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第十二幕 転生歌姫と謎のプリンセス
第十二幕 32 『手土産』
しおりを挟むアグレアス侯爵の意外な正体には驚いたが、彼の話はあくまでも話の流れの上での事だ。
ただ、仕えていたアルマ王家を滅ぼした帝国の皇族と親交を持った、という点が気にはなったけど……色々と複雑な事情が絡んでいるのだろう。
エフィメラさんは当時の経緯は分からないと言ったが、もしかしたらリシィ……シェラさんが知ってるのかもしれない。
「では、本題に入らせてもらいますね。とは言っても……これまでの話の流れで、私の願いについて大体は察せられたとは思いますが」
「……黒神教の打倒、ですか?」
「その通りです。もはやグラナ帝国は黒神教の思うがまま。このまま放置しておけば、やがてカルヴァードの国々にも再び侵攻を始めるのは火を見るよりも明らかです」
「既にその兆しはありましたね」
レーヴェラントとの国境付近に大規模な軍が展開されたのは、つい最近の事だ。
「ええ。あの時はカティア様のご活躍もあって、計画に綻びが生じたようですが……」
多分、あの時のグラナの計画としては、レーヴェラントが大規模な魔軍襲来に対処して疲弊したところで国境に待機していた軍勢が本格的に侵攻を開始……しかし、おそらく作戦の指揮官だったであろう『奇術師』が倒されたため、計画の変更を余儀なくされた。
そんなところだったのではないかと考えられている。
「そもそもなんですが、なぜ黒神教はカルヴァード大陸に侵攻しようとするのです?」
「……私も詳しい事は分からないのですが、彼らの目的……と言うか、教義の一つは『人類の進化』を目指すと言うものです」
人類の進化……?
それって、まさか……
「もしかして、進化したその先の姿が『魔族』……とか?」
「はい。彼らはそのように考えてるようです。人が魔族になるには、『黒き魂』をその身に取り込む必要があります。そして、その『黒き魂』こそがカルヴァードに侵攻する理由のようなのです。それが、どう結び付いた結果なのか、までは分からないのですが……」
黒き魂がカルヴァードに侵攻する理由?
それはいったい……
いや、以前地脈の守護者に聞いた話……『異界の魂』がこの世界に迷い込む要因の一つは、地脈の流れが乱れ【界】が曖昧になる事。
そして、その上で地脈の流れが滞り【陰】の気を帯びると、異界に通じる『扉』が開きやすくなる、と。
【陰】の気を帯びる、とは……生きとし生けるものの負の想念に染まると言うこと。
負の想念……もし、大きな戦争が勃発して世が乱れれば、人々の嘆き、悲しみ、怒り……そういった負の感情は計り知れないものになるだろう。
そのようなことを、エフィメラさんに伝えると、彼女は合点がいった様子である。
「なるほど……確かに黒神教の狙いと合致しているように思えます。何としてもその野望は阻止しければ……」
「既にカルヴァードの各国は協力体制にあります。ただ……これまではグラナの情報に乏しく、有効な手立てが取れないでいたのです。エフィメラ様、どうか我々に力をお貸しください」
「もちろんです。そのためにこうしてカティア様と話ができる場を設けたのですから……。いきなり王城に行って話をしようとしても信じてもらえるとは思えなかったのですが、ガエルからあなたの人となりを聞いて……この方なら、と思ったのですよ」
ガエル君から?
……いったいどんな話をしたのだろうか?
非常に気になる……
後で聞いてみよう。
「分かりました。私の方から国王に話を伝えて、正式に協力体制が取れるように場を整えてもらいましょう」
「ありがとうございます。では、信頼を得るための手土産、と言ってはなんですが……一つ有用な情報をお伝えしましょう」
「情報?……確かに、父様や親しい者たちならともかく、他の者には何らかの材料があれば説得しやすいですね」
グラナの皇女が協力したいと願い出ている……と言っても疑う者も多いだろうから。
私がいくら「信頼できる人だ」なんて言っても……まぁ、ある程度は信用してくれるとは思うけど、何も無いよりは納得できるだろう。
「それで、その情報とは?」
「ある組織の情報です。以前より、カティア様を始めとした印を持つ王族の方が狙われていたでしょう?」
「!……ええ。レーヴェラントの情報によれば、それは『黒爪』という暗殺集団だと言うことまでは掴んでましたが……」
今もレーヴェラントでは捜査が行われているらしいけど、どうやら拠点を移したらしく成果が上がっていないと聞いた。
「そこまでは掴んでるのですね。流石です」
「でも、それ以上は行き詰まっているのが現状です」
「でしたら、こちらの情報はお役に立てそうです。『黒爪』の現在の拠点……それは、ここアクサレナにあります。証拠も抑えておりますので、今が壊滅させるチャンスです」
「ええ!?」
それが事実なら……いくらレーヴェラントで捜査しても進展するはずがない。
……手土産どころの話ではないね。
そうして、私はエフィメラさんが語る詳細な話に耳を傾けるのであった。
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