ファンタスティック・ノイズ

O.T.I

文字の大きさ
5 / 14

しおりを挟む
「ど、どどど……ど、どうするの!?」

「どどどどどうしようか!?」

 スミカとレンヤがあたふたしながら言う。
 この二人がこんなふうになるなんて珍しい光景かもしれない。

 僕はその様子を見て、かえって冷静になることが出来た。

「二人とも落ち着いて。あまり大きな声を立てたら、ドラゴン起きちゃうよ」

 そんなふうに二人を諫めるくらいには。
 そして、僕は目の前に『でんっ!』と横たわって道を塞ぐ巨体を観察する。


 ……うん。
 紛うことなきドラゴンだね。
 ゲームや漫画なんかで出てくるイメージそのものだ。
 目を閉じて眠っているようだが、そのいびきは地鳴りのように辺りの空気を震わせていた。


「……ユウキって、けっこう肝が据わってるわよね」

「……だな」

 落ち着きを取り戻した二人がそう言うけど、三人が三人とも取り乱す訳にはいかないでしょ。


 とは言っても……さて、どうしようか?

 大して広くもない道を塞ぐどころか、その巨体は森の繁りにまではみ出して完全に通せんぼ状態だ。


「……こうなると、避けていくしかないけど」

「え~……この格好で藪の中に入ってくのぉ……?」


 僕たちは下校してから家には帰らず直接ここにやって来たので、まだ学校の制服のままだ。
 肌の露出が多いまま藪に分け入るとなると、細かな擦り傷切り傷も覚悟しないとならないだろう。
 スミカが渋るのも無理はない。
 僕だって御免被りたいところだ。

 こんな場所を彷徨う事になると分かっていたなら、相応の服に着替えたのだろうけど……そんな事、予想できるはずもない。


「とは言ってもな……こいつを起こすわけにもいかないし、この先に進むにはそうするしか……」

 と、レンヤが言いかけたところで、彼は何かに気がついたように言葉を切る。
 その違和感には僕もすぐに気がついた。

「あ、あれ……?い、いびきの音が……」

 あれほど周囲に響き渡っていた、ドラゴンのいびきの音が……いつのまにか止んでいる?


 ……僕たちは三人揃って、そ~……っと恐る恐る視線をドラゴンの方に向けた。

 すると。

 ……バッチリ目が合った。



 先程までは閉ざされていた瞼が開かれ、縦長の瞳孔をした金色の瞳がこちらをしっかりと見据えていた。


「「「起きたぁっ!!!???」」」


 流石に今度は僕も落ち着いてはいられなかった。


「どどどどどどうする!!??」

「にににににに逃げなきゃっ!!」

「どどどどどどこにっ!!??」


 三人ともパニックになって喚きながら右往左往する。

 とにかく落ち着いて行動しなければ……!
 と、何とか冷静になろうとした時。


『騒がしいわっぱどもだな。そんなに怖がらずとも、別にとって食いはせぬ』

「「「シャベッタァッッッ!!!???」」」


 再び大混乱。

 目の前のドラゴンから、確かに意味のある言葉が聞こえてきたのだ。


『何を驚いている。竜が喋るのは当たり前だろうに……ん?あぁ、そうか。お前たちは異界の者か』

「い、異界の者……?」


 まだ頭の中は混乱しているけど、言葉が通じる事が分かったのと、襲いかかって来る様子もないので、多少は冷静になる事ができた。


『何百年ぶりにか【道】が開いたのでな、古い友人に会いに行くところだったのだが……どうやら途中で眠りこけてしまったようだ』

「友人……?」

『うむ。この地の守護を司る龍神だ』
 
「龍神?……確か、千現神社には『千現雷火権現』と言う神様が祀られていて、それが龍神の姿だって伝承があるな……」

 流石はレンヤ。
 その手の話は得意だね。

 しかし、このドラゴンが会いに来たと言うのが、その龍神なんだろうか?
 と思っていると、当の彼 (?)がそれを肯定する。

『確かそんな名前だったような気がするな。長ったらしいから我は『ライカ』と呼んでいるが。ああ……我の名はゼアルと言う』

 ドラゴン……ゼアルさんが名を名乗ってくれたので、僕たちも自己紹介する。
 何とも不思議な感じだ……


 それにしても、千現神社に祀られてる龍神に会いに来たと言うことは……その龍神は実在するってこと?


「結構わたし達の町も、ファンタジーしてたのねぇ……」

「それは今更だね……さっきも目の当たりにしたばかりだし」

「それはともかく……すみませんが、そこを通してもらえませんか?」


 そうだった。
 もうかなり空は薄暗くなってきていてる。
 完全な暗闇になる前に、どうにかここを脱出したい。


『おお、そいつはすまなかったな。ちょっと待っていろ』

 そう言うと、ゼアルさんの巨体が眩い光に包まれる。
 そして、それはみるみるうちに縮んでいき……

 光が収まると、そこには赤髪赤眼の青年が立っていた。


 僕とスミカは、あまりにも不思議な光景に絶句するが、レンヤは感慨深げに呟く。

「ドラゴンが人型になるのはお約束だけど、実際に目にするとは……」

「これで通れるだろ。……俺もこの姿のまま進んだほうが良さそうだな」

 竜の姿のときより少し砕けた口調でゼアルさんは言う。
 確かにあの竜の姿まま神社まで行ったら、巫さんが腰を抜かすだろう。

 ……いや、もしかしたら彼女なら、それほど驚かないのかも知れないけど。


「お前たちは向こうに行くのか。……だいぶ空間が不安定になっているな。よし、お前たち、これを持ってけ」

 と言って彼が僕たちに手渡してきたのは……


「あ、これ……竜の鱗?ゼアルさんの?」

 深紅の金属光沢を持つそれは、先程までの竜形態の彼自身の物と思われた。


「おう。こうなると危険なヤツに遭遇する可能性もあるだろう。見たとこお前たちは戦闘とは無縁そうだが……ソイツを持っておけば雑魚は近寄ってこねえはずだ」

「ありがとうございます。……『無事カエル』よりはご利益がありそうな御守りだわ」

「巫さんに失礼だよ、スミカ」

 ……とは言ったものの、ちょっとだけ僕もそう思った。
 僕の手の中で宝石のように煌めくそれは、いかにも特別な力を持っているように感じられる。

 そうして竜の鱗をつぶさに観察している時、ふと視線を感じた。
 そちらを見ると、ゼアルさんと目が合う。
 彼は僕を不思議そうに見ていた。

「どうしました?僕が何か……?」

「あぁ……いや。お前さん……ユウキだったか?何となく知り合いに似てる、と思ってな……」

「知り合い?」

「雰囲気が少しだけな……。まあ、気にすんな。とにかく、気を付けて帰れよ」


 そう言うとゼアルさんは、神社の方に向かって道を歩き始める。
 僕に似ている人というのは気になるけど、もうこれ以上話をする気はないみたい。


「ゼアルさん、ありがとうございました!」

 歩き去る背中にお礼を言うと、彼は振り向かずに森の道を進みながら片手を上げて応えてから……やがて姿が見えなくなった。

 そして僕は再び手の中に視線を落とし、紅玉ルビーのような美しい輝きを放つそれを見つめるのだった。






◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆






「あ!!あれっ!!」

「入口のところの鳥居か!?」

「か、帰ってこれた……のよね?」


 ゼアルさんと別れて再び道を進むこと暫し……30分くらいは歩いただろうか?
 とうに日は落ちて、空は茜から群青を経て闇に沈むところ。

 スマホを見れば、時刻は19時を少し過ぎたところだった。
 更に、先程まで圏外を示していた電波状態も今は正常となっている。

 そして、鳥居をくぐった先は見慣れた住宅街。
 ようやく僕たちはここまで戻ってこれたんだ。



「二人とも、門限は大丈夫か?」

「ギリギリね。少し小言は言われるかもだけど、まぁそこまで大事にはならないわ」

「僕も大丈夫だよ」

 ウチはそこまで五月蝿くはない。
 もう少し遅かったら流石に心配するだろうけど。

「そっか、良かった。じゃあ帰ろうか」


 僕たちは三人とも家は近所同士、帰る方向は同じだ。
 少し足早に帰路に着く。





 こうして、朝の妖精との邂逅から始まった不思議体験は終わりを告げた。
 レンヤじゃないけど、もっと色々と調べてみたい気持ちはある。
 だけど、ちょっと僕たちの手には負えない危険性がありそうだし、冒険はここまでにしておこう。
 明日から再び何の変哲もない日常が続いていくんだ。




 この時の僕は、そう思っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

OLサラリーマン

廣瀬純七
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...