18 / 151
剣聖の娘、王都に行く
王城見学
しおりを挟む騎士団登用試験まで、あと数日となったある日。
ここ数日、エステルとクレイは王都を散策して土地勘を養っていた。
そして、本日は……
「……本当に大丈夫か?」
「大丈夫だって!!私は一度通った道は忘れないよ!」
「……お前、一度行った場所なんか興味無いだろ」
「シモンの民たる者、常に開拓者の精神を持たないと!」
「言ってる事が矛盾してるのに気付いてくれ……」
二人が何を話しているかといえば……
クレイが今日は図書館に行ってみたい、と最初提案したのだが、全く興味がわかないエステルが「だったらそれぞれ単独行動にしよう!」……言い出したのだ。
何かと小姑のようにうるさいクレイの目から離れて伸び伸びしたい……と思ったわけではない。
……はず。
「迷子になったら適当に彷徨くんじゃなくて、巡回の兵士とかに聞くんだぞ。宿の名前は分かってるな?」
まるで小さな子供に言い聞かせる母親のように何度も確認するクレイ。
「も~う、分かってるって!!うるさいなぁ~」
……やはり、少しうるさいと思っていたようだった。
「ん~……のびのび~!ふ~ふふんふん~ふ~……」
クレイと別れたエステルは、賑わいを見せる街路をひとり歩いて行く。
調子外れな鼻歌すら飛び出すほど開放感を感じているようだ。
……散々クレイにおんぶに抱っこだった癖に、随分現金なものである。
「さぁ~て、どこに行こうかな~。まだ行ってないのは……あっちの方かな?」
早速、開拓者精神とやらを発揮することにしたらしい。
複雑に入り組んだ街の街路を迷いなく進んでいくエステル。
完全に直感で道を選んでいるが、エステル・シックスセンスがポンコツであることを彼女は自覚していない。
果たしてどうなる事か……
「あれ~?随分人が少なくなったね……」
暫く街を適当に歩いてたエステルだったが、あれほど賑やかだった喧騒がいつのまにか遠ざかっていた。
周囲の建物も一つ一つが大きく、閑静な住宅街といった雰囲気だ。
「何か、デニス様のお屋敷みたいなのがたくさんある……あんまり面白そうな場所じゃないかな?……ん?」
キョロキョロと辺りを見回しながら歩いていたエステル。
ふと、彼女はある一点を見つめる。
どうやら何か彼女の興味を惹くものがあったようだ。
「あれってもしかして……お城かな?」
エルネ城は宿泊している宿からも遠目に見えていたが、随分近くまでやって来たらしく、その威容がはっきりと確認できた。
「あそこに王様がすんでるのか~……よし、近くで見てみよう!!」
自分が住む国の王様など、彼女はいまいちピンと来ていない。
ただ、彼女が騎士に興味を持つきっかけとなったのは、デニスから『若き王はかなりの実力者』だと聞いたからだ。
父やデニスは呆れていたが、いつか手合わせしてみたい……と、彼女は本気で思っていた。
俄然興味が湧いてきた彼女は、逸る気持ちのままに足早になって王城を目指すのだった。
そしてやって来たのは王城前の大広場。
先程までの閑散とした雰囲気から一転、観光客らしき多くの人々により再び賑わいが見られるようになった。
「おぉ~……さすが王様が住んでるところだね~。凄く大きい!!この前見た神殿よりも大きいな~」
間近に王城を見たエステルは目を輝かせる。
大広場から王城に続く城門には門番の兵が立っているが、門は大きく開け放たれていて自由に出入り出来るようだ。
その先、前庭を挟んで優美かつ壮大な城が建っていた。
ここまで間近に来ると、その全容を全て視界に収めきれないくらいに大きな城だ。
「へぇ……中に入れるんだ~。折角だから見学してこうっと」
エルネ城は王の居城というだけでなく、国政の中心であり、行政手続きの場でもある。
そのため、一般に開放されている区画までは自由に出入りすることができ、多くの観光客も訪れているのだった。
「こんにちは~!!お疲れ様です!!」
元気な挨拶をしながら城門をくぐるエステル。
門番の兵士たちは、美少女に声をかけられ満更でもない様子でにこやかに手を振って応える。
人の流れに乗って進むと、まず道の両側に綺麗に整えられた庭園が出迎えてくれる。
そこも自由に入ることが出来るようで、そこかしこに休憩用のベンチや四阿が設けられて憩いの場となっている。
さらに進むと、いよいよ城の中に入っていく。
高いアーチ状の天井をもつ広い廊下が真っ直ぐ続き、暫くすると広大な玄関ホールに辿り着く。
ここは市民の行政上の各種手続きを行う場所となっていて、観光客に混じって一般市民らしき人たちもちらほらと確認できた。
「ふぅん……お城の中ってこんななんだ~……」
感心した様子でキョロキョロと辺りを見回しながら、さらに奥に進もうとする。
その時……
「……ん?君は……エステルじゃないか?」
突然、エステルに声をかけてくる者がいた。
彼女が声がした方を振り向くと、そこにいたのは……
「あ……アランさんじゃないですか!!こんにちは~!!」
「あぁ、こんにちは。……どうしたんだ、こんなところで?一人か?」
「はい!!今日はクレイとは別行動です!!」
思いがけず知り合いと出会ったエステルは、嬉しそうに答える。
「そうなのか。……ふむ、だったら俺がこの城の中を案内しようか?」
少し考えてから、アランはそんな提案をする。
……彼の目が一瞬、怪しげな色を見せた事に、エステルは気が付かなかった。
「え、いいんですか?ぜひお願いします!!」
アランの提案に、エステルは悩むこともなく即座に返事をする。
彼女の中に遠慮という言葉はない。
「よし、それじゃあ案内しよう」
こうして、エステルはアランの案内のもと、王城見学を行うことになるのだった。
27
あなたにおすすめの小説
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~
いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。
地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。
「――もう、草とだけ暮らせればいい」
絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。
やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる――
「あなたの薬に、国を救ってほしい」
導かれるように再び王都へと向かうレイナ。
医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。
薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える――
これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
過労死コンサル、貧乏貴族に転生す~現代農業知識と魔法で荒地を開拓していたら、いつの間にか世界を救う食糧大国になっていました~
黒崎隼人
ファンタジー
農業コンサルタントとして過労死した杉本健一は、異世界の貧乏貴族ローレンツ家の当主として目覚めた。
待っていたのは、荒れた土地、飢える領民、そして莫大な借金!
チートスキルも戦闘能力もない彼に残された武器は、前世で培った「農業知識」だけだった。
「貴族が土を耕すだと?」と笑われても構わない!
輪作、堆肥、品種改良! 現代知識と異世界の魔法を組み合わせた独自農法で、俺は自らクワを握る「耕作貴族」となる!
元Sランク冒険者のクールなメイドや、義理堅い元騎士を仲間に迎え、荒れ果てた領地を最強の農業大国へと変えていく、異色の領地経営ファンタジー!
異世界転移の……説明なし!
サイカ
ファンタジー
神木冬華(かみきとうか)28才OL。動物大好き、ネコ大好き。
仕事帰りいつもの道を歩いているといつの間にか周りが真っ暗闇。
しばらくすると突然視界が開け辺りを見渡すとそこはお城の屋根の上!? 無慈悲にも頭からまっ逆さまに落ちていく。
落ちていく途中で王子っぽいイケメンと目が合ったけれど落ちていく。そして…………
聞いたことのない国の名前に見たこともない草花。そして魔獣化してしまう動物達。
ここは異世界かな? 異世界だと思うけれど……どうやってここにきたのかわからない。
召喚されたわけでもないみたいだし、神様にも会っていない。元の世界で私がどうなっているのかもわからない。
私も異世界モノは好きでいろいろ読んできたから多少の知識はあると思い目立たないように慎重に行動していたつもりなのに……王族やら騎士団長やら関わらない方がよさそうな人達とばかりそうとは知らずに知り合ってしまう。
ピンチになったら大剣の勇者が現れ…………ない!
教会に行って祈ると神様と話せたり…………しない!
森で一緒になった相棒の三毛猫さんと共に、何の説明もなく異世界での生活を始めることになったお話。
※小説家になろうでも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる