮮明に覚えている。

言わなければならないことがあった。
でも、言えなかった。

(今のままでは、ここにいる資格はない。でも、離れたくない)

その矛盾に、自分で自分を追い詰めていた。
大切な人に、大事な事を伝えられない。
そんな不甲斐ない俺の隣で、アイリスは文句も言わず、追求もせずに、ただ黙って俺を見つめてくれた。

「また、会える?」

――来たい。
何度でも。

でも、約束はできなかった。

「約束は、できない」

そう言った自分の声が、ひどく遠く聞こえた。

「……またね、アイリス」

また、会いたい。さよならじゃない。
また、その虹色の瞳に俺を映してもらえるように、願いを込めて。

背を向けた後、振り返らなかった。
もう一度、虹色の瞳を見つめてしまったら、情け無い顔で君の元へ走り出してしまいそうだったから。

彼女は何も知らない。
今は、それでいい。

彼女の世界はこれからも変わらず、
あの町で、花と一緒に咲いている。

いつかきっと、必ず、迎えに行く。
その時は、もう二度と、手を離さない。

そう思いながら、俺は町を離れた。


俺の独りよがりな想いに、アイリスを悲しませてしまった事も、彼女が独りで泣いている時に側にいる事すら出来なかった事も、この時の俺は気付く事が出来なかった。
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