76 / 683
第四幕 転生歌姫の世直し道中
第四幕 10 『潜入』
しおりを挟む作戦会議から二日後、いよいよ潜入作戦を決行する事になった。
私とルシェーラ様、ケイトリンさんは協力者の一人である衛兵の人に連れられて領主邸へと向かっているところだ。
特に拘束されたりはしておらず、普通に歩いている。
無理矢理連れ去られる人だけでなく、諦めて大人しく付いていく人もいるらしいので特に不自然ではないそうだ。
当然、魔法薬で髪の色も変えている。
ケイトリンさんは面が割れてないのでそのままみたい。
あと、作戦中は偽名を使うことになっている。
私は『ティア』、お嬢様は『シエラ』、ケイトリンさんは『ケイト』だ。
元の名前を少しもじっただけだが、あまりかけ離れていても咄嗟に出てこなくなるので、これくらいがいいだろう。
さて、私達はついに街外れにある領主邸の門前までやって来た。
街の規模自体はブレゼンタムと比べるべくも無いが、領主邸の大きさはブレーゼン家のそれよりもかなり広いらしく、門一つ取ってもその大きさに圧倒される。
お嬢様に聞いたところによると、伯爵邸としては大きい方だが、常識の範囲内ではあるらしい。
…侯爵様はもう少し贅沢してもいいと思うな。
(…いよいよですね。さて、どうなる事やら…)
(先ずはどこに連れて行かれるか…直ぐに先に囚われた女性達のもとに連れてかれるなら良いのですけど)
(まあ、入ってみないと分かんないよ。それよりも、離ればなれにならなければ良いのだけど)
「お疲れ様です、新たに女達を連れてきました。引受をお願いします」
私達を連れてきた衛兵さんが、邸の守衛に取り次ぎをお願いする。
守衛が中に入って暫くすると、邸の使用人らしき初老の男性がやって来て私達を中に招き入れる。
「ようこそいらっしゃいました、と言うのは少々おかしい気もしますが…それ程怖がらずとも良いですよ。さあ、こちらへ」
どうもこの人はこちらを哀れんでいるような感じで、なるべく怖がらせないようにと気遣ってくれているようだ。
この人にとっても不本意な状況と言う事なのだろうか。
邸の前庭を歩きながら話をしてみる。
少しでも情報収集しないと。
「あの…あなたは?あ、私はティアと言います」
「ああ、申し遅れました。私は先々代様からこの邸に仕えておりますスコットと申します。…ここまで来てそのように落ち着かれているとは、中々肝が座っておいでのようで」
「え?あ、あの、もう諦めがついてるというか……でも、ここに連れられた女の人達がどうなったのかが分からないので、これでも不安なんです。」
(…ティアさん、自然な感じでナイスですわね)
「そうですね…今までここに連れられてきた人達は元気に過ごしていますよ。…少なくとも健康ではあります」
…何か含みのある言い方だね。
まあ、若い女性ばかり集められてるのだし、どういう扱いをされているのかは何となく察することはできるけども。
例え無事救出して、身体は無事だったとしても…心のケアが必要になるかもしれない。
というか、私達もそういう目に合う危険があるのだから、さっさと情報収集して突撃してもらわないと。
「これから、先にここに来た娘たちと同じところに案内しますよ。基本的にはそこに居てもらうのですが、邸内でしたらある程度の自由はありますよ」
へえ…がちがちに監禁ってわけじゃないんだ。
今前庭を歩きながらあたりを見回して見ると、あちこちに見張りはいるみたいだけど、それほど厳重という感じもしないけど…
「その、逃げ出そうとする人はいないのですか?」
「…そうですね、居なかった訳ではありませんが…無事に過ごしたいのであれば、それは考えない方が良いとだけ言っておきます」
これまで逃げ出せた人がいるという情報は聞いてないから、皆捕まったんだろうけど…
見た雰囲気以上には監視はしっかりしてるのだろう。
しかし、そのとき捕まった人はどんな目に合わされたのか…
「私達…これからどうなるんですの?」
お嬢様が不安げな表情で、心底怯えるように呟く。
なかなか演技派ですね。
今度舞台に出てみません?
「あなた達はこの邸でゆっくり過ごしてもらえればそれで良いのです。ただ、領主代行様のお眼鏡にかなった際には…それ以上は言わなくてもお分かりでしょう?あなた達には不幸なことかとは思いますが…私ではどうする事も…」
はいはい。
分かりたくないけど分かりますよ、まったく…
でも、やっぱりこの人にとってもこの状況は本意ではないみたいだ。
何とかしてあげたいけど、それだけの力が無いことを嘆いているのが言葉の端から伝わってくる。
それにしても…
ヨルバルトさんに聞いた話からすると、マクガレンは『異界の魂』に囚われているのは間違いないはず。
人間に取り憑いた場合、その人間が抱える闇の部分…欲望や妄執を増大させると言う。
つまり、闇に囚われて増大した欲望や妄執というのが…女性達を集める理由なのだろう。
話しながら歩いているうちに、本屋の玄関までやって来た。
門からここまで優に100メートルはあったよ。
見取り図見て把握していたはずだけど、どんだけ広いんだ…
重厚な両開きの大きな扉を開いて中に入ると、広々とした玄関ホールの空間が私達を迎える。
中は静まりかえっていて、他の使用人の姿などは見えない。
「さあ、こちらです」
そう促されて進んでいくのは、玄関ホール右手奥の扉。
事前に図面で確認した情報からすると、どうやら客室棟に連れて行かれるみたいだ。
取り敢えず、牢屋に入れられるとかじゃないみたいなので一安心かな。
扉の奥には長い通路が続いていて、そこを進んでいく。
右手側は一面壁が続いているが、左手側は腰の高さくらいの柵となっていて、一定間隔で柱が並んでいる。
こちらは中庭に面しているようで、所々にある柵の切れ間からそこに行けるようになっている。
と、その中庭にある四阿に何人かの女性が集まっているのが見えた。
ここからだと遠目で表情までは見えないけど、穏やかな雰囲気で悲壮な感じはしないように見える。
「あの…あそこにいる人たちはもしかして…?」
「ええ、あなた達と同じく、税を払えないということで連れてこられた娘たちです。先程も申し上げましたが、ご覧の通りこの邸の中であればある程度の自由は保証されています。生活自体に不便はありませんから、彼女たちはここの生活にも慣れて、比較的馴染んでる方なのでしよう」
う~ん、意外と好待遇なんだね…
もちろん、本人の意思によらず連れてこられた挙げ句、女性の尊厳を無視される事を考えると、住環境の待遇が良いからといって許されるものではないのだけど。
そして、中庭を回り込むように通路をしばらく進んでいくと、客室棟の入り口までやって来た。
本屋よりは小さな建物のはずだが、それでも十分に立派で大きい。
まあ、高位貴族がお客さんを泊めるところだしね。
「あなた達の部屋は3階です。申し訳ありませんが、この客室棟も手狭でして、三人とも同じ部屋となります」
いや、それはむしろ助かったよ。
バラバラにされる懸念もあったからね。
そして、三階まで上がって部屋の前まで案内される。
「こちらです。出入りは自由にしてもらって構いませんが、夜は出歩かないでください。何か御用がありましたら、一階に使用人が詰めていますのでお申し付けください。食事は部屋までお持ちいたします」
…普通に客待遇だね。
潜入作戦と言う割には拍子抜けだなぁ…
「では、私はこれで失礼いたします」
一通りの案内を終えて、スコットさんは去っていった。
さて、取り敢えず部屋の中に入りますか。
「ふえ~、何か立派な部屋だね~。三人でも十分な広さだよ」
「ほんとに。何だか好待遇だねぇ」
「お二人とも。目的を忘れないでくださいまし」
「もちろん忘れてなんていませんよ。でも、予想外の待遇でちょっと拍子抜けしてしまったのは否定できません」
「そうですわね。皆さんご無事…と言って良いのかは分かりませんが、思ったよりは酷いことにはなっていなかったのはせめてもの救いでしょうか。もちろん皆さんが受けたであろう屈辱は百倍返しにして殺す必要がありますけど」
おお…敵を目前にして再び怒りが湧いてきたみたいだね…
ちょっと怖いです…
とにかく、取り敢えず潜入はできたので、外で待機しているメンバーに連絡しましょうかね。
11
あなたにおすすめの小説
異世界で一番の紳士たれ!
だんぞう
ファンタジー
十五歳の誕生日をぼっちで過ごしていた利照はその夜、熱を出して布団にくるまり、目覚めると見知らぬ世界でリテルとして生きていた。
リテルの記憶を参照はできるものの、主観も思考も利照の側にあることに混乱しているさなか、幼馴染のケティが彼のベッドのすぐ隣へと座る。
リテルの記憶の中から彼女との約束を思いだし、戸惑いながらもケティと触れ合った直後、自身の身に降り掛かった災難のため、村人を助けるため、単身、魔女に会いに行くことにした彼は、魔女の館で興奮するほどの学びを体験する。
異世界で優しくされながらも感じる疎外感。命を脅かされる危険な出会い。どこかで元の世界とのつながりを感じながら、時には理不尽な禍に耐えながらも、自分の運命を切り拓いてゆく物語。
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者
哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。
何も成し遂げることなく35年……
ついに前世の年齢を超えた。
※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。
※この小説は他サイトにも投稿しています。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件
フランジュ
ファンタジー
地区最強のヤンキー・北条慎吾は死後、不思議な力で転生する。
だが転生先は底辺魔力の下級貴族だった!?
体も弱く、魔力も低いアルフィス・ハートルとして生まれ変わった北条慎吾は気合と根性で魔力差をひっくり返し、この世界で最強と言われる"火の王"に挑むため成長を遂げていく。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる