45 / 151
剣聖の娘、後宮に入る……?
その頃の男たち
しおりを挟むエステルが後宮で晩餐会に臨んでいるころ……
クレイは何故かギデオンと一緒に食事をしていた。
場所はクレイ(と、本来はエステルも)宿泊している宿の近く、歓楽街にある酒場兼食堂だ。
歓楽街と言っても色街などではなく、彼らが入ったような店が集まった区域で、治安もそれほど悪い訳では無い。
酒に酔った客たちの陽気で賑やかな声で、店内は喧騒に包まれている。
そんな中にあってクレイは少し不機嫌そうな顔をして、目の前に座るギデオンに向かって愚痴を零しているところだった……
「まったく……一体どうなってやがる。結局アイツ、帰ってこないし。王城に泊まるだって……?何だってんだ」
騎士登用試験が終わったあと、彼のもとに伝言があった。
曰く、『エステルは今日、王城に泊まるので、君は心配せずに先に帰って大丈夫だ』……と。
「あの嬢ちゃん、お前より強ぇんだろ?にわかには信じられんが……しかし、それなら特別待遇も分からんでも無ぇ」
「ああ、それは分かる(師匠の事が知られてるなら尚更な……)。だが、それはつまり……」
クレイは複雑そうな表情で言う。
……何だか物凄くイヤそうな顔だ。
「どうした?」
「……いや、つまり、幹部待遇の可能性があるよな?」
「……腕っぷしだけでそうなるとは思わんが、そう言う可能性はあるかもな」
「うわ~……ありえね~……アイツが上司とかないわ~」
顔を顰めながらクレイは言った。
本当に嫌そうである。
これまでの彼の苦労を思えば、それも仕方がないだろう……
そしてある意味では、エステルが彼らの上司になると言うのはあながち間違ではないのかもしれないのだ。
それはおそらく、彼らの予想の斜め上を行くだろうが……
「……だが、お前の言う通り、腕っぷしだけじゃそうはならないよな。じゃあ、大丈夫か」
そう考えると少し安心するクレイだが、一抹の不安は拭いきれない。
そして、その失礼とも言えるクレイのエステル評を聞いたギデオンは、複雑そうな表情で聞いた。
「……彼女は腕っぷしだけなのか?」
「そうだ」
ノータイムで返すクレイ。
なんなら若干食い気味だった。
そして彼はギデオンに、いかにエステルが能天気で、適当で、何をしでかすか分からない娘であることを力説する。
幼い頃からの数々のエピソードを交えて……
それを聞くギデオンの表情は、段々と引きつって行くのだった…………
「そ、そうか……苦労したんだな、お前も」
「そうか、分かってくれたか!お前は良いやつだなぁ……」
これまでの鬱憤を晴らすかのように語り終えたクレイは、ギデオンの労いの言葉に薄っすら涙すら浮かべた。
そして話を聞いてくれたギデオンに感謝する。
「よし、ここは俺の奢りだ!じゃんじゃん食ってくれ!」
「……どんだけなんだよ、あの嬢ちゃん」
あまりのクレイの喜びように、むしろギデオンはドン引きしている。
「あぁ……そういやお前、アイツに惚れたんだっけ?やめとけやめとけ。苦労するのは目に見えてるぞ」
「ばっ!馬鹿野郎!べ、別に惚れてなんか!…………いや、そうだったとしても、お前の話を聞いたらなぁ……」
どうやらエステルは、自身が預かり知らぬところで、まだ始まってすらいない恋愛フラグをへし折られたようだ。
そして、その事実を彼女が知ることは二度とないだろう……
「ところで、嬢ちゃんの事は置いといて……俺等はどうだ?」
「ん?試験のことか?大丈夫だろ。俺とお前は合格間違いないさ」
ギデオンの問にクレイは事も無げに断言する。
今日集まった者たちの中では、二人が突出した力を持っていたのは誰の目から見ても明らかである。
しかし、ギデオンはクレイに手も足も出ずに敗北したため、少し不安になっていたようだ。
あんな挑発をしてきた割に、見た目によらず繊細なのかも知れない。
「むしろ試験官の騎士よりも俺等のほうが既に実力は上だと思うぞ。お前が不合格なら全員不合格だろ」
「……そうか。それを聞いて安心したよ」
ホッとしたように彼は言った。
その様子を見たクレイは、何となく気になって質問をする。
「お前、何で騎士を目指してるんだ?腕を活かすならハンターとかもあると思うが……」
「ん?あぁ……別に大した理由じゃ無ぇが……。ウチは母子家庭でな……お袋に楽させてやりたいと思ってな。ハンターなんかより、騎士の方が安定してるしよ」
「そうか……俺もな、家族は母親だけなんだ……まぁ、もともとはエステルに触発されたってのが大きいんだが、お前と同じ理由だな」
クレイは自分と同じ境遇であるギデオンに共感し、自分も同じ身の上だと明かす。
そんなふうにして、彼らは親睦を深めるのだった。
27
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
過労死コンサル、貧乏貴族に転生す~現代農業知識と魔法で荒地を開拓していたら、いつの間にか世界を救う食糧大国になっていました~
黒崎隼人
ファンタジー
農業コンサルタントとして過労死した杉本健一は、異世界の貧乏貴族ローレンツ家の当主として目覚めた。
待っていたのは、荒れた土地、飢える領民、そして莫大な借金!
チートスキルも戦闘能力もない彼に残された武器は、前世で培った「農業知識」だけだった。
「貴族が土を耕すだと?」と笑われても構わない!
輪作、堆肥、品種改良! 現代知識と異世界の魔法を組み合わせた独自農法で、俺は自らクワを握る「耕作貴族」となる!
元Sランク冒険者のクールなメイドや、義理堅い元騎士を仲間に迎え、荒れ果てた領地を最強の農業大国へと変えていく、異色の領地経営ファンタジー!
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~
いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。
地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。
「――もう、草とだけ暮らせればいい」
絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。
やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる――
「あなたの薬に、国を救ってほしい」
導かれるように再び王都へと向かうレイナ。
医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。
薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える――
これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる