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第九幕 転生歌姫の学園生活

第九幕 17 『放課後〜神殿訪問』

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 ギルドを後にした私達は、そのままエメリール神殿総本山へと向かった。

「さて、リル姉さんには会えるかな…?」

「…エメリール様をそんな風に親しげに呼べる間柄って、凄いですよね」

「そもそも、直接お会いできると言うのが…」

 私はもう慣れたけど、普通はそうだよね。








 エメリール神殿総本山に着く頃には、結構日が傾いて街は赤く染まりつつあった。
 この時間帯はあまり参拝客は多くはなく、街の賑わいから離れた神殿内は静寂に包まれ、私達の歩く足音がやけに響き渡っていた。



「あら?カティア様ではありませんか」

「あ、ティセラさん。こんにちは」

 たまたま通りがかったティセラさんが私達に気が付き話しかけてきた。

「こちらにいらしたと言うことは、エメリール様に?」

「はい。…あ、そうだ!結界の除去はティセラさんのお力をお借りしたとか…ありがとうございました」

「いえいえ、私達神殿にとっても、エメリール様の神託が降りないのは問題ですからね。前回はかろうじて受けることができましたが、かなり不安定だったみたいですから。こちらこそお礼を言わせてください。それに…かなり複雑な術式でしたが、宮廷魔導師のみなさんと力を合わせて何とかすることができて良かったです」


 あの地下神殿の入口…アグレアス侯爵所有の倉庫内に施されていた隠蔽魔法の術式と同様に、東方系統の結界術だったらしく、ティセラさんの解析が無ければお手上げだったと聞いている。
 もちろん、大規模結界の解除にあたっては彼女一人だけの力でできるものではないので、そこらへんは持ちつ持たれつではあるが。


「じゃあ、ちょっとお祈りさせてもらいますね」

「はい、ごゆっくりどうぞ」

 すぐ終わるけどね。



 そうして私は祭壇の前まで行って、両手を組んで片膝を着き祈りを捧げるようにして、心の中でリル姉さんに語りかける。

(リル姉さん、お話できるかな?)

 すると、例の感覚がして…私は神界へと引き上げられた。



















「いらっしゃい、カティア。久しぶりね」

 目を開くと、いつもと同じ森の中の広場でテーブルセットの椅子に座ったリル姉さんが、優しげな笑顔をこちらに向けていた。

「こんにちは、リル姉さん。やっと会いにこれたよ」

「あの結界はなかなか厄介だったわ。ティセラの力がなかったら、もっと時間がかかったわね」

「うん……あ、ティセラさんのことは知ってるんだ?」

「ええ。総本山の巫女だから」

「え!?…そうなの?何か別の人が巫女みたいな口ぶりだったけど…」

 ミーティアの誘拐事件の時、あたかも他にいる巫女から話を聞いたふうな感じだったけど。
 何人もいるのかもしれないけど、神託を聞くことができるのはごく僅かな人間に限られるって聞いたことがある。

「巫女の情報は神殿にとって秘匿情報になってるみたいね。だからカティアも黙っていてあげてね」

「ああ、なるほど…分かったよ」

 確かにそれだけ貴重な人材だったら、おいそれと個人情報を晒すわけにはいかないか。


「巫女の資質というのは、かつてシギルを持っていた一族…つまり王家から分かれた家系の者が持つのよ。それこそ、王家であればシギルを発動できるほどの才覚があるの」

「へぇ~!じゃあ、ティセラさんと私って親戚みたいなものなんだね」

「そうね。まぁ、彼女の家系が王家から分かれたのは、もう何百年も前のこと…アルマ王家が滅びるよりももっと前みたいだけどね」

 それでも、少し親近感があるね。
 今後も力を借りることもあるかもしれない、と言うのとは別に、個人的にも仲良くしたいと思う。




「で、しばらくここに来れなかったんだけどここ最近の出来事について話をしようと思って……あ、そうだ!ミーティアの事件のときのお礼もまだだったよ。ありがとう、リル姉さんのおかげで、早期解決ができたよ」

「どういたしまして。私にとっても、ミーティアは大切な娘だからね。何とか伝えることが出来て良かったわ」

 そう言って更に笑みを深くするリル姉さん。
 まあ、私と同じ存在っと言っても良いからね、あの娘は。
 そうじゃなくても、可愛いし!





「それで、今回の事件なんだけど……黒神教、魔族が裏にいたんだけど、まさか王都の地下にあんなものがあったなんて…って皆驚いていたよ」

「『異界の魂』が現れ始める時期に合わせて色々な事件の裏で暗躍しているところを見ると…やはり、かつての大戦を繰り返そうとしているのは間違いなさそうね」

「そう……だよね、やっぱり。何でそんな事をするのかな…」

 可愛そうな迷子の魂を利用してまで…他国の平和を脅かしてまで侵略することに一体何の意味があるのか。

 グラナがもし…不毛な土地であるが故に民が困窮してると言うならまだ理解できる。
 もちろん例えそうであっても許せるものではないが。

 だが、グラナの民がそれほどまでに困窮してるなんて話は聞いたことがないし、むしろ東方大陸においては相当な強国として知られている。

 結局…もともと覇権主義国家であるというのに加えて、皇帝の権力も絶大であるので、たった一人の権力者の支配欲が他国に向くと、かつての大戦のような混乱が引き起こされてしまうのだ。


「それも人のさがと言ってしまえばそれまでだけど…かつて私達が切り開いた地に暮らす人々が脅かされるのは私達にとっても憂慮すべきことよ。例え…地上は離れ、見守ると決めたんだとしても」

「リル姉さん…」

「だからね。直接的な手助けは出来ないまでも…あなたやあなたの仲間に出来る範囲での協力はしたいと思ってるの。それは私だけじゃなく、他の神々の総意でもあるわ」

 もともとは人間たちの自立を促すためにそうしたんだものね。
 リル姉さんはそう言ってくれるけど、やっぱり自分たちの力で何とか出来るようにならないとね。
 まあ、そうは言っても、こうやって情報共有してアドバイスとかは貰いたいんだけど。




「それで、今回初めてまともに『魔族』の存在を確認したんだけど。まさか、あんなに組織だって動いてるものだとは思わなかったよ」

 今まで相対してきた『異界の魂』に憑依された者たちは、その殆どが理性を失って…その行動原理は衝動的なものに思えた。
 リッフェル領の事件のときのマクガレンも、元が人間だったから幾分かは理性的だったが、それでも妄執に突き動かされたその行動原理はおよそ人間の理解の及ぶところではなかった。


「あの地下神殿で相対した魔族たちは…それらの者たちとは一線を画す存在だった。黒神教と言う『組織』に属して…理性的に行動していた』

「そうね、あれこそが『魔族』という存在よ。かつてあなたが倒したマクガレンは、まだ成りたてだったから力も理性も他の魔物が憑依されたモノと大差無かったけど」

「…あれだって相当厄介だったけど」

「だけど、本質は同じよ。異界の魂に憑かれた者の行動原理の根底にあるのは、その個体の抱える妄執にあるの。どんなに理性的に見えようとも、それは変わらないはずよ」

「……それは、あのシェラさんも同じなの?」

「ええ。彼女も…あくまでも、その妄執に突き動かされて行動してるに過ぎないのよ…」

 その口振りは、少し悲しそうで…そして、どうもシェラさんの事を知っているような感じだ。

「リル姉さんは、彼女の事を知ってるの?」

「…そうね。知ってるわ。だけど…彼女から彼女自身の事をまだ何も聞いてないのよね?」

「う、うん。名前と、冒険者やってることと…他の魔族と敵対してることくらいだね、聞いたのは」

「そう…だったら、私から言うことは出来ないわ。私は彼女の意思を尊重したいから。でも、一つだけ…彼女はあなたの味方よ。信頼に足る事は私が保証するわ」

「そっか。彼女の事を聞けないのは残念だけど、敵じゃないって分かっただけでも嬉しいよ」

 彼女が本当に味方だと分かっただけでも嬉しいし、凄く心強い。
 今後、全面的に黒神教と敵対するのであれば、彼女の力は必要になるだろう。

 多分、彼女にとって私達はまだ味方するのに値しないのだろう。
 だったら…もっと力をつけなければいけない。
 前回の戦いでは、シギルの力をどうにか覚醒させて魔族の一人を倒すことができたが…まだまだ力が必要になるだろう。
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