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第十五幕 転生歌姫の最終決戦
第十五幕 30 『闇の神殿』
しおりを挟む大地に刻まれた傷跡の、深い深い谷底に降りた私達。
辿ってきた道を振り返れば、そこには断崖絶壁がそびえ立つ。
上空を見上げれば、暗い雲が谷に蓋をするように厚く垂れ込めていた。
「ふわぁ……よくこんな所を降りてきたね」
私と同じように、断崖の上の方を見上げていたメリエルちゃんが、感嘆の声を上げた。
「本当に……道中、足を踏み外さないかヒヤヒヤしましたわ」
豪胆なルシェーラも流石にあの高さは怖かったみたいだね。
私もちょっとヒヤッとしたよ。
「もし落ちても、私が風魔法で助けてたから大丈夫よ」
「ミーティアも!」
シフィルとミーティアは空を飛べるから。
いざというときは頼もしい。
「ロランさん。『黒き神の神殿』は、あとどれくらいでしょうか?」
テオが残りの行程について、ロランさんに確認する。
占星術師と戦ったところからそれほど離れていないと言っていたし、もうそろそろ目的地は近いと思うのだけど……
「ここからだと、あと数kmと言ったところですね」
ふむ、もうすぐだね。
それにしても、ロランさんはテオに対しても丁寧な口調なんだね。
私の婚約者だからかな……?
ともかく、最終決戦の時は近い。
邪神の波動は益々強く感じられ、息苦しさを覚えるほどだ。
そこからは皆、殆ど言葉を発することもなく黙々と歩き始めた。
谷底には川の流れなどもなく、乾いた砂を踏みしめる音がやけに鳴り響いていた。
体感では4~5kmほど歩いただろうか?
ついに私達は、そこに辿り着いた。
かつて、聖域のリュートは言った。
『それは正しく神殿だった。そんな谷底にあるのだから、おそらく隠されていたんだと思うけど……実際に目の前にすれば、そうとは思えないほどに巨大で、荘厳で……そして禍々しい雰囲気を醸し出していた。漆黒のそれは全く陽の光を返さず、まるでそこだけ『闇』が蟠っているかのようだった』
……と。
私達の目の前にあるそれは、まさにリュートの言葉から想像していたものと相違なかった。
「なんて美しい……そしてそれ以上に、なんて禍々しい……」
ルシェーラが魅入られたように呟きを漏らす。
彼女の言う通りだ。
『黒き神の神殿』は魅入るほどに美しく、禍々しかった。
断崖の一面に築かれたその神殿は、カルヴァードで見たどんな建物よりも巨大で……エメリール神殿総本山ですら小さく感じてしまうほど。
そして、漆黒と言う言葉すら足りないくらいに、如何なる黒よりも暗い黒。
それは石材なのか、金属なのか……謎の建材で作られている。
入口には巨大な柱がいくつもの立ち並び、その先は更に濃い闇が支配して見通すことができない。
それは、生あるものを拒絶するかのような……根源的な恐怖心を呼び覚ますもの。
だけど、ここまで来て引き返すなんて選択はあり得ない。
勇気を振り絞って前に進むんだ。
「いよいよだよ……。皆、準備は良い?」
私は、自らを奮い立たせる意図も兼ねて、みんなに声をかける。
「ああ。いよいよだな……(例え何があっても、カティアとミーティアは俺が護る)」
「頑張って魔王と邪神をやっつけるの!」
「腕が鳴りますわね!!」
「ちゃちゃっと片付けちゃいましょうか!」
「全力で行くよ!!」
「ええ。でも、慎重に行きましょう……!」
うん、みんなやる気だね!
そして、かつてここで魔王と戦ったシェラさんたちは……
「こうして再びここに来るなんてね……今度は自分の意志で。お父様……今度こそ全ての決着をこの手で付けてやるわ!」
「気負いすぎるなよ、リシィ。だが、気合は入れてこうぜ!!」
色々な想いが渦巻いてると思うけど、シェラさんの表情に迷いは見られない。
そしてロランさんも気合十分だ。
さあ……最後の決戦だ!!
「行こう、みんな!!」
「「「おーっ!!」」」
そして私達は、神殿の暗闇の中へと足を踏み入れる。
今こそ全ての決着を付ける時!!!
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