496 / 683
第十三幕 転生歌姫と生命神の祈り
第十三幕 19 『知られざる英雄』
しおりを挟むたとえ敵国の皇女であっても、エフィが信頼の置ける人物であるということは、父様の言質を以て納得をしてもらった。
これで一先ずは会議をスムーズに進めることが出来るようになるだろう。
……仮に、まだ疑念が残っている人がいたとしても、この場で異を唱える事は中々出来るものではないかも知れないけど。
そう、思ったのだが……
「私も発言よろしいだろうか」
円卓に座る代表者の一人が声を上げる。
確かこの人は……シャスラハの全権大使、アルド大公だ。
かなり年配の方で、恰幅が良く白髪に豊かな髭をたくわえる。
一見して柔和な雰囲気だが眼光は鋭く、流石に一国の代表を務めるだけの雰囲気を感じる。
発言の求めに父様が応じると、大公は新たな疑念を口にする。
「グラナの皇女であるエフィメラ殿が信の置ける人物であることは理解した。だが、この場にはもう一方、説明が必要な人物がいるのではないかね?」
と言って、シェラさんの方を一瞥する。
まぁ、彼女もグラナの皇女なのは同じなんだけど、それ以上に……
今回の会談を調整するにあたっては、シェラさんの事は『黒神教と対立している魔族』と言う情報が共有されている。
グラナの皇女であった事は特に知らせてはいないはずだけど、エフィと並ぶと血縁関係があることは何となく分かるかもしれない。
しかし、大公が説明を求めているのは彼女が魔族である点についてだろう。
すると、父様が私に目配せしてきた。
ここは私の出番か。
「彼女の事については私から。……先ず、信頼が置ける人物である、という点についてはエフィメラ様と同様に私が保証いたします」
「……ふむ。しかし、エフィメラ皇女と違い、彼女は……『魔族』だ。件の『異界の魂』や黒神教との関わりも深い。カティア様の事を信用しないわけではないが……不安を抱くものも多かろう」
その意見も尤もなものだろう。
議場の多くの人の反応も、先のエフィより疑念の目を向ける者が多いように感じる。
彼らを納得させ、不安を払拭するのは難しいかも知れない。
だけど……
「大公閣下の……皆様の疑念は尤もだと思います。ですが、我々は……いえ、このカルヴァードの地に暮らす誰もが、彼女に感謝しなくてはならないと私は思います」
「……どう言う事かな?」
「何故なら。300年前に魔王を倒した勇者テオフィールとリディア。彼らとともに戦ったのが他でもないこのシェラさんなのですから」
私が話した衝撃の事実に、会場から大きなどよめきが上がる。
大公もそれには驚いて、しかし完全には納得できずに尚も言い募る。
「なんと……しかし、それを証明することは……」
「私は、勇者たちの戦いの旅の場面を何度か夢で見ました。おそらくは、テオフィールかリディアのどちらかの印に刻まれた記憶なのか、あるいは……ですが、それを証明することはできません。しかし」
そこで私はある一点に視線を向ける。
すると、そこに居た人物はそれを察して、一つ頷いてから立ち上がった。
「お話中失礼します。私はエメリール神殿総本山の巫女頭であるティセラと申します。只今カティア様が仰られたシェラ様に関する事は全て事実です。エメリール様の御神託です」
こんな事もあろうかと、事前にリル姉さんにお願いしておいたのだ。
流石に総本山の巫女に降ろされた神託を信じられないなど、口が裂けても言うことは出来ないだろう。
「シェラさんはこの世界の平和を守るため、そしてグラナとカルヴァードの諸国に友好関係が結ばれるように、ずっと……一人で頑張ってこられました。私は……いえ、今この時、この地で生きる私達こそ、その重荷を分かち合わなければならないのです」
そう言い切ってからシェラさんを見ると、何だか驚いたような表情から嬉しそうに微笑んで……『ありがとう』と、声に出さずに呟いたのが分かった。
そしてアルド大公も、目を瞑って少し考える様子を見せてから、シェラさんに向き直って……
「……なるほど、よく分かりました。シェラ様、無礼な発言、申し訳なかった。そして、今この時、この地に住まう者の一人として……知られざる英雄であるあなたに感謝申し上げる」
そう、伝えるのだった。
『知られざる英雄』か……まさにその通りだ。
大公は良いことを言ってくれたね。
大公の言葉を受けて、会場から拍手が上がった。
疑念の目は敬意へと変わった。
これが、彼女の『ねがい』を叶えるための第一歩となればいいな……そう、私は思うのだった。
10
あなたにおすすめの小説
異世界で一番の紳士たれ!
だんぞう
ファンタジー
十五歳の誕生日をぼっちで過ごしていた利照はその夜、熱を出して布団にくるまり、目覚めると見知らぬ世界でリテルとして生きていた。
リテルの記憶を参照はできるものの、主観も思考も利照の側にあることに混乱しているさなか、幼馴染のケティが彼のベッドのすぐ隣へと座る。
リテルの記憶の中から彼女との約束を思いだし、戸惑いながらもケティと触れ合った直後、自身の身に降り掛かった災難のため、村人を助けるため、単身、魔女に会いに行くことにした彼は、魔女の館で興奮するほどの学びを体験する。
異世界で優しくされながらも感じる疎外感。命を脅かされる危険な出会い。どこかで元の世界とのつながりを感じながら、時には理不尽な禍に耐えながらも、自分の運命を切り拓いてゆく物語。
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者
哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。
何も成し遂げることなく35年……
ついに前世の年齢を超えた。
※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。
※この小説は他サイトにも投稿しています。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件
フランジュ
ファンタジー
地区最強のヤンキー・北条慎吾は死後、不思議な力で転生する。
だが転生先は底辺魔力の下級貴族だった!?
体も弱く、魔力も低いアルフィス・ハートルとして生まれ変わった北条慎吾は気合と根性で魔力差をひっくり返し、この世界で最強と言われる"火の王"に挑むため成長を遂げていく。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる