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第八幕 転生歌姫と母娘の絆

第八幕 エピローグ 『新たなる始まり』

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 ミーティアの誘拐事件からは、特に大きな事件もなく日々が過ぎ行く。

 季節は秋となり、肌を刺すかのようだった日差しの強さはすっかり柔らかなものとなり、街を吹き抜ける風はもうすぐ訪れるであろう冬の寒さを予感させるものとなった。

 その間、王都での第二回公演も行われ、それも大好評のうちに終えた。
 すっかり軌道に乗って、劇団に関しては順風満帆と言えるだろう。





 そして、今日はアクサレナ高等学園の入学式が行われる。
 今は学園に向かうための支度をしているところだ。


「ど、どうかな?変じゃない?」

「よくお似合いですよ、カティア様」

「わぁ~…ママ、かわいいの!」

「おねえさま、とってもすてきです!」

 マリーシャとちびっ子二人に褒められて、ちょっと照れる。

 今お披露目してるのは、学園の制服である。
 雰囲気としては前世で言うところのブレザーみたい。
 気分はジョシコーセーって感じだが、流石にスカートは膝下まである。
 それでも、もし【俺】の意識が強いままだったら、羞恥に身悶えしていたかもしれない。
 今は普通に可愛い格好が出来て、気分はアゲアゲだけども。

「街中で学園生見て思ってたんだけど、やっぱり可愛いよねぇ~」

 と、姿見に自分の姿を映しながら一回転……うん、おかしな所はないかな。
 髪の毛はシンプルにポニーテールにしている。


「あとは、スピーチかぁ……そう言えば、私がいなければ本当はレティがスピーチすることになってたんだよね」

「そうらしいですね。僅かな差でカティア様が主席になられたとか」

「うん。レティ、凄い喜んでたよ…『私は人前で話すのなんか苦手だし…ナイスだよ、カティア!』だってさ」

 まあ、適材適所で良かったって事かな?






「さて、そろそろ出る時間かな……ゼアルさん、ミーティアのことお願いしますね」

『ああ、任せておけ。もう同じ手は食わねえから安心しな』

 ゼアルさん曰く、『調律師』の異能の力は見切ったから同じ手は通用しないとか何とか。

『それに、もうミーティア自身のこころが確固たる意思を持ってるからな。例え俺がいなくても大丈夫だろ』

「うにゃ?」

 この娘は、私の魂を傷つけたことを思い出して、それを恐れていた。
 あの時、私の気持ちがミーティアにちゃんと伝わったからこそ、いま彼女はこうしてここにいるのだ。





「じゃあ、行ってきます!」

「カティア様、行ってらっしゃいませ」

「ママ、いってらっしゃ~い!」

「おねえさま、いってらっしゃいませ!」


 三人に見送られて部屋を出る。
 そして、ここからはいつも通りにケイトリンとオズマが護衛に付く。



「おはよう二人とも、今日もよろしくね」

「おはようございます、カティア様」

「おはようございます!いや~、制服姿も可愛いですねぇ」

「ふふ、ありがと、ケイトリン。じゃあ行きましょう」

「「はっ!」」




 王城からは徒歩で学園に向かう。
 これから毎日のことだから、いちいち馬車を出してもらうのもね…
 レティやルシェーラは、王都に邸があるのでそこから通いになるけど、多分あの二人も徒歩通いだろうね。

 学園には遠方より来る人のために学生寮もあって、ちょっと寮生活も楽しそうだな…と思ったりもした。

 確か、ステラとシフィルは寮に住むって言ってた。
 今までは賓客扱いでイスパル王家所有の邸の一つに住んでいたのだけど、もう引っ越してるのかな?






 学園に近づくにつれて、同じ制服を着た学園生がちらほらと目につくようになる。
 そして、道の先に校門が見えてくる頃には、登校する学生たちの賑やかな声で、街路は喧騒に満ち溢れる。
 前世の登校風景とそんなに変わらないね。



 そして、学生が増えてくると…

「…めちゃくちゃ注目を浴びてますねぇ」

 そう、私は凄く目立ってるのだ。

 近衛騎士の格好をした護衛が二人も付いていると言うのも目立つ要因なんだけど…
 元から王女で歌姫と言う事で有名人だし、武神杯でも目立ってたし…そもそも容姿が目立つ。

 普段街を歩くときは慣れもあって、あまり気にならなくなってるんだけど、これだけ多くの同年代の少年少女から注目を浴びるのはこれまでに無かったからね。
 同じ学生と言うこともあって視線に遠慮がない気がするし、あちこちでヒソヒソと噂話しているのが目に入る。

 まぁ、しょうがないか…



 そうして、私が注目を浴びながらも校門を潜ろうとした時…さらに注目を浴びる要因が増えることになる。

「カティア!おはよ~!」

「カティアさん、おはようございます」

 レティとルシェーラが声をかけてきた。

「あ、二人ともおはよう!今日からいよいよ学園生だね」

「うんうん、楽しみだねぇ」

「私もですわ。当面の目標は、カティアさんと並んで戦えるだけの強さを身につける事ですわっ!!」

「お、おお…ルシェーラちゃん、目が燃えてるね」

 う~ん…今回の件がよっぽど悔しかったんだね……
 落ち込むよりは良いのかもしれないけど、ますます貴族令嬢から遠ざかるような気が…


「カティア、スピーチ頑張ってね!あなたが主席になってくれたから助かっちゃったよ」

「あはは…まあ、ぼちぼち頑張るよ。殆ど点差は無かったらしいけどねぇ…」

「でもでも、やっぱりこういう式典なんだから、王女サマが挨拶する方が相応しいでしょ」

「学園では身分に関わらず平等なんでしょ?」

「そんなの建前建前」

 いいのかな?
 そんなこと言って……

「きっと凄い注目を浴びるだろうね~……って、今もそうみたいだけど」

「カティアさんは美人ですからね。殿方の視線が凄いですわ」

「女子もそんなに変わらないよ。流石は武神歌姫王女で『星光の歌姫ディーヴァ・アストライア』のカティア様っ!……盛り込みすぎでしょ」

「…ほっといて。それにあなた達だって十分に目立ってるから」

「カティアさんには及びませんわ」

 …そっすか。






「あ、カティア、レティ、ルシェーラ…おはよう」

「カティア、おはよう!やっぱり目立ってるね」

「あ、ステラ!シフィル!おはよう!」

「おはよ~」

「おはようございます」

 入学式が行われる大ホールに向かう途中でステラとシフィルに出会った。

「二人とも、もう寮に住んでるの?」

 二人がやって来た方に確か寮があったはずだ。

「ええ、昨日から住み始めてるの。シフィルと同室よ」

「寮暮らしって言うのも、なかなか新鮮よねぇ~」

「楽しそうだよね。落ち着いたら遊びに行きたいな」

「ええ、是非遊びに来て頂戴。……ああ、そちらの方は初めまして…だよね?私はアダレット王国から参りました、シフィル=エルジュと申します」

「ご丁寧にありがとうございます、私はレティシア=モーリスと申します。武神杯での素晴らしい戦いは私も拝見してました。…カティアのお友達なら、私とも仲良くしてくれると嬉しいな」

「初めまして、私はルシェーラ=ブレーゼンと申します。よろしくお願いしますわ。今度、是非とも手合わせをお願いしたいですわ!」

 初対面のシフィル、レティ、ルシェーラが挨拶を交わす。
 こうやって、いろんな人と仲良くなれるのが楽しみだね。
 しかし、ルシェーラはブレないねぇ…





 そうして、さっそく新たな交友関係を得て親交を深めていると、また新たな声がかかる。

「お~い!カティア~っ!!」

「ん?この声は…ああ、やっぱりメリエルちゃん!!あなたも合格したんだね!」

 …武術の試験がアレだったので、ちょっと心配してたんだけど、無事合格できたみたいで良かったよ。

「ギリギリだったけど、何とか!」

「そっか、良かったよ。これからよろしくね!」

「うん!こちらこそ!」


「あ、みんな、こちらはメリエルちゃん。試験のとき一緒だったんだ」

「メリエル=ウィラーだよ!よろしくね!」

「元気な娘だね~。私はレティシア=モーリスだよ。よろしくね、メリエルちゃん」

「私はルシェーラ=ブレーゼンですわ。よろしくお願いします」

「私はシフィル=エルジュだよ。よろしく」

「ステラ=アダレットです。よろしくお願いしますね。…ところで、『ウィラー』と言うことはもしかして?」

「うん!ウィラー王国の第二王女だよ。そう言うあなたも…」

「はい、アダレットの王女です。ですが、この学園では身分の上下は関係ありませんから」

「そうだね、私も堅苦しいのは好きじゃないから!」

「それは私もだね。まあ、この面子はもともと身分差なんてそんなに無いんだし…気楽に行きましょ」

 王女と公爵令嬢と侯爵令嬢だもんね。
 それ以上に、レティとルシェーラは身分に関係なく親しい友人だし、ステラやシフィル、メリエルちゃんだってそうなるだろう。

 そして、きっと新たな出会いも…













 不穏な事件は新たな展開を見せ、黒幕が明らかになりつつある。
 今回の事件によって、この王都における黒神教の活動拠点は暴かれ…油断は禁物だが、暫くは平穏が続くものと思われる。

 何よりも…私の大切な娘、ミーティアとの絆が深まったのが嬉しかった。






 そして、季節は移ろいゆく。

 私は晴れてアクサレナ高等学園に合格し、これより学園生としての生活が始まる。

 日々勉学に励み、王女としての責務を果たし、気の置けない友人たちと語らい…新たな出会いに思いを馳せる。


 そんな、輝かしい未来を願って…今日わたしは新たな一歩を踏み出すのだ。




ーー 第八幕 転生歌姫と母娘の絆 閉幕 ーー
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