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後日談3 学園祭狂詩曲〈ラプソディー〉
メイド・執事喫茶にて
しおりを挟む「「「お帰りなさいませ、ご主人様!」」」
メイド服を着た少女たちが一斉にお辞儀をしながら元気な声で来客を迎えた。
1年1組のメイド・執事喫茶『1組』での一幕だ。
(……やっぱりこれ、慣れないね)
(そだね……)
カティアとレティシアが囁きあう。
一応は他のクラスメイトに合わせてはいるものの、二人は未だ抵抗がある様子。
(なんかさぁ……それっぽい衣装着て接客するくらい、別にどうって事ない……って思ってたんだけどさ)
(だねぇ……私たちは前世のメイド喫茶のイメージがあるからね。別にもうそんなの気にならないと思ってたけど……どうしてもアレが頭に浮かんでキツかったわ)
(まあ、まだ変なおまじないとかやらないだけマシか……)
(『おいしくな~れ!』なんてやらされた日には憤死ものだよ)
もう二人とも自意識的には完全に女なのだが、前世の記憶からの抵抗感が思ったよりもあったようだ。
ともあれ、そうは言いつつも彼女たちは仕事をしっかりと果たしている。
その甲斐もあって……と言うわけではないだろうが、喫茶店と化した教室は満席になるほどの賑わいを見せ、廊下には入店待ちの行列も出来ていた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「執事さ~ん、注文お願いしま~す!」
三人組の少女たちが手を挙げて店員を呼ぶと、執事服を着たフリードがオーダーを取りに向かう。
「お帰りなさいませお嬢様方。ご注文、お伺い致します」
少女たちのテーブルに着くと一礼してから注文を聞くフリードは、普段のイメージとは異なる落ち着いた物腰だ。
クラスメイト……特に女子からはチャラい男と認識されているが、それさえ無ければ爽やかなイケメンに見えるので、普段の彼を知らない少女たちはうっとりとしていた。
「ご注文ありがとうございます。ロイヤルミルクティーがお二つに、アイスカフェオレがお一つ、承りました。それでは……」
「あ、あの!」
オーダーを聞いて下がろうとした執事を少女の一人が引き止める。
怪訝な表情となった彼に、少女たちは意を決して言った。
「あの、私たちプレナ女学院から来てて……」
「来月はウチも学園祭なんです!」
「良かったらぜひ遊びに来てください!これ招待状です!」
その彼女たちの言葉に合点がいったフリードは、柔らかな笑みを浮かべて応える。
「お嬢様方にご招待頂けるとは、まことに光栄の至りでございます。鉄道開通のおかげで、いまやプレナの街もずいずん近くなりましたからね。機会があればお伺いしますね」
「「「きゃ~っ!!」」」
…………………
…………
……
「だれ?アレ?」
「フリードくんだよ」
フリードと少女たちのやりとりの様子をバックヤードから見ていたカティアが誰ともなしに問いかけると、同じく店内を見ていたレティシアが分かりきった答えを返す。
「いや、それは分かってるけど。アイツ、妙にハマってるね……」
「だね~。うちの男子で人気なのは、彼とユーグ君かな?」
「ユーグがはまり役なのは想像できたけどね」
落ち着きがあり理知的な彼は、クラスメイト全員が納得するほどの適役だったが、180度キャラが異なるフリードには誰もが驚いて目を丸くしていた。
「普段の彼はわざとおちゃらけてるところがあるから……根は真面目で優しい人なのよ」
フリードの恋人であるステラは、それこそが彼の本質だとフォローする。
彼女は、それが垣間見える場面を何度も見てきたから自信を持って断言した。
「お~、流石は彼女さんはカレシの事よく分かってるね~。いやぁ、お熱いことで」
「そ、そんな事は……でも、ちょっと……大丈夫かしら」
レティシアのからかいの言葉に顔を赤くした彼女だが、そのあと彼女の顔を浮かんだのは、少しばかりの嫉妬の色か。
「あれは社交辞令だから大丈夫だよ。それよりレティ、鉄道の効果がバッチリ出てるんじゃない?」
「うん、そうみたいだね。まだ本数はそれほどあるわけじゃないけど、プレナから気軽に遊びに来れるくらいにはなってるみたいで嬉しいよ」
カティアがふった話題に、レティシアは笑顔で答えた。
少女たちがやって来たというプレナという街は、鉄道開業以前は徒歩だと丸一日~二日はかかる距離だった。
それまでも、王都の近場の街と言うのが一般的な認識ではあったが、鉄道開業以後はその感覚も大きく変わりつつある。
さて、そうこうしているうちに。
注文を取ってきたフリードがバックヤードに戻ってきた。
「オーダー、ロイミ2、オレ1、よろしく」
「りょうか~い!」
担当スタッフに注文を伝えたあと、彼はカティアの方を見て言う。
「次、姫さん担当のお客さんが入って来るぜ。よろしくな」
「私担当?……ああ、なるほど。じゃ、行ってくるよ」
フリードに言われてから店内を見た彼女は、彼の言葉の意味をすぐに察して店に出ていった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「お帰りなさいませ皆様。どうぞごゆっくりとお寛ぎくださいませ」
マリーシャ仕込の洗練された所作で客を出迎えるカティア。
案内するのは、彼女がよく知る人物たち。
「おう、なかなか様になってんじゃねえか。なあ、カイト?」
「え、ええ……そうですね」
「ふむ、そういうコンセプトなのか」
「衣装も内装も凝ってるわね~」
「お姉ちゃん、似合ってるよ!」
ダードレイ、カイト、ティダ、アネッサ、リィナ……エーテルワイスの面々である。
「みんないらっしゃい。来てくれてありがとね」
普段通りの口調になったのは、身内に対する気恥ずかしさがあるからだろう。
それでも来てくれたのは嬉しかったので、彼女は赤くなりながらも笑顔でお礼を言った。
「途中までロウエンのヤツも一緒だったんだがな。先生に声かけられて、そっちに行っちまった」
「あ~、それはしょうがないね」
いまいちはっきりとはしてないが、その二人は恋人関係のようなもの……と思ってるので、カティアは納得した。
「じゃあこちらにどうぞ~。注文は決まってる?」
「酒は無えのか?」
「……あるわけないでしょ」
ダードレイの非常識な問にジト目でツッコむカティア。
「ここは酒場じゃないんだから。というか、学園祭の模擬店でお酒なんか出せないでしょ」
「そうか……まあ、たまにはお貴族様気分で紅茶でも飲んでみるか」
仕方がないといった風にダードレイが注文を決めると、他の面々も待ち時間の間に決めていたものを頼んでいく。
「俺は……東方緑茶を」
「俺はコーヒー。ブラックで」
「私はオレンジジュースで!」
「私は~まだ決まってなかったのよね~……どうしようかしら~……」
そう言ってメニューを見ながら、どれにしようかと悩むアネッサ。
ここ最近は臥せりがちだった彼女だが、今日は体調が良いらしい。
しかしカティアは身重の彼女を慮って、メニューの一部を指さして言う。
「姉さんはカフェイン良くないよね。じゃあさ、このウィラー産ブレンドハーブティーなんかどう?妊婦さんでも飲めるようにって、ステラがメニューに入れてくれたんだよ。クセがなくて飲みやすいし、サッパリしてるし身体にも良いんだって」
「あ、そんなのがあるのね~。だったら、それにするわ~」
「分かった。じゃあオーダー入れてくるから、ゆっくりしてってね」
そう言ってカティアはバックヤードに戻ろうとしたが、カイトが引き止めて彼女に聞く。
「カティア、午後は空いてるんだよな?」
「うん。もう少ししたら私とレティは当番交代するから……一緒に見て回ろうね」
「ああ、楽しみにしてるよ」
柔らかな笑みを浮かべカイトは言った。
そして、そんな二人のやり取りに、他の面々も優しい眼差しを向けるのだった。
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