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第八幕 転生歌姫と母娘の絆
第八幕 プロローグ 『王女の出陣』
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武神祭が終って数日後…私は王都を発ち、徒歩で半日ほどの距離にある近郊の村に向かっていた。
冒険者としての依頼ではない。
ここ最近になって、各地…イスパル以外の他国も含めて、『異界の魂』の出現が相次いで報告されたのだ。
幸いにも、強力な個体はいなかったらしく大きな被害を出すことなく討伐されたと聞いている。
今、向かっている地域も出現が報告された場所であり、王都近郊であるためリル姉さんの眷族たる私が討伐に向かうことになったのだ。
一緒に討伐に向かうのは、カイト、父さん、ティダ兄、アネッサ姉さん、ロウエンさん、ケイトリンとオズマ…そして、万全を期すためディザール神殿とエメリール神殿より退魔系魔法の使い手である神官や神殿騎士、それに第一騎士団の精鋭も合わせておよそ50名が同行している。
総勢では一個中隊ほどの部隊が王都から北、巡礼街道を進む。
その指揮官は…私だ。
正直なところ、個人の戦闘スキルはともかく部隊指揮など行ったことはないのだが…
最初は父さんにお願いしようと思ったところ、父様から直々に指揮官を任命されたのだ。
その意図は何となく分かる。
王族として陣頭指揮の経験を積ませるという事なのだろう。
まあ、何でも一人でやらなければいけないと言うわけでもないし、父さんに参謀になってもらえば良い。
人数的には傭兵団と同じくらいだから、この規模の部隊指揮経験は私よりも断然豊富だと思う。
「武神祭が終ってすぐこんな事になるなんてね。平穏が長続きしないなぁ…」
「まあ、予想された事態ではあるからな。仕方ない」
私のボヤキにカイトが返す。
300年前の記録や伝承から、『異界の魂』が頻出するようになる事は、カイトが言う通り予測された事態ではある。
だからと言って、それが良い事では無いのは当然なのでボヤキたくもなると言うものだ。
「でも、公演の谷間で良かったよ。これからもそうだと良いのだけど」
「そいつぁ、頭の痛え話だな…こっちの都合なんざ考慮してくれるわけ無ぇからなぁ…」
「父さんたちは本業優先してね。だけど私は…こうして近隣に出没したら出ないわけにはいかないからね…」
「ウチの公演でカティアちゃんが出なかったら…暴動が起きるッス」
「流石にそこまでは…」
舞台のメインは劇なんだから。
私の歌も人気なのは自覚してるけど、出ないからって暴動が起きるほどとは思えないよ。
…仮に暴動が起きても、相手が悪すぎるね。
「甘いッスね。カティアちゃんはもっと自分の人気がどれほどのものか認識した方が良いッス」
「ロウエンくんの言うとおりね~。でも~、実際そうなったらどうしましょ~?」
「一部払い戻しとか、後日独演会やるとか…そのあたりが現実的な落としどころじゃないか?諸条件は予め告知しておけば混乱も少なくなるだろう」
「う~ん…独演会はともかく、払い戻しだと皆に迷惑かけちゃうね…ある意味公務なんだから、父様にも相談してみるよ」
「そこまで気を使う必要は無ぇぞ。資金的には余裕も出てきたしな。ただ、後進の育成はそろそろ本格的に考えねぇとだな…カティアだけじゃなく、他のやつらだって何かあったときの代役が必要になるかも知れねえしな」
後進かぁ…
リィナやミーティアはまだ小さいし…今のところはハンナちゃんくらいだよね、後進って言えるのは。
それに…自画自賛になってしまうが、私の代役が務まるほどの歌い手はなかなかいないんじゃないかな~?
