472 / 683
第十二幕 転生歌姫と謎のプリンセス
第十二幕 55 『激戦の果て』
しおりを挟む調律師が去った事で、王都を舞台にした激戦の幕は降りた。
だが、勝利したと言う実感は湧いてこない。
それは皆同じ思いだろう。
成果はある。
当初の目的であった、暗殺組織『黒爪』の壊滅は果たす事が出来たのは大きい。
しかし……
「結局……今回も実験台にされた訳か」
テオが苦虫を噛み潰したような表情で呟く。
彼の言う通りだ。
今回の『黒魔巨兵』は黒神教にとっては大きな成果だったはず。
そして、これまで直接戦闘を避けていた調律師が、今回は自ら積極的に戦いに身を投じた……それの意味するところは?
……考えたくは無いが、おそらくは大きな戦いが近いのかもしれない。
それは皆も何となく感じているのだろうか、暗鬱たる空気がその場を支配する。
しかし、それも長くは続かなかった。
「あっ!?シェラさん!!しっかりして!!」
沈黙を破って声を上げたのはメリエルちゃんだった。
そちらを見れば、シェラさんが力尽きたかのように倒れそうになり、それを何とかメリエルちゃんが支えようとしていた。
私は慌てて彼女たちのもとへ駆け寄るのだった。
「シェラさん!!しっかりして下さい!!」
メリエルちゃんに代わってシェラさんを抱き抱えながら声をかけるが、目を薄っすらと開けた彼女の意識は朦朧としているようだ。
外傷があるようには見えないけど、調律師との戦いで相当なダメージを負ったのだろうか……
「うぅ……リディ…ア?」
「!!」
……リディア?
私を彼女と見間違えてるの?
「ごめんなさい……リディア……まだ、貴女との約束……果たせていない……」
「約束……?」
もしかして、それが彼女の妄執なのだろうか?
しかし、それで力尽きてしまったのか……シェラさんは目を閉じて気を失ってしまった。
「リシェラネイア様!!?」
私と同じく、シェラさんを心配して駆けつけたエフィメラさんが悲痛な声を上げる。
「大丈夫、気絶しただけみたいです。こんな状態になってまで……無理を押して調律師を止めようとしてくれたんですね……」
「……お優しい方ですから」
そうだね……この人は優しい。
それが逆に悲しいと思ってしまうのは……きっと、彼女がその優しさ故に苦難の道を歩んできた事が想像出来てしまうからだろう。
「カティアよ」
「あ、父様…」
私達がシェラさんを介抱していると、気遣わしげに父様が声をかけてきた。
父さんたちエーデルワイスの面々や、リュシアンさん、ルシェーラ、シフィル、ステラ、ミーティア(+ミロン)も集まってきた
「一先ずはご苦労だった。あれだけの激戦にも関わらず……重傷者は出たものの死者の報告は上がってない。お前の[絶唱]のお陰だ」
「何よりです。私だけでなく……皆が死力を尽くしたからこそです」
これまでの戦いでもそう思ったけど、今回は特にそれを実感した。
皆の加勢が無かったら、きっとこうして生き残ってはいなかったはずだ。
「それに、[絶唱]と言うなら……アリシアさんもですね」
「あれには驚きましたわ」
「アリシアにあんな才能があったなんてね……」
「お前たちの同級生だったな。彼女やお前たち以外も……若者たちの何と頼もしいことよ」
父様が目を向けたその先には、敵を退けて大はしゃぎしている学園生たちの姿が。
そんな彼らを見て、眩しそうに目を細め微笑みながら父様は言う。
「だが……願わくば、彼らが戦いに身を投じるような事態は避けたいところだ」
「……はい」
「だが、中々ホネがあっていいと思うぞ。腕っぷしと根性がある奴には是非とも劇団に入団してもらいてぇもんだ」
「え?審査基準ソコなの?」
もう普通に演技力とかで取ろうよ。
「ところで……カティアよ、そちらの女性を紹介してくれんか?」
「あ、そうですね」
遠慮していたのか、私達が話をする輪から少し離れていたエフィメラさん。
ちょうど彼女もこちらに話しかけるタイミングを伺っていたみたい。
「こちらはエフィメラ様です。え~と……」
そこで言葉に詰まってしまう。
この場でグラナのお姫様と紹介して良いものか、と思ったのだ。
私が言い淀んでいると、当の本人が……
「お初にお目にかかります、ユリウス陛下。私はエフィメラ=リゼラ=フロル=グラナと申します」
グラナ…と言う名乗りに、周囲からざわめきが起こる。
それも当然のことだろうけど……あからさまな敵意の目は感じられなかったので、取り敢えずはホッとする。
父様は戦闘中のやり取りから予想はしていただろうし、流石の王者の貫禄で平然と受け答える。
「エフィメラ姫、此度の助力……この場の皆を代表して感謝申し上げる」
直接父様が謝意を述べたのだから、あれこれ言うものはいないだろう。
少なくとも表向きは……
「それと、彼女は……」
地面に敷かれた外套の上に寝かされているシェラさんに目を向けて問う。
シェラさんの事は父様にも話していたので、彼女が何者かも察しはついてるだろう。
「はい。この人がシェラさんです。これまで何度も私達を助けてくれました。今回も……」
「うむ。彼女にも礼を言わねばならんが……今はとにかく、ゆっくり静養してもらわねばな。王城に部屋を用意させよう」
「エフィメラ様、それでよろしいですか?」
一応、シェラさんの縁者とも言えるエフィメラさんに確認を取る。
「はい。どうか、リシェラネイア様のこと……よろしくお願いいたします」
「はい。容態が回復しましたら連絡しますね」
「あとは、エフィメラ姫との会談の場も急ぎ設ける必要があるが……それもシェラ殿が目を覚ましてからか」
それもそうだね……
もともとエフィメラさんとの会談は準備しようとしていたところだ。
シェラさんにも色々話が聞きたいし、彼女が目を覚ましてからの方が良いだろう。
10
あなたにおすすめの小説
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
神々に見捨てられし者、自力で最強へ
九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。
「天職なし。最高じゃないか」
しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。
天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者
哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。
何も成し遂げることなく35年……
ついに前世の年齢を超えた。
※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。
※この小説は他サイトにも投稿しています。
異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。
日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。
両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日――
「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」
女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。
目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。
作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。
けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。
――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。
誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。
そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。
ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。
癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる