23 / 151
剣聖の娘、騎士登用試験を受ける……?
試験の朝
しおりを挟むエステルたちが王国騎士団の登用試験受験の手続きを行ってから10日が経った。
今日はいよいよ試験の本番。
結局最後まで一人部屋の空きがある宿が見つからず、この日まで二人はずっと同じ部屋で寝泊まりしていた。
特に間違いは起きていない。
クレイ的には鋼の自制心なんてものも特に必要はなかった。
……健全な男子として、それはどうなのだろうか?
ともかく、朝早くから起きて支度をしなければならないのだが……
「ほら、早く起きろって!試験に間に合わないぞ!!」
「うにゅ~…………あと一日~」
「二度寝のレベルじゃねえっ!?」
エステルは本来、朝が苦手というわけではない。
むしろ誰よりも早く起きて、朝からうるさ……元気一杯である。
では、なぜ彼女がこんな状態かというと……
「どんだけ楽しみにしてたんだよ……」
今日の試験が楽しみで、興奮しすぎて眠れなかったのだ。
エステルは毎日きっちり10時間は寝ないと調子が出ないお子様だ。
「ほら、今日を逃したら次はまた来年だぞ?」
「う~……わかったよぉ……」
クレイが布団を無理矢理はがすと、彼女はようやく目をこすりながら起きだした。
寝間着が着崩れてあられもない格好だが、もうクレイの心は特に波立たない。
まったくの凪である。
「あ~……寝癖がついてんぞ。ああ、よだれの跡も……さっさと顔を洗ってこい」
「ふぁ~ぃ…………ねむ……」
完全にオカンと子供のやり取りだ。
そうやって何とかエステルに支度をさせて、二人はどうにか宿を出発することができた。
「よ~し、頑張るぞ~!!」
朝のテンションの低さとはうってかわって、元気いっぱいやる気十分のエステルだ。
まだ朝靄に煙る街路を王城に向かって二人は歩く。
騎士団登用試験は王城にある王国騎士団本部にて行われる事になっている。
「そういやお前……王城でアランさんに会ったんだっけ?」
あの日、王城の中をアランに案内してもらった事はクレイにも話している。
しかし、後宮で襲撃されたことは話をしていない。
別に隠してるわけではない。
単に忘れただけだ。
「うん!!色々案内してくれたんだよ」
「そうか……(やはり貴族……それもかなり高位だろう。それに、やっぱりコイツに惚れたのか?)」
鼻歌すら歌い出しそうな上機嫌で前を行くエステルをぼんやりと眺めながらクレイは考える。
(あまり深入りしない方が良いと思うが……これから騎士になれば、そうも言ってられないか。なんにせよ、注意はしておくか)
クレイは貴族に対して警戒心を持っている。
この国の貴族は、平民は庇護すべき者たち……という考えで、目に余るほどに横暴な振る舞いをする者は多くはないが、中にはそのような手合もいる。
だが、クレイが貴族を警戒しているのはそれが理由ではない。
エステルの両親……ジスタルとエドナが王都を出ることになった理由に貴族が関わっていると考えているからだ。
直接聞いたわけではない。
だが長年の付き合いで、彼らが貴族に良い感情を持っていない事は何となく察している。
より正確に言えば、王都の貴族……に対してだ。
そんな彼らが良くエステルを王都に出したものだ……と彼は思った。
そして、おそらくは自分の事を信頼してくれているのだ……とも。
ならば、彼らの期待に応えるためにも、この危なっかしい幼馴染は自分が守らなければ……と、彼は決意にも似た思いを抱くのだった。
二人は王城前までやって来た。
エステルが先日訪れたときは多くの観光客で賑わっていた広場も、早朝の時間帯ということもあり閑散としていた。
開け放たれて自由に出入りできた城門も、今は固く閉ざされて門番が前に立ち塞がっている。
「さて……試験場は騎士団本部ってことだが……お前一度来てるんだろ?場所分かるか?」
「ううん、騎士団本部は行ってない」
「何だ、お前のことだから一番最初に行ったのかと思ったぞ」
「っていうか、騎士団本部ってお城の中にあったんだね~」
「あ~……そういう事か……」
それを知っていれば、エステルはアランに案内を頼んでいたことだろう。
受験手続きのときにしっかり話を聞いていれば分かったはずなのだが、当然クレイに丸投げしていたエステルが知るはずもない。
「んじゃ、あそこの門番の人達に聞いてみるとするか……」
クレイは門番に話しかけて騎士団本部の場所を聞く。
どうやら城壁に沿ってぐるりと裏手に回り込むらしい。
二人は門番に礼を言って、騎士団本部へと向かうのだった。
26
あなたにおすすめの小説
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!!
お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。
皆様、お気に入り登録ありがとうございました。
現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
過労死コンサル、貧乏貴族に転生す~現代農業知識と魔法で荒地を開拓していたら、いつの間にか世界を救う食糧大国になっていました~
黒崎隼人
ファンタジー
農業コンサルタントとして過労死した杉本健一は、異世界の貧乏貴族ローレンツ家の当主として目覚めた。
待っていたのは、荒れた土地、飢える領民、そして莫大な借金!
チートスキルも戦闘能力もない彼に残された武器は、前世で培った「農業知識」だけだった。
「貴族が土を耕すだと?」と笑われても構わない!
輪作、堆肥、品種改良! 現代知識と異世界の魔法を組み合わせた独自農法で、俺は自らクワを握る「耕作貴族」となる!
元Sランク冒険者のクールなメイドや、義理堅い元騎士を仲間に迎え、荒れ果てた領地を最強の農業大国へと変えていく、異色の領地経営ファンタジー!
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる