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レティシア15歳 輝く未来へ

第113話 歌姫

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 開演の時間が近づく。

 楽屋でカティアとお喋りしているときに、国王夫妻もやってきたので、レティシアは二人とともに観客席……貴人用の特別席へと向かった。



 会場は既に多くの観客で満員御礼の状況。
 貴賓席に姿を表した国王夫妻の姿に気付いた一部の観客から、どよめきの声が上がる。


 貴賓席には既に、アンリとアデリーヌ、ルシェーラと彼女の父であるブレーゼン侯爵が座っていた。
 その他にも、レティシアも見覚えがある国家重鎮たちの姿が見られ、まさに錚々たる顔ぶれだ。

 ただ、兄リュシアンは警備の責任者のため、劇場にはいるらしいが姿は見えなかった。




 レティシアは貴賓席の人々に挨拶しながら、ルシェーラの隣に座る。

「ルシェーラちゃん、久しぶり!私もこれから王都暮らしだから、よろしくね」

「はい、こちらこそよろしくお願いしますわ」

 二人は笑顔で再会を喜び合い、それからお互いの近況を話し始めた。


 それから暫くすると、場内アナウンスが流れ……
 エーデルワイス歌劇団の王都初公演がついに始まった。









 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆








「いや、すごかったねぇ。私、演劇ってあまり見たことないんだけど……こんなに凄いなんて知らなかったよ」

 最初の演目である演劇が終わったあとも、レティシアは興奮さめやらぬ様子だ。
 彼女も貴族令嬢なので観劇自体は経験があるが、前世も今世もそれほど演劇には興味がなかった。

 しかし、今回のエーデルワイスの劇はストーリーも演出も演技も大変素晴らしく、彼女は開幕直後から舞台上に現れた世界に惹き込まれたのだ。

 劇の内容は、イスパル王国のかつての英雄であるリディア王女を題材にしたものだ。
 300年前に魔王を打倒した英雄姫の壮大な冒険譚、その序章の物語が……笑いあり、涙あり、戦闘ありの、見ごたえのある舞台へと仕立て上げられていた。


「ふふ、ダードレイ一座……エーデルワイスの劇は、何と言っても迫力が違いますからね」

 すでに何度か公演を見たことがあるルシェーラは、まるで我がことのように誇らしげに言う。
 自分のお気に入りが他の人にも認められるというのは、とても嬉しいものだろう。


「ホントだね。戦闘シーンなんて実戦そのものだし、演出も魔法をバンバン使ってさ……(というか、ほとんどは幻影の魔法だったみたいだけど、本物の攻撃魔法も混じっていたような……)」

 少し冷静になってくると、そのあたりが気にはなったが……誰も気にしてないので『そういうものか』と、彼女も納得しておくことにした。






 演劇の余韻も収まらず、まだ会場がざわめく中……次の演目がもうすぐ始まる旨のアナウンスが流れる。
 エーデルワイス歌劇団が誇るもう一つの目玉、稀代の歌姫カティアによる歌唱ショーの開幕だ。


「お、いよいよカティアの出番だね!こっちも楽しみだよ」

「レティシアさんは、カティアさんの歌は……」

「まだ聴いたことないんだ。前にウチに泊まってもらったときに、お願いすればよかったかも」

「でも、初めて聴くのであれば……このような大舞台の方が感動もひとしおだと思いますわ」

「それもそっか」

 噂で聞くカティアの歌声がどれほど素晴らしいものなのか……レティシアはわくわくしながら幕があがるのを待つ。


 そしてついに、カティアの王都デビューの時がやってくるのだった。




 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 舞台の幕が上がり始めるとすぐに、会場は水を打ったように静まり返る。

 そして……
 ステージ衣装に身を包んだ美しい少女が、照明に照らされながら舞台袖から現れた。
 反対側の舞台袖からも、彼女と良く似た小さな女の子と、先ほどの演劇のものらしき衣装を着てリュートを携えた男性が現れる。
 カティアとミーティア、カイトである。

 三人が舞台中央で合流し観客に向かって一礼すると、大きな拍手が巻き起こる。

 カティアとミーティアが手をつなぎ一歩前へ、カイトは少し後ろに下がって、リュートを構えた。

 拍手が鳴り止むのを少し待ってから……
 じゃらん……と、カイトがリュートを弾き始めた。


 そして伴奏に合わせ、カティアとミーティアも歌声を紡ぎ始める。

 するとその瞬間、会場の空気が一変した。
 彼女たちの歌が瞬く間に観客を魅了したのが、レティシアには手に取るように分かった。
 もちろん、彼女自身もその一人だ。


(……凄い。こんな歌があるなんて……ホントに凄いよ、カティア)

 心震わせる美しい歌声に、レティシアの目に涙が滲む。


 神に捧げる神聖な歌。
 恋の歌、愛の歌。
 楽しい歌、悲しい歌……


 表現力豊かに、感情のこもった歌が響き渡る。

 観客たちの誰もが時を忘れて、暫し歌声に酔いしれる。


 しかし、いつしか夢のような時間が過ぎ去り……

 人々の心の中に残響のような余韻を残し、歌姫の舞台の幕は降りるのだった。


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