【完結】剣聖と聖女の娘はのんびりと(?)後宮暮らしを楽しむ

O.T.I

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剣聖の娘、王都に行く

帰路

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 辺境伯領の領主デニスとの面会を終えたエステルとジスタルの父娘は、領主邸を出て帰路につく。


 田舎育ちのエステルは、今回初めて領都ウィフニデアにやって来たのだが……

「やっぱり大きな街だよね~、お父さん!王都はもっと大きいの?」

 これまで村の外に殆ど出たことがなく、精々が近隣の町に買い出しに行く程度であったエステルは、領都に到着した時と同様にキョロキョロと街の様子を物珍しげに観察しながら言う。

 ウィフニデアの街は辺境にあるとは言え、流石に領都と言うだけあって大きな街だ。
 石造りの2~3階建て建物が立ち並び、多くの人が行き交う賑やかな町並みは、エステルにとっては大都会そのもの。
 都会暮らしに憧れがあるわけでも無い彼女であっても、歩くだけでワクワクするのだった。


「王都か……まぁ、こことは比べ物にならないくらいに大きな街だぞ。人も桁違いに多いしな」

「ふわぁ……想像できないなぁ~」

 剣術一筋のエステルであっても、どうやら大都会への憧れのようなものが芽生えつつあるらしい。
 その瞳は好奇心でキラキラと輝いていた。


 ジスタルはそんな娘の様子に苦笑いする。
 敢えて水を差すような事は言わなかったが……

(……どうにも心配だ。我が娘ながら、世間知らずで人を疑うことを知らんからなぁ……)

 内心でそんな事を考える。

 仮に母親の許可を取り付けたとして……一人で王都に出すのは何とも躊躇われるのだった。




 そうこうしているうちに、父娘は街の入口までやって来た。
 ウィフニデアは国境近くの街であり、防衛のために街の周囲をぐるりと街壁が囲っている。
 とは言っても、隣国とは近年は友好関係にあり、その機能は専ら辺境の魔物の襲撃に備えるものとなっていた。


 外壁には大きな門が設けられ、門の前は広場になっている。
 そこは乗り合い馬車の発着場も兼ねており、領都周辺の町や村に向かう馬車に乗るため、多くの人でごった返していた。



「帰りも走るの?」

「ああ。チンタラ馬車に乗ってたんじゃ、時間がかかってしょうがないからな。自分で走ったほうが速いだろ」

「うん!良い鍛錬になるしね!」

「……ああ。(今更だが、常識を教えた方が良かったかもな……)」


 魔物が多く蔓延る辺境の地では、護衛が付き、魔物よけの魔導具も備えている乗り合い馬車を使うのが普通だ。
 馬車があるのであれば、よほど腕に覚えがなければ単独で行動するという選択肢はあり得ない。


(……まぁ、いいか)


 そのあたりの感覚はジスタルも、エステル程ではないが非常識ではある。
 娘に言った通り、お金を払ってまで足の遅い馬車に乗る事が我慢ならないのだ。


 彼らの住むシモン村は、通常であれば乗り合い馬車で三日かけて最寄りの町まで行き、そこから更に徒歩で半日の場所。
 辺境領の中でも特に辺鄙な場所にある開拓村だ。

 そのような場所には当然産業らしい産業などなく、狩りや細々とした農業で生計を立てるのが精々で、普通に考えれば貧しい村だと思うだろう。

 しかし、シモン村は貧困に喘いでいるということは全く無く、むしろ平民としては豊かな暮らしをしている。

 人々にとって脅威となる辺境の強力な魔物は、倒すことができれば非常に高価な魔物素材を入手できる。
 そう言った素材を行商人に売却することで、かなりの収入を得ているのだ。




「おい、お前たち!!二人だけで出る気か!?危険だぞ!!」

 父娘が門から外に出ようとした時、年配の門兵が声をかけてきた。
 特に義理はないはずだが、心配してくれるあたりかなり良心的な人物のようだ。

 だが、声をかけられたジスタルは何て事も無いように返す。

「大丈夫だ。俺達はシモン村の者だ」

「シモン村の……では、余計な心配だったな」

 村の名前を聞いただけで納得し、あっさりと引き下がる門兵。
 名前を聞いただけで問題ないと判断される村とは一体……

 ともかく、父娘はウィフニデアの街をあとにして駆け出した。


「おお~……流石はシモン村の者だな。あっという間に見えなくなってしまった」

 街壁の門兵は、土煙を立てて物凄いスピードで彼方へと消えた父娘を見送って、そんな呟きを漏らすのだった。


















「ん……?」

 見通しの良い草原を猛スピードで疾走するジスタルは、行先に何らかの異変の気配を感じ取った。


「父さん、アレ!!」

 そして更に、エステルは猛禽類並に優れた視力によって、遥か彼方の地平の先で起きている事態をいち早く察知する。
 ……この娘は本当に人間なのだろうか?


「魔物か?」

「うん!!馬車が襲われてるみたい!!助けなきゃ!!」

「護衛が居るはずなんだが……」

「怪我してるみたい!!あれは……『リューザス』だ!!3体いるよ!!」


 リューザスとは、辺境の魔物の一種で、二足歩行で駆ける巨大なトカゲだ。
 非常に俊敏で力も強く、肉食だ。

 卵から孵して飼い馴らせば、馬よりも優れた移動手段になり得るが……野生のそれは非常に獰猛で、戦う術を持たない人間にとっては大変危険な魔物である。


「3体は流石にキツいか。よし、行くぞ!!」

 そうしてる間にもスピードを緩めずに走っていた父娘。
 もうジスタルにも戦闘の様子が見えてきた。



 どうやら護衛は4人。
 しかし、一人は負傷して馬車の近くに蹲り、残りの3人が何とか魔物に対処しているところだった。


 父娘は彼我の距離を一気に駆け抜け、それぞれ魔物に肉薄する!


「ふっ!!」

「やぁっ!!」


 駆け抜けるスピードそのままに、父娘が抜き放ちざまの剣閃を見舞う!!


 ザンッ!!

 ザシュッ!!


 完全に不意を突かれたリューザス二体は悲鳴を上げる間もなく、その太い首を一太刀で斬り落とされて絶命する。
 切断面から大量の血飛沫が舞うが、父娘は瞬時に駆け抜けて返り血すら浴びることもない。


 そして、即座に反転。

「「せやぁっ!!」」

 ザザンッ!!!

 残る一体を、父娘の返す刀が同時に斬り裂いた!!




 3体の魔物は瞬く間に撃退され、それぞれと対峙していた護衛たちは、あまりの出来事にポカン……とした表情となるのだった。



















「いや、助かりました。何とお礼を言えば良いか……」

「いや、たまたま通りがかっただけだ。礼には及ばんよ」


 助けた相手はどうやら行商人で、荷物を満載にした荷馬車と、彼の家族が乗る馬車で旅をしているようだった。
 聞いた話によれば、ウィフニデアで護衛を雇ったあと、辺境の村々を回る予定だとか。



「……『慈悲深き女神に我はこいねがう。傷付きたる者に慈愛の御手をかざし、その御力にて癒やし給え……』」

 ジスタルと行商人が話をしている間、エステルは負傷した護衛たちの治療に当たっていた。
 彼女が詠唱して傷口に手をかざすと……なんと、暖かな光が溢れ、たちまち傷を癒やしていくではないか。


「おぉ……娘さんは女神の加護をお持ちですか!癒やしの奇跡を見るのは初めてですぞ」

「あぁ、妻が元聖女でな……彼女から手解きを受けたんだ」

 治療の様子を見守りながら、ジスタルは答える。

 彼の妻……エステルの母であるエドナは、この国で信仰されている女神を祀る神殿の聖女であった。

 癒やしの力を持つ者は女神の加護を受けているとされている。
 それは決まって女性であり、聖女と呼ばれていた。
 神殿は聖女達を集め、その癒やしの力を人々に施して信仰を集めているのだ。

 聖女はとても希少な存在であり、神殿も高待遇で迎え入れる。
 なので、エステルや母エドナのような在野の聖女というのは珍しい存在と言えるだろう。


(まぁ、神殿も結構胡散臭いところがあるからな……)

 ジスタルは、かつての『事件』を思い出して、苦々しい表情となるが、頭を振って直ぐにそれを頭から追い出した。



「お父さん、終わったよ!!」

 護衛達の治療を終えたエステルがにこやかに報告する。


「すまない、助けてもらったばかりか怪我の治療まで……お礼と言っては何だが、俺たちの報酬はあんた達に……」

 恐縮仕切りの護衛のリーダーらしき人物がそう言いかけるが。


「いや、気にするな。俺たちが勝手に手出ししただけだしな……横殴りと言われても文句は言えん。状況的に、加勢しなくても何とか切り抜けられただろ?」

「そんな事は……!いや、そうかもしれないが……さらに大きな怪我を負っていた可能性が高い。本当に感謝してるんだ」


 どうやら護衛たちはかなり良識的な者たちのようだ。
 戦いを生業にする者は荒くれ者が多いのだが、ジスタルは彼らの態度に好感を覚えた。


「気持ちだけ受け取っておく。あんたらが護衛の任務を全うしていたのは確かなんだから、報酬はしっかり貰うと良いさ」

 ジスタルの言う通り、彼らがしっかり護衛を務めたからこそ、行商人とその家族、そして荷物も無傷だったのだ。


「……ありがとう。お嬢ちゃんも、傷を治してくれてありがとうな」

 改めて護衛たちは父娘に礼を言った。


「どういたしまして!」

 そしてエステルは朗らかに応えるのだった。





















「さて、それじゃあ俺達は先に行かせてもらう。次の町はもうすぐそこだから大丈夫だろ?」

「ああ、問題ない。そちらも気をつけてな」

「シモン村の方でしたね。後日伺うと思いますので、よろしくお願いします」

「じゃあね~!!」

 そして父娘は行商人一行に別れを告げて、再び駆け出した。








「……行ってしまった。凄い連中だったな」

 あっという間に見えなくなった父娘に度肝を抜かれた護衛のリーダーが、思わずそんな呟きを漏らす。

 他の者はそれを聞いて、呆然としたまま頷くだけだった。

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