ファンタスティック・ノイズ

O.T.I

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お持ち帰り

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 千現神社からの帰り道。
 辺りはすっかり暗くなり街灯が住宅街の道を照らしている。
 それぞれが未だに不思議な体験の余韻に浸っているのか……お互いに無言で、その歩みも足早だ。

 しかし、その沈黙をスミカが破った。


「ゆ、ユウキ……あなた……そ、それ……」

 隣に並んで歩いていた彼女は、何気なく僕の方を見たと思えば……突然立ち止まり、唖然とした表情で、僕の頭上を指さしながら言う。
 スミカの視線を追ったレンヤも、同じように驚いて目を丸くしている。


「え?な、なに?……僕の頭の上になにか?」

 二人の視線の先、僕の頭上に手をやるが、特に何もない……と思えば。

『キャハハ!!』

 と言う笑い声とともに、小さな生き物の姿が視界に飛び込んできたではないか。

「う、うわっ!?な、なに!?」

 僕が慌てて後ろに飛び退ると、その生き物……可愛らしい女の子の姿をした妖精が、楽しそうにはしゃいでいた。


「よ、妖精……付いてきちゃったの?」

 困惑する僕たちをよそに、彼女 (?)はパタパタと蜉蝣かげろうのように透き通るはねを羽ばたかせてふよふよと彷徨ってから、僕の右肩にとまった。
 さっき頭の上にいたらしい時は気が付かなかったけど、今は微かな重みを感じる。
 幻なんかではなく、確かな存在感をもっていた。


「……あらら、ユウキに懐いちゃったのかしら?」

「う~ん……どうやら、そうみたいだな」

「懐いたって……なんで僕に?」

 釈然としないまま肩に乗った彼女を見つめると、やはり嬉しそうに手を伸ばして、僕の頬をムニムニし始める。
 ……やめれ。


「でも、ほら、ユウキって昔から犬とか猫とか……というか動物全般に妙に懐かれるじゃない?」

「あぁ……確かに。鳥まみれになってた事もあったよな」

「あ~!あったあった!あれは傑作だったわね~」

 あったね、そんな事が……
 公園のベンチに座って居眠りしていたらいつのまにか。
 起きたときビックリしたよ。


「ん~……でも、このまま連れて帰る訳にもなぁ……と言うか、キミ、喋れるの?」

 見た目は人型だし、コミュニケーションが取れないかと思って話しかけてみるが……

『?\&+#\%\?』

 彼女は首を傾げて、何らかの言葉らしきものを喋った。
 うん、さっぱり分からない。
 異世界の存在なんだから当然といえば当然だ。

 ……あれ?
 じゃあ、なんでゼアルさんには言葉が通じたんだろう?
 まあ、友人に会いに来たと言ってたから、この世界は初めてじゃないのかもだけど。




 とにかく、どうしたものか……と、立ち止まって考えていると。

「あら、あんたたち。今帰り?」

 通りがかりの誰かが僕たちに声をかけてきた。

 と言うか、この声には聞き覚えがある。
 振り向いてみれば、果たしてそこには想像通りの人物が立っていた。
 レンヤのお姉さん、連華レンカさんだ。
 彼女は僕たちが通う高校の卒業生で、今は確か地元の大学に通っているはず。
 レンヤのお姉さんだけあって、とても美人である。

 そう言えば顔を合わせるのは久しぶりかもしれない。


「うげ……姉貴……」

「何よ、お姉様に随分なご挨拶じゃない?まあ、愚弟はともかく……二人とも久しぶりね。元気してた?」

「お久しぶりです、レンカさん」

「ご無沙汰してます」


 嫌そうなレンヤをよそに、レンカさんと僕とスミカは挨拶を交わす。

「あんたたち三人が揃ってるところは本当に久し振りに見たわね。中学の頃はしょっちゅうだけど……高校生ともなると、何かとお年頃だものねぇ?」

 どこかからかうように彼女は言う。

 ん~……確かに高校に入ってからは三人で遊びに行くとかは少なくなったけど、別に……

「別に疎遠になったわけじゃないですよ。学校でも普通に話はしてますし。でも、確かに三人で出かけるのは久し振りかもしれませんね」

 僕と同じことを考えていたらしいスミカが答える。


「そう。今も仲良くしてるのね。良かったわ。じゃあ、以前みたいにたまにはウチに遊びに来てちょうだい」

「あはは……そうですね。まぁ、ユウキと一緒なら」

 幼なじみとは言え、年頃の女の子が一人で男の家に遊びに行くのは何かと抵抗があるだろうね。



 ……と、普通に話をしているけど、何だかおかしい。
 それが何かはすぐに分かった。

 今も変わらず僕の右肩には妖精が座っている。
 レンカさんの視界にも入ってるはずだ。

 なのに……彼女は全くそれに触れない。
 見えてないはずはないと思うのだけど……


「……なあ、姉貴。ユウキの肩のやつ……見えてないのか?」

 同じ疑問を持ったらしいレンヤがそれを口にする。

「え?ユウキちゃんの肩?……何よ、何もないじゃない」

 やっぱり……お姉さんには見えてないんだ。
 レンカさんの答えを聞いてそれを確信した僕たちは、思わず顔を見合わせた。

「やだわ二人とも……レンヤのオカルト趣味が伝染っちゃったの?」

「「あはは……」」

 僕たちの様子を怪訝に思ったレンカさんは、そんな事を言う。
 まぁ、そう思われても仕方がないけどね。
 取り敢えず笑って誤魔化しておく。


「ふぅん?……あ、いけない。私はもう行くわ。あなたたちも早く帰りなさい。レンヤ、ちゃんと送ってくのよ」

「あれ?姉貴は帰らないのか?」

「デートよ、で・ぇ・と。じゃね~」

 そう言ってお姉さんは手をヒラヒラさせ、僕たちが向かっていた方とは反対方向に歩き出した。



「「「…………」」」


 う~ん、オトナだね……
 僕はぼんやりと、立ち去るお姉さんの背中を見つめていたが、やがてその姿も見えなくなった。




「どういう事なんだろうな?見えないふりをしていた訳でもなさそうだが……」

「そうね……おかげで私たちも同類って思われちゃったわ。それとも、私達が幻覚を見ているだけとか?」

「三人とも同じ幻覚見るなんて考えにくいんじゃないかな?それより……」

 僕はそう話しながら、何となく肩の妖精に手を伸ばして、指先で頭を撫でる。
 そうすると彼女は目を細めて気持ちよさそうにしている。
 ……かわいい。


「この子が何らかの力を使って、僕たち以外には姿が見えないようにしているとか?」

「『何らかの力』って?」

「いや、分からないけど。でも、ドラゴンが人型になるのに比べればおかしくないんじゃない?」

「確かに。それに……妖精ってのは心が汚れた大人には見えないと言うしな」

「何気にお姉さんをディスってるよ、レンヤ…………と、早く帰らないと」

「結局、そいつはどうするんだ?」

「う~ん……他の人に見えないなら、連れて帰ってもいいかな……?キミ、家に来る?」

 言葉が分からないと知りつつも、取り敢えず当人に確認してみるが……

『${π×√÷×$|?……π|•^^°!!!』

 おや?
 言葉が通じたのかどうかは分からないけど、何となく喜んでいるような感じがするね。

「なんか喜んでるみたいね」

「だね。じゃあ一緒に帰ろうか」

『√÷¢|¢××^$!!』

 僕の言葉に、彼女は肩から飛び上がって満面の笑顔で喜びをあらわにした。


 ……ま、たぶん気まぐれだろうし、飽きたらそのうち帰るかな?
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