655 / 670
後日談1 サマーバケーション
サマーバケーション(5)
しおりを挟むさて。
急遽開催された水泳対決は、地元の星フローラさんの勝利で幕を閉じた。
そして今、参加者全員がゴールとなった岩門のある岩場……というより規模的には小島とも呼べるような場所に上陸している。
「遠くから見た時はただの岩礁かと思ったけど……結構大きかったんだね」
「そうだな。この『門』も相当な大きさがあるぞ」
テオの言う通り、岩門は見上げるような大きさがある。
数階建ての建物がすっぽり収まってしまうくらい。
「しっかし……なんだか凄え場所っすね」
「そうですわね……フローラさん、ここには何か謂れがあるのでしょうか?」
フリードの呟きに頷きながら、ルシェーラがそんな質問をする。
確かに、なにか曰く有りげな場所って感じがするよ。
そしてフローラさんが頷いて答える。
「はい。確かに、この場所にはある言い伝えがありますね」
ほうほう。
やっぱりそう言うのがあるんだね。
海の神様や精霊を祀ってるとか、巫女が荒ぶる海を鎮めるためにその身を犠牲にしたとか……そんなありがちな話を想像したんだけど。
「伝説によると……あのアスティカントの祖である賢者様が、何か重要な秘密をここに隠した、とか」
……………
フローラさん以外の皆の視線が私に集まる。
まあ、そうなるよね……
でも、賢者リュートと【俺】は元は一つの魂でも、もはや別人だから。
わたしがこの世界に来てからの記憶を持っていないのは、たぶん魂が分離したことによる影響だろう。
私は皆の視線に苦笑を返してから、その反応に戸惑いの表情を浮かべていたフローラさんに話の続きを聞いてみる。
「その秘密ってどういうものなの?もしかして、ラズレー家に代々伝わってるとか?」
「あ、いえ。うちは祖父の代で爵位を賜って……貴族家としてはまだまだ新興ですから。ただ、この地域に古くから伝わっている話で、私も子供の頃に一緒に遊んだ友達から聞いたんです」
なるほど。
フローラさんって貴族にありがちな高慢さとは無縁だから、平民に混じって遊んでたとしても違和感ないかも。
「それで、その伝承なんですが……ここに何かを隠した、というのは伝わってるのですが、それが具体的に何なのかまでは分かってないそうです。噂を聞きつけた学者さんが調査に来たこともあるらしいのですが、何かが見つかったと言う話は聞いたことがないですね」
「そっか……まあ、ただの伝説かもね」
実際、彼は色々と後世に遺しているけど、伝承の全てが必ずしも事実とは言えないだろうし。
しかし。
「はい。……ただ、伝承によると賢者様はこんな言葉を遺されたそうです。『私の望みを叶えてくれた者のために、ここに報奨を遺す。鍵はダンキチが持つ』……と」
!?
私は思わずテオやルシェーラ、ケイトリンと顔を見合わせる。
「『ダンキチ』って……」
「彼……の事ですわよね?」
「ですよねぇ」
「賢者繋がりなら間違いないだろうな」
かつて賢者の足跡を追って辿り着いた、アクサレナダンジョンの最深部。
そこで出会った迷宮管理者のダンキチのことに間違いないだろう。
「リュートの『望み』と言えば……魔王や邪神を何とかする事だったはず」
「でしたら……カティア様たちには、その資格があるという事でしょうね」
リュシアンさんの言う通りかもしれない。
リュートの遺したご褒美……めっちゃ気になる!
だけど……
「まぁ、でも……暫くはお預けかな?アクサレナダンジョンに行ってダンキチに会って、『鍵』とやらを手に入れてから、またここに来る……って事だもんね。そうそう気軽にここまで来れるわけじゃないしねぇ……」
「でも、気になりますわ」
「確かにね。でも、焦らなくても私達以外には関係ない話だろうし、気長にいきましょ。フローラさん、また来年お世話になるかも?」
「は、はい。ぜひ来年もお越しください!」
ちょっと図々しいお願いしちゃったかも知れないけど、むしろ喜んでくれてるし……
まあ、いっか。
「じゃあ、レティたちが心配するから、そろそろ戻りましょうか」
「……そうか。帰りも同じくらい泳がなきゃいけねぇのか……」
フリードがゲンナリして呟いてるけど、何を当たり前のことを。
「ほらほら、ステラにいいトコ見せるんでしょ?帰りも競争だよ!」
「マジっすか……いや、姫サンの言う通りっすね!待っててくださいステラさん!今度こそ俺っちの勝利をあなたに捧げます!!」
「私だって!カティア!今度は魔法解禁で!風魔法でジェット泳法よ!」
「シフィルさん、ズルいですわよ!でしたら私も『氣』を使って……!」
まったく、二人とも負けず嫌いなんだから……
と言うか、『氣』をどう使うつもりなの?
それで結局シフィルたちに押し切られ、帰りは『何でもあり!』ルールで勝負することに。
そうやって、私達は浜辺に戻ったんだけど……
ゴールの際にちょっとした(?)騒ぎになったのは言うまでもない。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
323
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる