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幕間
幕間9 『兄と妹』
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武神杯の準決勝でティダと対戦したイーディス…本名はイースレイだが、彼はエーデルワイス歌劇団の舞台女優アネッサの兄であると言う。
武神杯が終った数日後、エーデルワイス歌劇団の宿舎である邸にイースレイを招いて、会合が行われた。
邸の応接間にはティダ、アネッサ、イースレイの三名のみ。
アネッサが防音の結界も張って、秘密の会合といった雰囲気だ。
「カティアも話を聞きたいと言ってたんだが…」
「カティアちゃんは~、カイトくんとデートね~。まあ、後で話をすれば~いいんじゃない~?」
「敢えて誘導していたようだが…まあ、いいか」
「で、兄さん?何でイスパルに来てるの?」
普段の間延びした口調ではなく、やや詰問するように兄に尋ねる。
普段の彼女とはまるで違う、鋭い雰囲気だ。
もしかしたら、こちらが本来の彼女なのかもしれない。
「…そう警戒しなくても良い。お前を連れ戻そうとか、そういう話ではない。少なくとも俺はな」
「え?そうなの?」
拍子抜けしたように聞き返す。
「俺も武神杯のパーティの時に少し話をさせてもらったんだがな。イースレイさんがイスパルに来たのは、たまたまらしいぞ」
「そうだ。俺は冒険者の依頼…アルノルト様の護衛としてこの国に来ただけだ」
「…と言うか~、何で兄さんは冒険者なんかやってるの~」
再び普段の口調に戻って尋ねる。
どうやら連れ戻しに来たわけではないと知ると、警戒を解いたらしい。
「俺は三男だから…受け継ぐべきものが何もないからな。身一つで生きていこうと。まあ、性に合ってると言う事だ」
「ふ~ん…それでも~、よくあの父上が許したわね~?」
「…お前が出ていってからと言うもの、父上はすっかり元気を無くしてしまってな。あれだけ野心家だったのに、今では見る影も無い。家督も兄上に継いで早々に引退してしまった」
「………」
「いなくなって初めて大切さが分かった…と言うことなんだろう。実はな、何年か前に、父上はお前を連れ戻そうとして…ダードレイ一座の公演を見たことがあるらしい」
「えっ!?」
その話に衝撃を受けて、アネッサは大きく目を見開いて驚愕の表情を見せる。
そんなに近くまで来てたのに、何故連れ戻そうとしなかったのか…いや、そもそも自らわざわざ足を運ぶなど、アネッサが知る父の行動とは到底思えなかった。
「お前が楽しそうに…ティダ殿と幸せそうにしているのを見て、連れ戻すのは諦めた…と言うことのようだ」
「あの父上が…?」
未だ信じられずに呆然と呟く。
「野心に溢れ、冷徹で…お前のことも政略の駒としか見ていなかったように見えたが、父上も人の子だったと言う事なんだろう。俺が騎士団を辞めて冒険者になっても、何も言わなかったしな」
武神杯での無口な様子とは違って、饒舌に語る。
どうやら舞台上では本当に緊張していたらしい…
「……」
「顔を見せろとまでは言わないが…手紙の一つでも出してやったらどうだ?兄上たちも心配してる」
「急にそんな事を言われても~…」
思いがけない話を聞いて心が揺れているものの、直ぐには整理がつかないのか言葉を濁す。
その様子を見かねたティダが、優しく諭すように彼女に話しかける。
「なあ、アネッサ…リィナを祖父に会わせてやらないか?」
「ティダ…?」
「なに、もし連れ戻されそうになっても、俺がそうさせん」
「…」
「なんならカティアに協力してもらっても良いかもな。イスパルの王女と姉妹のような関係だと言えば強硬なことも出来まいよ」
「む~、カティアちゃんを巻き込むのはダメよ~」
「ふっ、アイツなら喜んで協力してくれると思うぞ。…とにかく、せっかく肉親がいるんだ。後で後悔するよりも、今ぶつかった方が良いかもしれんぞ。俺と違ってそれが出来るのだから…」
「ティダ…」
「まあ、レーヴェンハイムはここからそう遠くはないからな。ティダ殿の言うとおり、出来る事なら顔を見せてあげて欲しいとは思うが…それに、孫の顔が見れれば父上も喜ぶだろう」
レーヴェンハイムはレーヴェラントの王都だ。
ここアクサレナからは、徒歩であればアスティカントを経由して一週間ほど…イスパルナとほぼ同じ距離である。
「今は歌劇団も軌道に乗ったばかりだし~、直ぐには無理だけど~…考えておくわ~。手紙は直ぐに書くから~、兄さん渡してくれる~?」
昔のままの父親ならば一考の余地も無かったが…イースレイの話を聞いて心動かされたのか、幾分かは態度を和らげてそう答える
「ああ、承った。…ありがとう」
「いやだわ~、お礼を言うのはこっちよ~。…ありがとう、私のことを気にかけてくれて」
アネッサは素直な気持ちで、どこか晴れやかな笑顔で礼を言うのであった。
「ところで~、兄さんはいつまでアクサレナにいるの~?」
「ああ、武神祭も終ってそろそろアルノルト様も出立なさるから、俺もまた護衛として付いてくのだが…実は次はイスパルナに向かうんだ」
「イスパルナ?」
「そう言えば、ラウルもそんな事を言っていたな。あいつはカカロニアの王子の護衛なんだが…新しい技術の視察と言う事だ」
「そうだ。各国が注目してるらしくてな。レーヴェラントやカカロニアだけでなく多くの国から視察団が訪れるらしい」
「ああ~、あれね~」
新しい技術と聞いてアネッサは直ぐにそれが何なのか分かった。
「何だ、知ってるのか?」
「ええ~。ね~、ティダ?」
「ああ。まあ、あれは皆驚くだろうな」
「そうか、まあ楽しみにしておこう」
アネッサとティダは敢えてそれを教えることはせず、イースレイも特に聞こうとはしないで後の楽しみにとっておくことにしたようだ。
そうしてその後は、兄と妹の久しぶりの再会を純粋に喜んで、終始和やかに色々な話をする。
まるで、失われた時間を取り戻すかのように…
ティダはそんな妻の様子を、優しい眼差しで見つめるのだった。
武神杯が終った数日後、エーデルワイス歌劇団の宿舎である邸にイースレイを招いて、会合が行われた。
邸の応接間にはティダ、アネッサ、イースレイの三名のみ。
アネッサが防音の結界も張って、秘密の会合といった雰囲気だ。
「カティアも話を聞きたいと言ってたんだが…」
「カティアちゃんは~、カイトくんとデートね~。まあ、後で話をすれば~いいんじゃない~?」
「敢えて誘導していたようだが…まあ、いいか」
「で、兄さん?何でイスパルに来てるの?」
普段の間延びした口調ではなく、やや詰問するように兄に尋ねる。
普段の彼女とはまるで違う、鋭い雰囲気だ。
もしかしたら、こちらが本来の彼女なのかもしれない。
「…そう警戒しなくても良い。お前を連れ戻そうとか、そういう話ではない。少なくとも俺はな」
「え?そうなの?」
拍子抜けしたように聞き返す。
「俺も武神杯のパーティの時に少し話をさせてもらったんだがな。イースレイさんがイスパルに来たのは、たまたまらしいぞ」
「そうだ。俺は冒険者の依頼…アルノルト様の護衛としてこの国に来ただけだ」
「…と言うか~、何で兄さんは冒険者なんかやってるの~」
再び普段の口調に戻って尋ねる。
どうやら連れ戻しに来たわけではないと知ると、警戒を解いたらしい。
「俺は三男だから…受け継ぐべきものが何もないからな。身一つで生きていこうと。まあ、性に合ってると言う事だ」
「ふ~ん…それでも~、よくあの父上が許したわね~?」
「…お前が出ていってからと言うもの、父上はすっかり元気を無くしてしまってな。あれだけ野心家だったのに、今では見る影も無い。家督も兄上に継いで早々に引退してしまった」
「………」
「いなくなって初めて大切さが分かった…と言うことなんだろう。実はな、何年か前に、父上はお前を連れ戻そうとして…ダードレイ一座の公演を見たことがあるらしい」
「えっ!?」
その話に衝撃を受けて、アネッサは大きく目を見開いて驚愕の表情を見せる。
そんなに近くまで来てたのに、何故連れ戻そうとしなかったのか…いや、そもそも自らわざわざ足を運ぶなど、アネッサが知る父の行動とは到底思えなかった。
「お前が楽しそうに…ティダ殿と幸せそうにしているのを見て、連れ戻すのは諦めた…と言うことのようだ」
「あの父上が…?」
未だ信じられずに呆然と呟く。
「野心に溢れ、冷徹で…お前のことも政略の駒としか見ていなかったように見えたが、父上も人の子だったと言う事なんだろう。俺が騎士団を辞めて冒険者になっても、何も言わなかったしな」
武神杯での無口な様子とは違って、饒舌に語る。
どうやら舞台上では本当に緊張していたらしい…
「……」
「顔を見せろとまでは言わないが…手紙の一つでも出してやったらどうだ?兄上たちも心配してる」
「急にそんな事を言われても~…」
思いがけない話を聞いて心が揺れているものの、直ぐには整理がつかないのか言葉を濁す。
その様子を見かねたティダが、優しく諭すように彼女に話しかける。
「なあ、アネッサ…リィナを祖父に会わせてやらないか?」
「ティダ…?」
「なに、もし連れ戻されそうになっても、俺がそうさせん」
「…」
「なんならカティアに協力してもらっても良いかもな。イスパルの王女と姉妹のような関係だと言えば強硬なことも出来まいよ」
「む~、カティアちゃんを巻き込むのはダメよ~」
「ふっ、アイツなら喜んで協力してくれると思うぞ。…とにかく、せっかく肉親がいるんだ。後で後悔するよりも、今ぶつかった方が良いかもしれんぞ。俺と違ってそれが出来るのだから…」
「ティダ…」
「まあ、レーヴェンハイムはここからそう遠くはないからな。ティダ殿の言うとおり、出来る事なら顔を見せてあげて欲しいとは思うが…それに、孫の顔が見れれば父上も喜ぶだろう」
レーヴェンハイムはレーヴェラントの王都だ。
ここアクサレナからは、徒歩であればアスティカントを経由して一週間ほど…イスパルナとほぼ同じ距離である。
「今は歌劇団も軌道に乗ったばかりだし~、直ぐには無理だけど~…考えておくわ~。手紙は直ぐに書くから~、兄さん渡してくれる~?」
昔のままの父親ならば一考の余地も無かったが…イースレイの話を聞いて心動かされたのか、幾分かは態度を和らげてそう答える
「ああ、承った。…ありがとう」
「いやだわ~、お礼を言うのはこっちよ~。…ありがとう、私のことを気にかけてくれて」
アネッサは素直な気持ちで、どこか晴れやかな笑顔で礼を言うのであった。
「ところで~、兄さんはいつまでアクサレナにいるの~?」
「ああ、武神祭も終ってそろそろアルノルト様も出立なさるから、俺もまた護衛として付いてくのだが…実は次はイスパルナに向かうんだ」
「イスパルナ?」
「そう言えば、ラウルもそんな事を言っていたな。あいつはカカロニアの王子の護衛なんだが…新しい技術の視察と言う事だ」
「そうだ。各国が注目してるらしくてな。レーヴェラントやカカロニアだけでなく多くの国から視察団が訪れるらしい」
「ああ~、あれね~」
新しい技術と聞いてアネッサは直ぐにそれが何なのか分かった。
「何だ、知ってるのか?」
「ええ~。ね~、ティダ?」
「ああ。まあ、あれは皆驚くだろうな」
「そうか、まあ楽しみにしておこう」
アネッサとティダは敢えてそれを教えることはせず、イースレイも特に聞こうとはしないで後の楽しみにとっておくことにしたようだ。
そうしてその後は、兄と妹の久しぶりの再会を純粋に喜んで、終始和やかに色々な話をする。
まるで、失われた時間を取り戻すかのように…
ティダはそんな妻の様子を、優しい眼差しで見つめるのだった。
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