その辺は少しづつ進めていかないとね。
そんな話をしながら一行は巡礼街道を進み、王都を出発する時にはようやく地平にその姿を見せ始めていた太陽が天頂に昇る頃、目的地である村に到着した。
長閑な農村ではあるが、宿場も兼ねているらしく中心部は旅人でそこそこの賑わいを見せている。
『異界の魂』に憑依されたと思しき魔物が目撃されたのは、ここから更に1~2時間ほど街道から離れた山中とのこと。
村の広場に部隊を待機させ、私は詳しい話を聞くために護衛の二人を伴って村長宅へと向う。
そこそこの人数の武装集団が突然やってきたので、旅人たちは何事かと遠巻きに眺めているが、村の住人は予め事情を知らされているのか落ち着いた様子だ。
住人に聞いた村長宅までやって来た。
他の民家よりはやや大きいが、ごく普通の一軒家である。
扉をノックすると、中から現れたのは頭はすっかり禿げ上がり、白い髭をたくわえたご老人。
いかにも『長老』って感じだ。
だが、農作業で鍛えられているためか、見た目ほどには老いを感じさせない雰囲気である。
「こんにちは、あなたがこの村の村長さんでしょうか?」
「ええ、いかにも。どちらさまですかな?」
「私は魔物の調査のため王城より参りました、カティアと申します」
「おお!あなた様が…お噂はこの村にも届いておりますぞ。このような寂れた村にまでお越しいただき感謝いたします」
…あえて噂の中身は聞かないことにする。
「早速なんですが、魔物の出現地などについて詳しいお話を聞かせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「もちろんですとも。ささ、立ち話も何ですから、中にお入りください」
村長さんはそう言って家の中に通してくれた。
「それで…この村から東にある山中で件の魔物が目撃された、と聞きましたが…」
「はい。普段から薬草や山菜などを採りに行く者も多い場所なのですが…見たこともない魔物がうろついていると、何人かの村人から報告がありましてな。幸いにも見つからないように直ぐに逃げたので、被害にあった者はおりません」
「なによりです。…それで、それはいつ頃目撃されたのですか?」
「かれこれ一週間ほど前からですな。その魔物…黒い靄を纏っているという特徴が、お国やギルドから回ってきた注意喚起情報と一致している、と言うことで報告を上げさせてもらったのです」
しっかり情報伝達がされてたから比較的迅速に報告が上がってきたんだね。
この辺の成果は侯爵閣下の手腕なのかな。
目撃された魔物の特徴から言って、『異界の魂』絡みで間違いなさそうだね。
ただ、何れの目撃事例も遠目からだったらしく、取り憑かれた魔物が何なのかは、証言からは分からなかった。
それほど大きくない人型とのことなので、恐らくはゴブリンあたりじゃないかと推測する。
そうであれば比較的対処は難しくないとは思うんだけど…油断は禁物だね。
その後も目撃地点の詳しい場所などを確認して、村を出発するのであった。
冒険者としての依頼ではない。
ここ最近になって、各地…イスパル以外の他国も含めて、『異界の魂』の出現が相次いで報告されたのだ。
幸いにも、強力な個体はいなかったらしく大きな被害を出すことなく討伐されたと聞いている。
今、向かっている地域も出現が報告された場所であり、王都近郊であるためリル姉さんの眷族たる私が討伐に向かうことになったのだ。
一緒に討伐に向かうのは、カイト、父さん、ティダ兄、アネッサ姉さん、ロウエンさん、ケイトリンとオズマ…そして、万全を期すためディザール神殿とエメリール神殿より退魔系魔法の使い手である神官や神殿騎士、それに第一騎士団の精鋭も合わせておよそ50名が同行している。
総勢では一個中隊ほどの部隊が王都から北、巡礼街道を進む。
その指揮官は…私だ。
正直なところ、個人の戦闘スキルはともかく部隊指揮など行ったことはないのだが…
最初は父さんにお願いしようと思ったところ、父様から直々に指揮官を任命されたのだ。
その意図は何となく分かる。
王族として陣頭指揮の経験を積ませるという事なのだろう。
まあ、何でも一人でやらなければいけないと言うわけでもないし、父さんに参謀になってもらえば良い。
人数的には傭兵団と同じくらいだから、この規模の部隊指揮経験は私よりも断然豊富だと思う。
「武神祭が終ってすぐこんな事になるなんてね。平穏が長続きしないなぁ…」
「まあ、予想された事態ではあるからな。仕方ない」
私のボヤキにカイトが返す。
300年前の記録や伝承から、『異界の魂』が頻出するようになる事は、カイトが言う通り予測された事態ではある。
だからと言って、それが良い事では無いのは当然なのでボヤキたくもなると言うものだ。
「でも、公演の谷間で良かったよ。これからもそうだと良いのだけど」
「そいつぁ、頭の痛え話だな…こっちの都合なんざ考慮してくれるわけ無ぇからなぁ…」
「父さんたちは本業優先してね。だけど私は…こうして近隣に出没したら出ないわけにはいかないからね…」
「ウチの公演でカティアちゃんが出なかったら…暴動が起きるッス」
「流石にそこまでは…」
舞台のメインは劇なんだから。
私の歌も人気なのは自覚してるけど、出ないからって暴動が起きるほどとは思えないよ。
…仮に暴動が起きても、相手が悪すぎるね。
「甘いッスね。カティアちゃんはもっと自分の人気がどれほどのものか認識した方が良いッス」
「ロウエンくんの言うとおりね~。でも~、実際そうなったらどうしましょ~?」
「一部払い戻しとか、後日独演会やるとか…そのあたりが現実的な落としどころじゃないか?諸条件は予め告知しておけば混乱も少なくなるだろう」
「う~ん…独演会はともかく、払い戻しだと皆に迷惑かけちゃうね…ある意味公務なんだから、父様にも相談してみるよ」
「そこまで気を使う必要は無ぇぞ。資金的には余裕も出てきたしな。ただ、後進の育成はそろそろ本格的に考えねぇとだな…カティアだけじゃなく、他のやつらだって何かあったときの代役が必要になるかも知れねえしな」
後進かぁ…
リィナやミーティアはまだ小さいし…今のところはハンナちゃんくらいだよね、後進って言えるのは。
それに…自画自賛になってしまうが、私の代役が務まるほどの歌い手はなかなかいないんじゃないかな~?
その辺は少しづつ進めていかないとね。
そんな話をしながら一行は巡礼街道を進み、王都を出発する時にはようやく地平にその姿を見せ始めていた太陽が天頂に昇る頃、目的地である村に到着した。
長閑な農村ではあるが、宿場も兼ねているらしく中心部は旅人でそこそこの賑わいを見せている。
『異界の魂』に憑依されたと思しき魔物が目撃されたのは、ここから更に1~2時間ほど街道から離れた山中とのこと。
村の広場に部隊を待機させ、私は詳しい話を聞くために護衛の二人を伴って村長宅へと向う。
そこそこの人数の武装集団が突然やってきたので、旅人たちは何事かと遠巻きに眺めているが、村の住人は予め事情を知らされているのか落ち着いた様子だ。
住人に聞いた村長宅までやって来た。
他の民家よりはやや大きいが、ごく普通の一軒家である。
扉をノックすると、中から現れたのは頭はすっかり禿げ上がり、白い髭をたくわえたご老人。
いかにも『長老』って感じだ。
だが、農作業で鍛えられているためか、見た目ほどには老いを感じさせない雰囲気である。
「こんにちは、あなたがこの村の村長さんでしょうか?」
「ええ、いかにも。どちらさまですかな?」
「私は魔物の調査のため王城より参りました、カティアと申します」
「おお!あなた様が…お噂はこの村にも届いておりますぞ。このような寂れた村にまでお越しいただき感謝いたします」
…あえて噂の中身は聞かないことにする。
「早速なんですが、魔物の出現地などについて詳しいお話を聞かせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「もちろんですとも。ささ、立ち話も何ですから、中にお入りください」
村長さんはそう言って家の中に通してくれた。
「それで…この村から東にある山中で件の魔物が目撃された、と聞きましたが…」
「はい。普段から薬草や山菜などを採りに行く者も多い場所なのですが…見たこともない魔物がうろついていると、何人かの村人から報告がありましてな。幸いにも見つからないように直ぐに逃げたので、被害にあった者はおりません」
「なによりです。…それで、それはいつ頃目撃されたのですか?」
「かれこれ一週間ほど前からですな。その魔物…黒い靄を纏っているという特徴が、お国やギルドから回ってきた注意喚起情報と一致している、と言うことで報告を上げさせてもらったのです」
しっかり情報伝達がされてたから比較的迅速に報告が上がってきたんだね。
この辺の成果は侯爵閣下の手腕なのかな。
目撃された魔物の特徴から言って、『異界の魂』絡みで間違いなさそうだね。
ただ、何れの目撃事例も遠目からだったらしく、取り憑かれた魔物が何なのかは、証言からは分からなかった。
それほど大きくない人型とのことなので、恐らくはゴブリンあたりじゃないかと推測する。
そうであれば比較的対処は難しくないとは思うんだけど…油断は禁物だね。
その後も目撃地点の詳しい場所などを確認して、村を出発するのであった。
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