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第十四幕 転生歌姫と繋がる運命の輪

第十四幕 プロローグ 『戦後処理』

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 森都防衛戦から数日後、私はブレイグ将軍に面会を申し入れた。


 今回の戦いで捕虜となったグラナ兵は相当数に上る。
 当然、彼ら全員を収容できるような施設などなく、大樹広場にキャンプを設営して何とか凌いでいるような状況だ。
 幸いにも近隣の住人との大きなトラブル等は無く、グラナ兵たちも大人しく沙汰を待っている。

 侵略者に対する憎しみの感情が無いわけではないだろうが……リナ姉さんのお陰で最終的には犠牲が出なかった事と、グラナ兵すらも命を救われた事が負の感情を抑える結果となってるのだろう。

 しかし、いつまでも大樹広場に留め置くわけにもいかないだろう。
 ここ数日の間に行われた会議のいくつかには私も参加させてもらったのだけど、そのあたりの話も当然議論された。

 そして結論としては……捕虜たちはいくつかのグループに分けて、ウィラーや周辺国の労働力として国家事業に従事してもらうというものだ。
 もちろん機密に触れないものに限る。

 この大陸には奴隷制度というものは無いが、自由が制限されるという意味ではそれに近いかもしれない。
 衣食住は保証されるし、労働環境もある程度配慮される。
 将来的に、グラナ帝国との問題が解決すれば帰郷することも出来るだろうし、待遇としてはこれ以上は望むべくもないだろう。

 因みに、イスパルでも捕虜を行き受ける事になったが……どうやら鉄道敷設関連の土木工事に動員するらしい。
 レティ……やるね!



 という事で、それらの事情を説明するためにブレイグ将軍が抑留されている騎士団詰所の拘置所にメリエルちゃんと一緒に向かっているところだ。
 拘置所といっても貴人用のものなので、不自由はあるだろうけど高待遇ではある。


「カティア、ごめんね。付き合わせちゃって」

 道すがらメリエルちゃんが申し訳無さそうに言う。

「何言ってるの、対グラナの問題はウィラーだけのものじゃないよ。だから会議にも出席させてもらったわけだし」

「うん……ありがとう。私って今まで割と自由にさせてもらってたけど……少しずつでも公務を覚えていかないとね。お姉ちゃんもまだ復帰できてないし、フォローしないと」

「……私も新米王女だからね、その気持ち分かるよ。お互い頑張ろうね」

「うん!取り敢えず今回の問題を片付けて、早く学園に戻りたいな。将来のための勉強も大切だからね。……欠席が祟って落第なんてしたくないよ。私はカティアと違って成績優秀じゃないから……」

「だ、大丈夫だよ」

 今度は情けない顔をして言うメリエルちゃんを慰める。

 でも……彼女は別に頭が悪いわけじゃないし、十分取り戻せるとは思うよ。
 と言うか、むしろ最近は成長著しいし、そんなに心配は要らないんじゃないかな。

 







 そして私達はブレイグ将軍が居る拘置所へとやって来た。
 ここには彼の他にも上級士官の何人かが収容されている。


 見張りの兵に鍵を開けてもらい、扉をノックしてから部屋の中に入る。
 貴人向けと言うだけあって、部屋はそこそこの広さがあり、居心地は悪くは無さそうだ。

 私達が中に入ると、ソファに座っていたブレイグ将軍が立ち上がって迎えてくれた。


「ブレイグ将軍、こんにちは。お加減は如何ですか?」

 私との戦いで大きなダメージを負った上に、薬師の策略によって一度は異形へと変じてた彼だったが……リナ姉さんのお陰で特に体調は問題ないようだ。


「カティア殿、よくぞいらしてくれた。それにそちらは……」

「はじめまして。私はウィラーの第二王女、メリエルです」

「お初にお目にかかります。私はブレイグと申します。侵略者である我らに過大な配慮を頂き、心より感謝申し上げます」

 頭を下げながら丁寧な口調で礼を述べるブレイグ将軍。
 戦闘のときの荒々しさは鳴りを潜め、今は穏やかで落ち着いた雰囲気だ。
 そうしていると歴戦の戦士というよりは、威厳のある貴族のように見える。



「あなた方が来られたということは……我らの処遇が決まりましたかな?」

「はい。それを伝えに参りました」

 そしてメリエルちゃんが捕虜たちに対する処遇について説明をする。
 彼がどういう結果を想像していたかは分からないけど、多分それよりは悪くない話だとは思う。

 黙って説明を聞いていたブレイグ将軍は、メリエルちゃんの話が終わると思案する様子を見せる。
 そして……


「寛大な裁定を頂き、ありがとうございます。全てのグラナ兵を代表して感謝申し上げます」

 再び頭を深々と下げて礼を言う。


「ブレイグ将軍。今回の処遇は将来的に禍根を残さないためのものです。幸いにもエメリナ様のお力により、双方に犠牲者が出なかったからこその処遇でしょう」

「承知しております。私や上級士官は処刑されても文句は言えないと思ってましたから」

 被害が甚大なら当然そうなってただろうし、今回だってそう主張する人も多くいた。
 だけど、真の敵は黒神教である事がサミットでも認定されていたし、ブレイグ将軍から聞いた話では今回の侵攻はグラナ皇帝の意志によるものではない……少なくとも直接の指示は無かったということから、最終的に今回の結論に至ったのだ。


 さて、取り敢えずここに来た目的は果たしたが……私から彼にもう少し話すことがある。


「ブレイグ将軍。あなたはエフィメラ様をご存知ですか?」

「!?エフィメラ様、ですと……何故その名を?」

 やはり、知っているか。
 かなり地位の高い人物だと思われたし、皇帝と直接の面識があるような口ぶりだったので、きっとエフィの事も知っているだろうと思った。


「彼女は現在、我がイスパルに亡命しています」

 私はその事実を伝える。
 ブレイグ将軍は驚きをあらわにするが、直ぐに納得したかのように言う。

「そうですか……やはり、そういう事だったのか」

「やはり、とは?」

「エフィメラ皇女は数年前に急病で亡くなったと我々は聞かされていた。だが、私を始めとして多くの者はそれを不審に思っていました」

「エフィは……彼女たち皇族はカルヴァード大陸の国々とは和平を望んでいると言ってます。皇帝陛下も同じ考えだった、と」

「…………」

 私の話にブレイグ将軍は暫し瞑目する。
 彼が忠誠を誓った皇帝は戦いなど望んでいなかった。
 それを聞かされた彼の心情はいかなるものか?

 暫く考えた後、彼は口を開いて言う。


「今回の戦は……我々は黒神教に騙されていた、という事か。……いや、それは薄々は分かっていた事だ。結局の所それも言い訳に過ぎないな」

 彼が皇帝に近しい立場だったのなら、確信には至らずとも疑念は抱いていたのだろう。
 そして、疑念を晴らすことなく黒神教の手先となって戦いに身を投じたことをきっと後悔してる……
 彼の苦悩の表情から、それが読み取れた。


「将軍、今回の結末ならば……まだ過ちは取り戻せると思います」

「……エフィメラ様の刃になれ、と?」

「私の一存では決められませんけど、あなたもそうしたいのではないですか?」

「それが叶うことならば」

「なら、私から口添えはします。希望に添えるかはまだお約束出来ませんけど」

「私も!!お父さんは説得するよ!」


 彼ほどの有能な指揮官兼戦士が仲間になるのなら、非常に心強い。
 なんせ父様とも互角にやりあったと言うのだから。
 私自身も彼と戦って、その強さは骨身に染みている。

 祖国に刃を向けるのは複雑な心境だろうけど……是非とも彼には力を貸してほしいと思うのだった。
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