30 / 151
剣聖の娘、騎士登用試験を受ける……?
舞踏狂想曲
しおりを挟むダンスホールに優雅な曲が流れる。
煌めくシャンデリアの光に照らされ、美しく着飾ったご令嬢たちが曲に乗って軽やかにステップを刻み、あるいは優雅に舞い、見事なダンスを披露する。
後宮審査会の最初の課題であるダンス。
王妃や側室ともなれば夜会に出席する事も多々あり、国内外の賓客の注目を浴びながら王と共にダンスを披露することになるだろう。
高貴な女性の嗜みとして以上に重要なスキルと言えるかもしれない。
男子禁制であるため、パートナーを務めるのは男装した使用人たちだ。
エステルを案内してくれたクレハの姿も見えるが、その格好は中々様になっていてまさに男装の麗人といった趣き。
中にはうっとりとして顔を赤らめているご令嬢も。
相手をする使用人の人数も限られているので、ダンスは何回かに分けて行われる。
エステルが踊るのは、最後の回となる。
さて、そのエステルと言えば……
当然ながら貴族が夜会で踊るようなダンスなど全くの未経験だ。
村祭で剣舞を披露したことはあるが、それは全くの別物だろう。
果たしてエステルはこの課題をどうやって乗り切るつもりなのか?
彼女は令嬢たちのダンスを、じっ……と真剣な表情で見つめていた。
いつも能天気で、あまり物事を深く考えない彼女にしては珍しい表情だ。
「1……2……3、はいステップ、ターン、くっついて……1……2……3…………」
常にない真剣な様子で集中して見ながら、小さな声で何事かを呟く。
普段はあまり使われないエステル・ブレーンは、これまでにないくらいにフル稼働していた。
「……あ、そう言う動きもあるんだ……リズムは……1、2……1、2…………ん、分かった」
どうやら、今踊っている女性たちの動きを覚えているようだ。
エステル的に言えば、これは『見取り稽古』である。
何と、彼女は今この場で社交ダンスの動きとリズムを覚えようとしているのだ。
果たしてそんな事が可能なのだろうか……?
その後、何度かグループが変わった後も、じっと見つめて……その動きを自分のものにしようとするのだった。
やがて、ついにエステルがダンスを披露する番がやってきた。
ダンスホールの中央へ進み出るエステル。
相手を務めるのはクレハだ。
曲が始まる前に、クレハがこっそり耳打ちしてきた。
(……いかがです?踊れそうですか?)
(あ、はい……多分、大丈夫です。……ちょっとこの靴が心配ですけど……)
信じ難いことに、エステルはそう答える。
果たして、あの僅かな時間で社交ダンスを習得したというのだろうか?
その答えは、再び流れ始めた曲によって明かされる。
前奏を聞きながらリズムを取り、主旋律に入るタイミング……クレハのリードに合わせてエステルは一歩を踏み出した。
そして、彼女たちは優雅に踊り始める。
驚くべきことに、エステルのダンスは様になっていた。
とても初めて踊るとは思えないくらい、優雅に舞い、軽やかにステップを刻む。
クレハのリードに合わせて付いては離れて、離れてはクルクルと回り、再びパートナーの腕に抱き寄せられる。
ぎこちなさも全く感じられず、周りの令嬢と遜色ないどころか、むしろ抜きん出てさえいた。
先に踊り終わった令嬢たちも二人のダンスに注目し、そのレベルの高さに感嘆の声がどよめきとなる。
「エステル様……驚きました。ダンスがお上手でいらっしゃいますね。てっきり初めてかと思いましたが……」
クレハはエステルを案内した時の様子から、そのように考えていたが、自分の思い違いだったと反省する。
しかし。
「あ、いえ。ダンス、初めてですよ~。皆さんが踊ってるのを見て覚えました」
「え…………お、覚えた!?今、この場で……ですか?」
「はい!!頑張りました!!一番最後の回でよかったです~」
事もなげに言うエステル。
とんだチート娘だ。
エステル・ブレーンはやる気を出すととんでもない能力を発揮するのだった。
……なぜ普段から、そのやる気を剣術以外に見せないのか。
レジーナは、エステルたちのダンスを食い入るように見つめていた。
彼女の目から見ても、エステルのダンスは洗練されていて文句の付けようがないものだった。
彼女自身もダンスには自信があったのだが……同レベルで踊れる者がこの場にいるとは思っても見なかった。
「もし……?あの方のお名前は何て仰るのかしら?」
レジーナは、近くにいた使用人に質問をした。
「あの方は……エステル様でございますね。ニーデル辺境伯領のご出身であると伺っております」
「まぁ……驚きましたわ」
辺境の出身と聞いて、レジーナは驚きをあらわにする。
そして、道理で王都の社交界では見かけなかったはずだ……と思った。
彼女は知る由もないだろう。
あの見事なダンスを披露しているのが、ついさっき覚えたばかりの……本来だったら素人ですら無いということを。
そして、エステルが平民であるということも、彼女の想像の範疇ではなかったはずだ。
26
あなたにおすすめの小説
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
過労死コンサル、貧乏貴族に転生す~現代農業知識と魔法で荒地を開拓していたら、いつの間にか世界を救う食糧大国になっていました~
黒崎隼人
ファンタジー
農業コンサルタントとして過労死した杉本健一は、異世界の貧乏貴族ローレンツ家の当主として目覚めた。
待っていたのは、荒れた土地、飢える領民、そして莫大な借金!
チートスキルも戦闘能力もない彼に残された武器は、前世で培った「農業知識」だけだった。
「貴族が土を耕すだと?」と笑われても構わない!
輪作、堆肥、品種改良! 現代知識と異世界の魔法を組み合わせた独自農法で、俺は自らクワを握る「耕作貴族」となる!
元Sランク冒険者のクールなメイドや、義理堅い元騎士を仲間に迎え、荒れ果てた領地を最強の農業大国へと変えていく、異色の領地経営ファンタジー!
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる