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第三幕 転生歌姫の新たなる旅立ち
第三幕 4 『開戦』
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一旦解散となったが、今回の作戦の要となるメンバーはもう少し作戦を詰めるためその場に残った。
リファーナ様は今回の作戦全体の指揮を執る、いわば総司令官としての役割だ。
私、アネッサ姉さん、リーゼさんは開戦と同時に広域殲滅魔法で先制攻撃を行い、とにかく可能な限り数を減らすことに専念する。
ルシェーラ様率いる遊撃部隊には、父さんを筆頭に一座の面々5人と、カイトさん、Aランクの…確かフランツさん、Bランクの魔導師二人。
フランツさんは直接話をしたことはないけど、この街では数少ない最高ランクの冒険者の一人だから顔と名前くらいは知っていた。
あとのBランクの魔導師二人は面識がない。
「さて、まずは改めてお礼を。今回の作戦へ参加頂きありがとうございます。不在の夫に代わり感謝申し上げます」
「なに。俺らもこの街には世話になったからな。放っておくことなんざ出来やしねえよ。しかし、侯爵サマはタイミングが悪かったな。せっかく運動不足を解消する機会だってのによ」
「ふふ、その代わり久々に私が大暴れさせてもらうわ」
「いや、お前は総指揮官だろうが」
「もちろん、あなた達が大将首を討ち取って趨勢が決したあとの話よ。散り散りに敗走していくだろうけど、できるだけ刈り取っておかないと。美味しいところはルシェーラに譲るわ」
…全然悲観していないのが凄いよ。
微塵も負けることなんて考えてない。
「でも、Sランクを相手するのは心配じゃないんですか?」
「もちろん、心配はしているわ。でも、それほど柔な鍛え方はしてないわよ。それに、Sと言っても軍団を指揮する能力こそ恐ろしいものの、個体の能力としてはAとそれ程変わるものではないからね」
それは確かに。
Sランクといっても様々で、今回であれば相手は恐らくゴブリンエンペラーかオーガエンペラー。
奥様が言う通り、Sランク指定の最大の理由は軍団を指揮するという点である。
個体の能力だけでS指定されてる竜種などを相手にするよりは全然楽だろう。
「それだけではありませんわ。今回は強力な広域魔法で先制してかなり数を削れる見込みがありますし、なんと言ってもカティアさんの[絶唱]があります。犠牲を全く出さずに、と言うのは無理でも、負ける要素は無いと思いますわ」
犠牲…
そうだよね、これだけの規模の戦闘で味方の被害を全く出さないなんて不可能だ。
出来る事なら誰にも死んで欲しくなんてないけど…
「何だ?カティア殿の[絶唱]と言うのは?」
と、疑問を口にしたのはフランツさん。
武士とか侍みたいな雰囲気の渋いオジサマだ。
腰に下げるのも少し反りがある刀みたいな長剣なので、余計にそう見える。
「ああ、私のスキルで…簡単に言うと歌に魔法効果を乗せるというものです。敵の能力を下げたり、味方の能力を向上させたりできますね。今回は[拡声]と併用して全軍の能力を底上げしようと」
あと、リリア姉さんの加護の効果も上乗せされるはずだが、それは秘密。
これで少しでも犠牲が少なくなれば良いけど。
「ほう、そんな事ができるのか…これは頼もしいな。よろしく頼む」
「あ、はい。こちらこそ、よろしくお願いします。一番危険な任務なので気を付けて下さいね」
「あらあら~?カティアちゃんはカイトくんが一番心配なんじゃないの~?」
「え!?そ、そりゃあ、カイトさんだけじゃなくて皆のこと心配してるよ。それに、私は安全なところで後方支援って言うのも何だか申し訳ないし…」
姉さんがまたからかってきたので、さらっと誤魔化す。
最近、例の話を切りだそうとして、それが出来なくて…ちょっと話しにくいんだよなぁ…
私のそんな複雑そうな心情を汲んでくれたのか、それ以上突っ込んでくることも無かった。
「申し訳無いなんて思う必要はないだろう。カティアのスキルで被害が大分抑えられるんだ、感謝こそすれ文句言うやつなどいないだろう」
「はい…そうですね。私は私のできる事を精一杯やります。…カイトさんも気を付けて下さいね」
カイトさんがそう言ってくれる。
そうだ。
私ができる事をちゃんとやれば味方の被害は抑えられるかもしれないんだ。
そう考えると責任重大だな…
その後、それぞれの立ち回りに関して細かな打ち合わせを行い、私達も解散となった。
あとは万全を期して明日の決戦に望むだけだ。
「うわぁ~、壮観だねぇ…」
私達冒険者チームは明朝早くにブレゼンタムの街を出立して、ブレゼア平原に陣を張る領軍に合流した。
三千人の兵士が隊列を組んで整然と並ぶ様は圧巻で、侯爵様は練度が低いなどと言っていたが、なかなかどうして、その勇壮なさまは市民から見れば頼りになるのではないだろうか。
「懐かしい空気だな。もう戦場とは縁が無いと思っていた」
「人間相手じゃないぶん気は楽だがな」
「ちげえねぇ。魔物相手なら存分に暴れてやるさ」
父さん達は元傭兵で戦場の経験があるからね。
もともとそれに嫌気がさして辞めたので、今回は幾分か思うところがあるらしい。
「ダードレイ殿達は元傭兵だったとか」
と聞いてくるのはフランツさん。
既に遊撃部隊の面々はこの場に揃っている。
「ああ。もう15年も昔の話だがな」
「大戦の英雄の一人、ダードレイの名は私も聞いたことがある。今回肩を並べて戦える事、光栄に思う」
「そんな大層なもんじゃねえけどな。あんたこそ『無剣』の名がずいぶんと轟いてるじゃないか」
ニヤっと笑って父さんが答える。
Aランクは漏れなく二つ名が付けられてるのだが…
「…その名はあまり好きではないのだがな」
と、フランツさんは苦虫を噛み潰したような表情になる。
あなたも二つ名が嫌いなんですね。
今回、父さん達は遊撃部隊として動くが、それ以外の冒険者達も各自の判断で動いて一般兵では手こずる上位種を相手にすることになっているため、冒険者達は全員が遊撃要員と言える。
「皆さん」
「おう、ルシェーラ嬢ちゃん、よろしく頼む」
「私の方こそ、よろしくお願いしますわ」
「遊撃隊の行軍指揮は嬢ちゃんが執るって事でいいんだよな」
「はい。昨日話した通り、進軍や撤退などの大局的な判断は私の方で行います。接敵した際の細かな戦闘指示はおじさまにお願いいたしますわ」
実際の戦闘指揮は経験豊富な父さんが行うという事だ。
そこは妥当な判断だろう。
侯爵家の者が先陣を切るという事を重要視してはいるが、それだけに拘泥せず最適な判断をするのは流石だね。
「お嬢様、あとどれくらいで開戦になりそうですか?」
「斥候の報告によればあと2~3時間ほどではないか、とのことです」
「分かりました。開戦の合図…魔法を放つタイミングは?」
「ある程度引きつけてからお母様が号令を発しますので、そのタイミングで詠唱を開始してください」
念の為、初撃の手はずを確認しておく。
あとは魔軍の到来を待つのみだ。
やがて、2時間ほど経過しただろうか。
広大な平原の地平の彼方に魔物の大群が進軍して来るのが見えてきた。
領軍や冒険者たちに緊張が走り、空気が変わったのを感じる。
「…来ましたね」
「ええ、いよいよですね」
「そうね~、もう少し引きつけてから私達の出番ね~」
初撃の広域殲滅魔法を担当する私達三人は前方に陣取り、その時が来るのを待っている。
姉さんもリーゼさんも、緊張は感じられるものの恐怖の色はなく、役割を果たすのにはなんら問題はないだろう。
それは私も同じだ。
軍団は次第に近づいてきており、少しづつその規模を明らかにしつつある。
人型ではあるものの明らかに人とは異なるその異様な雰囲気も見て取れるようになって来た。
事前の情報の通り軍団を構成するのは、最も数が多いゴブリン、次いでオーク、オーガ、ときおりトロールが確認できる。
大将はまだ確認できないが、軍団の後方より強烈なプレッシャーが放たれているような気がする。
この距離でははっきりとした位置までは分からないが、遊撃部隊が突破していけばそのプレッシャーが放たれている場所も自ず分かるはずだ。
もう敵は目前だ。
程なく号令がかかるだろう。
そう思った矢先、拡声の魔道具によって拡大されたリファーナ様の声が響き渡った。
『本陣より全軍に通達。敵軍の戦闘予定区域への到達を確認。これより戦闘を開始する。各員戦闘準備。広域魔法の着弾、及びカティア殿の支援スキルの発動を確認ののち進撃を開始。…では、カティアちゃん!アネッサさん!リーゼさん!初撃をお願い!』
よし、いよいよだ。
緊張を集中力に変えて詠唱を開始する。
私が使える中でも範囲、威力ともに最大級の雷撃魔法だ。
『天にありては地に焦がれ、地にありては天に焦がれ…』
詠唱開始と同時に魔力がごっそり持っていかれる感じがする…
『…天地を分かつこのそらに、雷精よ集いて架橋となれ…』
溢れ出す魔力が燐光を帯び始める。
絶大な力が生み出されていくのが分かる。
今にも弾けそうな力の奔流を敵に叩きつけるべく両手をバッ、と前に突き出して、最後の引き金引く!
「…いきます![轟天雷]!!!」
引き金の言葉を発すると、練り上げられた魔力が一気に解放された!
そして、一拍の後…
バリバリバリッッッ!!!
ズガァーーンッッッ!!!
ドドーーンッッ!!!
雲一つない青空に魔法によって生み出された幾筋もの雷光が轟音と共に魔軍に降り注ぐ!
これこそ正に青天の霹靂。
何度も何度も降り注ぐ雷撃は魔軍の中央部に容赦なく襲いかかり、数多くの魔物を屠る。
魔物の悲鳴は凄まじい轟音に掻き消されてこちらまで届くことはなかった。
これで千くらいは倒せただろうか?
だが、まだこれで終わりではない。
私に続いて、リーゼさんの詠唱が完成する!
『……渦巻く灼火は龍の如く成りて疾く駆け抜けよ、尽く灰燼に帰せ![灼天龍]!!』
渦巻く炎が五体の龍のように変化し、猛烈な勢いで魔軍に襲いかかる!
私が雷撃を放った中央部より左側を蹂躙しごっそり削り取っていく。
更に間髪入れず、姉さんの魔法も完成する!
『……厚き氷河を築き葬列に捧げよ![氷葬烈破]!!』
魔法発動とともに放たれた青白い光の玉が敵軍中央より右側に向かっていく…
そして、その光が着弾すると、そこを起点に凄まじい勢いで極低温の冷気を撒き散らし、無数の鋭い氷の槍が地面より激しく突き上げられる!
瞬時に凍りついてしまうような冷気と鋭い氷槍による二重の攻撃に成すすべもなく魔物たちは蹂躙された。
広域殲滅魔法の三重奏によって目論見通り軍団の多くの魔物は打倒できたようだ。
魔法の直撃を受けたところは阿鼻叫喚の地獄絵図が展開されていることだろう。
今回の相手はろくな魔法防御手段も無いため効果覿面のはずだ。
しかし、それでもまだ多くの魔物が残っている。
当初の予想通り、二~三千ほどは残っているだろうか。
あわよくば大将も、と思っていたが流石にそれは虫が良い話か。
あれほどの攻撃を目にしても怯むことなく味方の屍を踏み越えて進軍してくる様子から、大将が健在であることを示しており、その様は狂気すら感じられる。
これで数的には互角の状況か。
ここからが戦いの本番と言えるだろう。
リファーナ様は今回の作戦全体の指揮を執る、いわば総司令官としての役割だ。
私、アネッサ姉さん、リーゼさんは開戦と同時に広域殲滅魔法で先制攻撃を行い、とにかく可能な限り数を減らすことに専念する。
ルシェーラ様率いる遊撃部隊には、父さんを筆頭に一座の面々5人と、カイトさん、Aランクの…確かフランツさん、Bランクの魔導師二人。
フランツさんは直接話をしたことはないけど、この街では数少ない最高ランクの冒険者の一人だから顔と名前くらいは知っていた。
あとのBランクの魔導師二人は面識がない。
「さて、まずは改めてお礼を。今回の作戦へ参加頂きありがとうございます。不在の夫に代わり感謝申し上げます」
「なに。俺らもこの街には世話になったからな。放っておくことなんざ出来やしねえよ。しかし、侯爵サマはタイミングが悪かったな。せっかく運動不足を解消する機会だってのによ」
「ふふ、その代わり久々に私が大暴れさせてもらうわ」
「いや、お前は総指揮官だろうが」
「もちろん、あなた達が大将首を討ち取って趨勢が決したあとの話よ。散り散りに敗走していくだろうけど、できるだけ刈り取っておかないと。美味しいところはルシェーラに譲るわ」
…全然悲観していないのが凄いよ。
微塵も負けることなんて考えてない。
「でも、Sランクを相手するのは心配じゃないんですか?」
「もちろん、心配はしているわ。でも、それほど柔な鍛え方はしてないわよ。それに、Sと言っても軍団を指揮する能力こそ恐ろしいものの、個体の能力としてはAとそれ程変わるものではないからね」
それは確かに。
Sランクといっても様々で、今回であれば相手は恐らくゴブリンエンペラーかオーガエンペラー。
奥様が言う通り、Sランク指定の最大の理由は軍団を指揮するという点である。
個体の能力だけでS指定されてる竜種などを相手にするよりは全然楽だろう。
「それだけではありませんわ。今回は強力な広域魔法で先制してかなり数を削れる見込みがありますし、なんと言ってもカティアさんの[絶唱]があります。犠牲を全く出さずに、と言うのは無理でも、負ける要素は無いと思いますわ」
犠牲…
そうだよね、これだけの規模の戦闘で味方の被害を全く出さないなんて不可能だ。
出来る事なら誰にも死んで欲しくなんてないけど…
「何だ?カティア殿の[絶唱]と言うのは?」
と、疑問を口にしたのはフランツさん。
武士とか侍みたいな雰囲気の渋いオジサマだ。
腰に下げるのも少し反りがある刀みたいな長剣なので、余計にそう見える。
「ああ、私のスキルで…簡単に言うと歌に魔法効果を乗せるというものです。敵の能力を下げたり、味方の能力を向上させたりできますね。今回は[拡声]と併用して全軍の能力を底上げしようと」
あと、リリア姉さんの加護の効果も上乗せされるはずだが、それは秘密。
これで少しでも犠牲が少なくなれば良いけど。
「ほう、そんな事ができるのか…これは頼もしいな。よろしく頼む」
「あ、はい。こちらこそ、よろしくお願いします。一番危険な任務なので気を付けて下さいね」
「あらあら~?カティアちゃんはカイトくんが一番心配なんじゃないの~?」
「え!?そ、そりゃあ、カイトさんだけじゃなくて皆のこと心配してるよ。それに、私は安全なところで後方支援って言うのも何だか申し訳ないし…」
姉さんがまたからかってきたので、さらっと誤魔化す。
最近、例の話を切りだそうとして、それが出来なくて…ちょっと話しにくいんだよなぁ…
私のそんな複雑そうな心情を汲んでくれたのか、それ以上突っ込んでくることも無かった。
「申し訳無いなんて思う必要はないだろう。カティアのスキルで被害が大分抑えられるんだ、感謝こそすれ文句言うやつなどいないだろう」
「はい…そうですね。私は私のできる事を精一杯やります。…カイトさんも気を付けて下さいね」
カイトさんがそう言ってくれる。
そうだ。
私ができる事をちゃんとやれば味方の被害は抑えられるかもしれないんだ。
そう考えると責任重大だな…
その後、それぞれの立ち回りに関して細かな打ち合わせを行い、私達も解散となった。
あとは万全を期して明日の決戦に望むだけだ。
「うわぁ~、壮観だねぇ…」
私達冒険者チームは明朝早くにブレゼンタムの街を出立して、ブレゼア平原に陣を張る領軍に合流した。
三千人の兵士が隊列を組んで整然と並ぶ様は圧巻で、侯爵様は練度が低いなどと言っていたが、なかなかどうして、その勇壮なさまは市民から見れば頼りになるのではないだろうか。
「懐かしい空気だな。もう戦場とは縁が無いと思っていた」
「人間相手じゃないぶん気は楽だがな」
「ちげえねぇ。魔物相手なら存分に暴れてやるさ」
父さん達は元傭兵で戦場の経験があるからね。
もともとそれに嫌気がさして辞めたので、今回は幾分か思うところがあるらしい。
「ダードレイ殿達は元傭兵だったとか」
と聞いてくるのはフランツさん。
既に遊撃部隊の面々はこの場に揃っている。
「ああ。もう15年も昔の話だがな」
「大戦の英雄の一人、ダードレイの名は私も聞いたことがある。今回肩を並べて戦える事、光栄に思う」
「そんな大層なもんじゃねえけどな。あんたこそ『無剣』の名がずいぶんと轟いてるじゃないか」
ニヤっと笑って父さんが答える。
Aランクは漏れなく二つ名が付けられてるのだが…
「…その名はあまり好きではないのだがな」
と、フランツさんは苦虫を噛み潰したような表情になる。
あなたも二つ名が嫌いなんですね。
今回、父さん達は遊撃部隊として動くが、それ以外の冒険者達も各自の判断で動いて一般兵では手こずる上位種を相手にすることになっているため、冒険者達は全員が遊撃要員と言える。
「皆さん」
「おう、ルシェーラ嬢ちゃん、よろしく頼む」
「私の方こそ、よろしくお願いしますわ」
「遊撃隊の行軍指揮は嬢ちゃんが執るって事でいいんだよな」
「はい。昨日話した通り、進軍や撤退などの大局的な判断は私の方で行います。接敵した際の細かな戦闘指示はおじさまにお願いいたしますわ」
実際の戦闘指揮は経験豊富な父さんが行うという事だ。
そこは妥当な判断だろう。
侯爵家の者が先陣を切るという事を重要視してはいるが、それだけに拘泥せず最適な判断をするのは流石だね。
「お嬢様、あとどれくらいで開戦になりそうですか?」
「斥候の報告によればあと2~3時間ほどではないか、とのことです」
「分かりました。開戦の合図…魔法を放つタイミングは?」
「ある程度引きつけてからお母様が号令を発しますので、そのタイミングで詠唱を開始してください」
念の為、初撃の手はずを確認しておく。
あとは魔軍の到来を待つのみだ。
やがて、2時間ほど経過しただろうか。
広大な平原の地平の彼方に魔物の大群が進軍して来るのが見えてきた。
領軍や冒険者たちに緊張が走り、空気が変わったのを感じる。
「…来ましたね」
「ええ、いよいよですね」
「そうね~、もう少し引きつけてから私達の出番ね~」
初撃の広域殲滅魔法を担当する私達三人は前方に陣取り、その時が来るのを待っている。
姉さんもリーゼさんも、緊張は感じられるものの恐怖の色はなく、役割を果たすのにはなんら問題はないだろう。
それは私も同じだ。
軍団は次第に近づいてきており、少しづつその規模を明らかにしつつある。
人型ではあるものの明らかに人とは異なるその異様な雰囲気も見て取れるようになって来た。
事前の情報の通り軍団を構成するのは、最も数が多いゴブリン、次いでオーク、オーガ、ときおりトロールが確認できる。
大将はまだ確認できないが、軍団の後方より強烈なプレッシャーが放たれているような気がする。
この距離でははっきりとした位置までは分からないが、遊撃部隊が突破していけばそのプレッシャーが放たれている場所も自ず分かるはずだ。
もう敵は目前だ。
程なく号令がかかるだろう。
そう思った矢先、拡声の魔道具によって拡大されたリファーナ様の声が響き渡った。
『本陣より全軍に通達。敵軍の戦闘予定区域への到達を確認。これより戦闘を開始する。各員戦闘準備。広域魔法の着弾、及びカティア殿の支援スキルの発動を確認ののち進撃を開始。…では、カティアちゃん!アネッサさん!リーゼさん!初撃をお願い!』
よし、いよいよだ。
緊張を集中力に変えて詠唱を開始する。
私が使える中でも範囲、威力ともに最大級の雷撃魔法だ。
『天にありては地に焦がれ、地にありては天に焦がれ…』
詠唱開始と同時に魔力がごっそり持っていかれる感じがする…
『…天地を分かつこのそらに、雷精よ集いて架橋となれ…』
溢れ出す魔力が燐光を帯び始める。
絶大な力が生み出されていくのが分かる。
今にも弾けそうな力の奔流を敵に叩きつけるべく両手をバッ、と前に突き出して、最後の引き金引く!
「…いきます![轟天雷]!!!」
引き金の言葉を発すると、練り上げられた魔力が一気に解放された!
そして、一拍の後…
バリバリバリッッッ!!!
ズガァーーンッッッ!!!
ドドーーンッッ!!!
雲一つない青空に魔法によって生み出された幾筋もの雷光が轟音と共に魔軍に降り注ぐ!
これこそ正に青天の霹靂。
何度も何度も降り注ぐ雷撃は魔軍の中央部に容赦なく襲いかかり、数多くの魔物を屠る。
魔物の悲鳴は凄まじい轟音に掻き消されてこちらまで届くことはなかった。
これで千くらいは倒せただろうか?
だが、まだこれで終わりではない。
私に続いて、リーゼさんの詠唱が完成する!
『……渦巻く灼火は龍の如く成りて疾く駆け抜けよ、尽く灰燼に帰せ![灼天龍]!!』
渦巻く炎が五体の龍のように変化し、猛烈な勢いで魔軍に襲いかかる!
私が雷撃を放った中央部より左側を蹂躙しごっそり削り取っていく。
更に間髪入れず、姉さんの魔法も完成する!
『……厚き氷河を築き葬列に捧げよ![氷葬烈破]!!』
魔法発動とともに放たれた青白い光の玉が敵軍中央より右側に向かっていく…
そして、その光が着弾すると、そこを起点に凄まじい勢いで極低温の冷気を撒き散らし、無数の鋭い氷の槍が地面より激しく突き上げられる!
瞬時に凍りついてしまうような冷気と鋭い氷槍による二重の攻撃に成すすべもなく魔物たちは蹂躙された。
広域殲滅魔法の三重奏によって目論見通り軍団の多くの魔物は打倒できたようだ。
魔法の直撃を受けたところは阿鼻叫喚の地獄絵図が展開されていることだろう。
今回の相手はろくな魔法防御手段も無いため効果覿面のはずだ。
しかし、それでもまだ多くの魔物が残っている。
当初の予想通り、二~三千ほどは残っているだろうか。
あわよくば大将も、と思っていたが流石にそれは虫が良い話か。
あれほどの攻撃を目にしても怯むことなく味方の屍を踏み越えて進軍してくる様子から、大将が健在であることを示しており、その様は狂気すら感じられる。
これで数的には互角の状況か。
ここからが戦いの本番と言えるだろう。
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