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第十二幕 転生歌姫と謎のプリンセス

第十二幕 51 『堕天使』

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ーーーー 学園 某所 ーーーー

「そっか~、シェラさんはカティアが言ってた魔族の人だったんだ~」

「私を……魔族を怖いとは思わないのですか?」

 メリエルが発見した、倒れていた人物はシェラだった。
 先程までは意識が朦朧としていた様子だったが、今はすっかり目が覚めたようだ。
 しかし本調子には程遠く、メリエルに支えられながら歩いている。


「怖くないよ。シェラさんは良い人だって私のカンが言ってるし!」

「勘…ですか」

「よく当たるよ」

 その勘の良さで迷子は何とかならないものだろうか……

 やや面食らったようなシェラだったが、無邪気なメリエルの様子に思わず笑みがこぼれる。
 そして、何となく……頭を撫でる。

「えへへ~」

 嬉しそうに目を細める彼女を見て……シェラは懐かしい想いが込み上げてくるのを感じた。

(あぁ……こうやってあの娘の事も……)

 今となっては遥か昔……もう戻らない日々。
 幸せだった時間。
 人外と成り果てた今でも……いや、だからこそ、はっきりと思い出すことが出来る。

(失われた日々は取り戻せない。だから、せめて止めなければ)

 シェラは、改めてそう決意する。




「でも、シェラさん……本当に行くの?怪我は無いみたいだけど、辛そうだよ……?」

「心配かけてごめんなさい。でも、あの娘は私が止めないと」

「……分かったよ!」

 事情は分からないが、シェラの覚悟の程を察したメリエルはそれ以上は聞かないことにした。

「……でも、私だと迷子になるから案内はお願いします」

 ……向かうべき場所以外は。


 もうここからでも遠目に戦ってる様子が分かるんだけど……シェラはそう思ったが、あえて口にすることはなかった。


ーーーーーーーー

 















 滅魔の光……リル姉さんのシギルの力は、元々は肉体を持たない『異界の魂』には絶大な威力を誇っていた。

 しかし、肉体には全くダメージを与えられないので、魔族のように完全に肉体と融合している相手には効果が薄い、あるいは全く効かなかった。
 だから、あの『獣騎士』と闘ったとき……肉体と魂の双方同時にダメージを与えるために、私は無意識でディザール様のシギルを併用して『滅魔の刃』を編み出したのだ。

 先程までの『黒魔巨兵』も、肉体と『異界の魂』が完全に融合していた。
 だけど、あれ程の巨体だったから……いかに滅魔の刃でも、多分一撃で倒すことは出来なかったと思う。
 故に、ここぞという場面まで温存するため、今まで支援に徹していた。


 あの異形の巨大蜘蛛は、さらに巨大化して絶大な力を持っているのをひしひしと感じるが……
 その肉体は形を留めるための外殻に過ぎず、そこに内包される純粋な『魔』こそが本体。
 言わば、突けば弾け飛ぶ風船のようなもの。
 私にはそれが分かる。



(……アリシアさん、[絶唱]の支援は任せるね)


 私はずっと歌っていた歌を止め、リヴェラを構えて巨大蜘蛛と対峙する。
 ヤツは無数に生えた脚をワシャワシャと動かしてこちらに襲いかかってくる。



「テオ」

「任せろ」


 たった一言名前を呼んだだけで、彼は私の意図を察してくれる。
 こころが繋がっている。



 そしてテオは聖剣グラルヴァルを構え……襲いかかってきた蜘蛛の脚を躱しざまの一閃!!

 すると、蜘蛛の体はその部分から大きく裂けて、ブワッ!と『闇』が勢いよく噴出する!!

 まともにそれを浴びればたちまち魂を喰われてしまうだろう。

 だけど……

 私は意識して滅魔の光をコントロールして、闇を取り囲むように集めていく。

 金銀の星の光は闇を塗り潰し、巨大蜘蛛の身体はボロボロと崩れ去っていく。

 そして、ついには尽く光の中に溶けて消えてしまうのだった。







「よし!!魔物は全て倒したぞ!!」

「後はテメェだけだぜ!!」


 強大な力を持った敵を打倒したことで、皆の士気は相当に高まっている。

 しかし最後に残った『調律師』は魔族だ。
 これまでと同じくらい……いや、これまで以上の激戦が予想される。
 その力は未知数だけど、これまで戦ってきた魔族たちの力からすれば、一筋縄では行かないのは間違いないだろう。

 士気は高いもののここまでの戦いで皆疲弊してるはず。
 何とか力を振り絞って討ち果たさなければならない。




 と、思っていたのだが……



「見事ですね、想像以上に皆さんお強い。これは仕切り直さないとですね」

 また逃げる気か!?

「ここまで好き放題しておいて逃げられると思うなよ!!」

「逃さないよ!!この前の仕返し、絶対にするんだから!!」

 あ、ミーティアは特にやる気満々になる理由があったね。
 結果的には母娘の絆が深まったとは言え、魔族の手先にさせらそうになったんだから……



「逃げる?……勘違いしてもらっては困りますね。『仕切り直し』と言ったのは黒魔巨兵の生産に関してですよ。今回の戦いの結果を元に問題点を洗い出して解決せねば……と言う事です」

「何っ!?」

 生産……まるで、兵器のような言い草だね。
 本当に、人の命を何だと思ってるのか……!!


「やはりあなた達は危険です。この場で私が始末をつけて、後顧の憂いを断っておかなければなりません」


 調律師の雰囲気が変わる!

 3対6枚の漆黒の翼が更に大きくなり、圧倒的なプレッシャーを放つ!


 以前、シェラさんの事を『堕天使』なんて呼んでたけど……調律師の今の姿こそ、まさにそう呼ぶに相応しい異彩を放っていた。

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